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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
十章
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二人の決死

 翌日、昨晩は早めの就寝だったのにも関わらず、俺が目覚めたのは昼過ぎ。そして隣にロールの姿はなく、代わりに部屋の椅子にだるそうに腰掛けていたのは空蝉さんだった。


 彼は俺が起きたのに気づくと、椅子を引きずってベッドの近くに掛け直した。


「よぉ」


「おはようございます。なんで空蝉さんがここにいるんですか」


「なんでって、ロールがお前の治療を急げってうるさいから朝方から治してやってたんだよ」


「……なるほど。それはありがとうございます」


 肩をぐるんと一回りさせ、拳を一度ぎゅっと握りしめる。

 確かに、体が軽い。完治とまではいかないが、不自由なく動くことはできそうだ。


「ロールは……、下の階か」


 ロールの声が一階から聞こえてきている。彼女はセンの部屋にいるらしい。

 現在、宵闇さんが貸し切っているこのアパートでは、二階の部屋に俺とロールと宵闇さん、一階の部屋にセンと空蝉さんが振り分けられている。


「おう、あいつは俺がこの部屋から追い出した。

 邪魔されると集中できねーからな。結構神経使うんだよ、この能力(アクセルヒール)


「へぇ」


 治癒加速アクセルヒール。結構繊細な能力だったりするんだな。千薬さんは卒なくこなしていたけど、慣れの差だろうか。


 いや違うな……。自分から一々理由を説明するのは空蝉さんらしくない。

 治療を終えて、空蝉さんは俺が目覚めるのを待っていた。ということは俺に何か用事があるということだ。だからロールを追い出した。

 丁度いい。俺も空蝉さんには聞きたいことがある。


「ロールと言えば、ありゃあ完全にお前に依存しちまってるな。大丈夫かァ?」


 空蝉さんがそんなことを嬉しそうな声で言ったので、思わず俺は彼の顔をまじまじと見た。


「なんでそんなこと分かるんですか?」


「お前が寝込んでた10日間もずっと死音死音煩かったからだよ」


「……」


 空蝉さんの言うとおり、ロールはもうダメだ。弱すぎる。

 組織という鎧が剥がされて、彼女の自信は失われてしまった。



「あの感じだと、扱い易くなったんじゃねぇの。そういう問題じゃねーか」


 扱い易いかどうかは問題ではない。この先生き残る力があるかどうかが重要だ。


 しかし察しが良すぎるな、この人。


「……空蝉さん、もしかして昨日のあれ、聞いてたんですか」


「おうよ」


 あの時、空蝉さんの音はちゃんと自分の部屋から聞こえていた。

 壁越しに聞こえるようなトーンでは話してはいなかったし、まさかこの人。


「俺の能力ですか?」


「ああ、借りてるぜ」


 ということは、俺が眠ってる間にコピーしたのか。

 音支配が二人もいれば、感知という意味では俺の負担が減って楽なのだが、それより……。


「こんな能力より、宵闇さんの能力をコピーするべきだと思うんですけど」


「それがなァ。試してはみたんだぜ? でもあれは無理だ。あれは、コピーしていきなり扱える能力じゃねぇ。いやぁ、使いたかったんだけどねぇ」


 ああそうか。俺の能力をコピーしたなら、空蝉さんの性格は反転してあっちの空蝉さんになっているはず。

 そうなっていないということは、2回コピーしてまた戻ったんだな


「それに、宵闇のテリトリーだと"闇黒"は俺に従ってくれねぇ。要するに、干渉するんだよ」


「なるほど」


 適当に頷きつつ、俺はベッドから降りて立ち上がった。

 そしてキッチンまで歩くと、コップに一杯水を汲んでそれを飲み干す。


 一息ついて、キッチンに持たれかかり、俺は再び空蝉さんを見た。


「話は変わりますけど、実はちょっと、空蝉さんに一つ聞きたいことがあるんですよ」


「奇遇だな。俺もだ」


「でしょうね」


 言うと、彼は愉快そうに椅子を回転させてこちらを向く。

 やっぱり、俺に用事があったんだな。


「お先にどうぞ」


 俺は手のひらを空蝉さんに向けて、催促した。


「いや、お前から話せ」


「分かりました。では、先に聞かせてもらいます。

 空蝉さんはぶっちゃけなんで俺達に付き合ってるんですか?」


 聞きたかったことというのはこれだ。

 Anonymousでも放浪組だった空蝉さんが、俺達と行動を共にしている理由。


 俺やロールやセンが行動を共にするのは、生存率を上げるため。

 しかし、いくら指名手配されているとはいえ、単騎で円城寺大将に挑むような命知らずが今更そのスタンスを崩している理由はなんだ。

 それに、Anonymousにいたときから自由奔放に暴れまわっていた空蝉さんは、元々顔写真付きの指名手配がされている。

 状況としては、多少厳しくなった程度で、彼にとっては以前と変わらないはずだ。


 だから、彼がここでこそこそ暮らしているのに違和感を感じる。


「オーライオーライ。それなら俺の"聞きたかったこと"を聞けばスッキリするぜ。聞きたかったことっていうか、提案だな」


「提案?」


「ああ。死音お前、俺と組まねぇか?」


 コトリとシンクにコップを置いて、俺は腕を組んだ。そして考える。

 この人、一体何を考えてるんだ?


 組むってなんだ。色々考えられるが、宵闇さん達を裏切るってことか?


「なんか色々と意味不明なんですが、一旦置いといて。……それが俺達と一緒に行動してる理由ってことですか? 全然スッキリしないんですけど」


「理由……、理由ねぇ。そうだな。強いて言うなら、お前だよ死音。

 俺はお前のことをかァなり買っている」


「で?」


 つっけんどんな返しをしたが、正直、俺も今一番信用できると思っているのが空蝉さんだ。

 何度か命を助けてもらった訳だし、何よりお互いに自分のことしか考えていないというのが分かっているから、やりやすい。



「俺がここにいるのは、お前といると面白いからだよ。これからも、お前といればぜってえ面白えことになる。

 ハハ、だから他意はねぇぜ? 別に宵闇達を裏切るとかそんなことも考えてねぇ。

 ……ただ、俺と一緒に生き残らねえか?」


「……」


「ってことだ」

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