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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
九章
115/156

地の崩壊

 駐車場へと続く地下通路。幅、高さ共に5メートル程の空間が、駐車場のある200m先まで続いている。

 そこへ配置された俺を含む21人は、それぞれの武装をして集まっていた。


 通路の電灯が仮面を不気味に照らしている。


 ポジショニングを命じられてから30分が経っていた。

 地下駐車場の入り口はまだ突破されていない、というより見つかっていないようで、俺達のグループは待機中だった。

 煙さんからの命令は、第二防衛ラインであるここの死守。俺達は敵が来るまで待機していなければならない。


 ここは、当然21人が横に並べる広さではないので、空蝉さんが駐車場に近い一番手前、それから戦闘能力が高いとされる順に俺達は並んでいた。順番は自己評価に依存している。

 俺とロールは真ん中の辺り。ロールは前の方に行きたがっていたが、俺に合わせた。

 どうせ敵が来たら広い駐車場まで繰り出すことになるので、順番に意味はないだろう。


 アジト内部に繋がる地下通路の境目には、司令塔として煙さんの分身が控えている。そして彼の命令を聞き取り、能力でそれを伝えるのが俺だ。


 簡易出入り口の方では、すでに激しい戦線が展開されていた。聞こえてくるのは叫び声とか、衝撃音とか、そういうのだ。

 同じく第二防衛ラインであるあっちの出入り口がもし崩されたら、俺達はアジトの稼動域を半分削って最終防衛ラインまで撤退しなければならない。

 なので、陣営的にはこっちにも敵が分散していてくれた方が楽な訳だ。


「あーァ、こりゃあハズレを引いたなァ」


 空蝉さんがポツリと呟く。地下通路に音はよく響いた。

 彼はまだ敵が来ていないことに不満を抱いているようだ。俺としては敵が来ないことを祈るばかりである。

 ……地上の様子はどうなっているのだろうか。


「なァお前ら、俺あっち行っていいかな?」


 またも空蝉さんの声が響く。

 彼の言葉に誰も答えない。


 マズイ、沈黙は肯定と捉えられる。

 そう思って俺が阻止しようとしたところ、ロールが先に口を開いた。


「ダメに決まってるでしょ」


「チッ……」


 舌打ちが通路に響く。

 前方を覗き込むと、空蝉さんはズサっとその場に座り込んでいた。

 そして通路の壁にずりずりと背中を擦って、挙句の果てにはそのまま大の字になって寝転がる始末。顔の上には菅笠だ。

 まさかあの人、寝るつもりじゃないだろうな。


 さっそく協調性の無さを発揮している空蝉さんに、溜息を吐く人は多かった。


「エンジェルに向かって舌打ちか。見過ごせないな」


 溜息を吐くくらいならまだいいが、こういう人もいる。

 空蝉さんの被る菅笠を蹴ったのは月離さんだった。


「あ? テメェ何してんだ?」


「それはこっちが聞きたい」


 立ち上がった空蝉さんと月離さんのメンチの切り合いが始まる。

 地下通路にどよめきが走った。

 

「月離、やめなさい」


 ただ、彼の場合はロールの一言で場が収まるのだ。

 月離さんはロール関連でややこしくなる癖は抜けていないが、最近は大人しく感じる。俺の時はロールが止めても殺しに掛かってきたのに。


「助かったな、クズめ」


 しばらく睨み合いは続いていたが、そう言って月離さんは空蝉さんから離れる。


 しかし月離さん、幹部にはヘコヘコしていたイメージがあったが、空蝉さんは例外なのか。

 まあ空蝉さんは幹部という感じもしないしな。ただ強いだけ、みたいな。

 人格が反転すれば多少風格も出るのだが。


 ……それにしても協調性がないメンバーだ。俺を含めて。

 敵からすればここは穴だろう。煙さんは何を考えているのか。


「シラケるなァ……」

 

 興ざめといった様子で空蝉さんは再びその場に寝転がる。


 丁度そんな時、通路の先でドゴォンという衝撃音がした。


 駐車場の方からだ。劈くような音が地下通路を通り抜けていく。同時に、通路にビュウと風が吹き通った。


「来たか!」


 即座に立ち上がり、臨戦態勢に入る空蝉さん。その後方に構える俺達も、通路の先を見やった。


 敵だ。どうやら地下駐車場への入り口が見つかったらしい。爆破して入り口を広げたか。

 自衛軍の兵たちがわらわらと駐車場に入り込んでくる音が聞こえる。

 スチャ、と。俺はナイフを構えた。


「来たわね」


「ああ」


「緊張する?」


「そんなことない」


 生き延びる自信は、ある。


「そう。じゃあ死音、どっちが多く殺れるか勝負しない?」


「流石にここだと俺が不利だろ」


「ハンデをあげるわ。倍差でどう?」


「それは強気だな。分かった。負けたらどうすんの?」


「んー、それは後で考えましょうよ」


「オーケー」


「面白そうだな。その勝負、俺も混ぜろよ」


 空蝉さんが先頭から会話に入ってきた。

 彼は「前向いてろ」と、後ろの煙さんにたしなめられる。

 そろそろ喋っている余裕も無さそうなので……というよりは空蝉さんと勝負をするつもりはなかったので、俺とロールも彼に返事を返さなかった。


「俺は3倍差でいいぜ」


 空蝉さんは勝手に勝負に参加した気になったようだ。

 地下駐車場に降りてきた兵たちは、先に進むのを警戒して、少しその場に留まっている。

 200メートル強ある通路は、電灯の感覚が広く、あまり見通しが良くない。敵は俺達がここで待ち伏せしていることには気づいているだろうが、視認はできないはずだ。俺達の位置からも、敵の姿は視認できていない。


「通路におびき寄せて順番に叩け。今駐車場に乗り出せば、混戦は必須だ。徐々に乗り上げていくぞ」


 煙さんは言った。彼の言葉が全員に行き届くよう、俺は音を調整する。

 通路に返事は響かない。それぞれが頷くだけだった。


 その時唐突に、ヒュンという音が鳴る。


「伏せろ!」


 前方の空蝉さんが叫ぶ。先頭にいる分……それを差し引いても、俺より早いレスポンスを見せた空蝉さんに驚きながら、俺は体を出来るだけ低く落としていた。


 空蝉さんの言葉にコンマ5秒以内で反応できたのは、俺を含む十数人。

 反応が遅れた者の首がスパンと舞っていた。

 誰が死んだかなんて確認している暇はなかった。

 限界まで目を見開き、より多くの情報量を獲得しにいく。モーションがやけにスローに感じていた。

 視線は通路の先。俺達は先制を譲ってしまったのだ。


「煙さん! 指示を!」


 反応できた内の誰かが叫んでいた。

 指示を待たず動き出したのは空蝉さんと俺。俺に合わせてロールが地を蹴っていた。


 この直線上で、あの速度の遠距離攻撃だ。

 すぐにでも距離を詰めなければ一瞬で全滅してしまう。


「駐車場まで走れ!」


 煙さんの声が響く。

 駐車場まで出たら俺達が袋叩きにされるんじゃないだろうか。

 ……それは先頭の空蝉さん次第か。彼がどれだけ敵の陣形を崩すことができるか。


 現在、地下駐車場に入ってきている敵は100人程で、すでに通路の入り口を包囲する形で陣形を組み立てている。駐車場自体は、四方100mくらいのスペースがあって、柱と車という障害物も多く、俺としてはかなり戦いやすい地形だ。


 強化系の能力の差で、空蝉さんとロールはすでにはるか先。

 しかし、通路に突風が吹くことで、前方二人の進行は止められた。

 後ろを走っていた俺も、吹き飛ばされる。後方にいたヒキサキさんが俺の首襟をガッと掴み、受け止めた。


 ヒュン、ヒュンと。先程の攻撃が再び襲う。


「壁際に!」


 そう叫んで、強風の中、俺は壁に体をくっつけた。

 今度は俺がヒキサキさんの服を掴んで壁に誘導する。


 やってきた斬撃は3,4人の命を奪った。


 クソ、この強風で俺達を近寄らせないようにして、その間にこの斬撃で数を減らしていく作戦か。

 この数秒の間に21人いた仲間は半分まで減ってしまった。


 煙さんの分身は……、まだ生きている。

 まだ撤退を決める様子は無さそうだ。


「そよ風能力者共が!!」


 ビュオウ。

 俺達を突き放す目的で放たれていた強風が、相殺、送り返されていく。

 折紙(ストリーム)。ヒキサキさんの能力だ。

 彼は同一方向に続くある流れがあれば、それを折り返して相殺したり、その力を利用して返還したりすることができる。

 

 向かい風が追い風になった。


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