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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
九章
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閃きの崩壊

 円城寺八千代。自衛軍大将の女は応援の連絡を取った後、空蝉さんの周りをゆっくりと周回していた。

 終戦を悟った野次馬達も徐々に解散していき、人だかりは減っていく。

 俺は小さく息を吸う。


「行け」


 溜息さんがそう言った瞬間、俺とロールは同時に飛び出した。

 強化系、捨て猫の発動によって、ロールの被った帽子が少し膨らむ。


 ロールが空蝉さんを担ぎ、俺がロールの掩護とルートの指示。

 それぞれの役割は言われずとも理解できていた。


 空蝉さんまでの距離は10mと少し。飛び出してきた俺達に気づき、円城寺大将が反応する。

 10mの距離が詰まっていく。が、円城寺大将が立ちはだかったことにより、俺とロールは左右に開き、そこで立ち止まった。


 しかしその瞬間、衝撃と共に円城寺大将が地にひれ伏した。

 ズン、と地に伏す円城寺大将場所を中心に半径2m近くのクレーターができる。


 これは溜息さんのプレスだ。俺とロールと空蝉さんはギリギリ巻き込まれていない。

 流石溜息さんといったところだが、それより驚くべくは円城寺大将だった。


 彼女は生きている。


 普通、人体でこれを喰らえばトマトを踏みつぶしたようにぐちゃりと潰れるはずなのに、あろうことか彼女は、溜息さんのプレスの中で体を動かし、立ち上がろうとさえしているのだ。


「溜息、お前かァ……!」


 円城寺大将はクレーター外の石畳に手を掛け、溜息さんを睨んだ。

 俺は……、おそらくロールもだろう、円城寺八千代を溜息さん一人に任せていいのだろうか、という懸念をしていた。


「何をしている。早く行け」


 溜息さんのそんな声を聞いて、俺とロールは一度だけ視線を合わせた。そして俺達の意思は再指標される。


 俺は道の先を行く。

 ロールはクレーターを避けて空蝉さんの元に急ぎ、その体を担ぎ上げた。そして俺の後を追った。

 ロールはすぐに俺を追い越し、前を行った。とにかく距離を取るため、まずはひたすら街へと真っ直ぐに進む。


 後ろでは早くもプレスから逃れた円城寺大将と溜息さんの戦闘が始まっていた。

 上空で行われた先程の戦いとは違い、地上で行われる戦闘は、次々と周囲の物を破壊していき、その激戦には残っていた野次馬もかなりの距離をとった。


 俺とロールは駐車場へと急ぐ。

 なるべく人通りの少ない道を選んで、俺達はボロボロの空蝉さんを運んだ。



 やがて駐車場に着くと、ロールは後部座席に空蝉さんを放り込み、そのまま運転席に乗り込んだ。俺が助手席に乗り込むと、すぐに車は発進する。

 溜息さんとの音を繋ぐため、俺は車窓を少し開けた。


 その時――


「っざけんなババアォラ!!

 ……ぁ? なんだここ?」


 後部座席から叫び声が響き、俺とロールは空蝉さんの覚醒を確信した。


「あー……、縛っとけば良かったわね……」


 ロールは頭を押さえ、言う。彼女は発進させた車を再び駐車した。

 振り返って空蝉さんを見てみると、彼は左手で後頭部を痛そうに押さえながら、右手の破れた羽織で額から流れる血をゴシゴシと拭いていた。

 この人、中々にタフだ。


「誰だお前」


 空蝉さんは俺の顔を見て言った。


「死音です」


「シオン……?」


 呟いた彼は運転席のロールの方に視線を移して閃いたような顔をする。


「ロールじゃねぇか。ってことはAnonymousか!」


 どうやら彼は状況を理解したようだ。


「アンタもAnonymousでしょうが」


「ハハ、とうとう見つかっちまったワケだな!」


 あんなことしてたら見つかるに決まってるだろ。

 俺はそう思ったが、口には出さなかった。


「なんでアジトに帰ってこないのよ」


「そりゃあ、アジトにいても面白いことなんかねーからだよ。ハイドの奴だって俺の自由を認めてるだろ?」


 そんなことを言いながら、空蝉さんはおもむろにドアのロックを開けた。

 それをロールが運転席の集中ドアロックで再び施錠する。


「でも招集には応じろって言われてたでしょ。アンタ何回無視した?」


「そういや、御堂龍帥を殺ったあの作戦には参加すれば良かったな」


「誤魔化さないで。とにかく今回のは強制招集よ。空蝉、大人しくアジトに帰ってきなさい」


 ロールがそう言うと、空蝉さんははぁと盛大な溜息を吐いた。

 車に緊張が走ったのが分かる。

 これは……空蝉さんの殺気だ。


「なァロール。お前いつから俺にそんな偉そうな口を利けるようになったんだ?」


 ガッと空蝉さんは運転座席を後ろから蹴る。

 空蝉さんの唐突な気あたりに、ロールは思わず黙り込んでいた。


「…………」


「よォ……、ちょっと外出ろや。お前が俺より強くなったってんなら、言うことを聞かねぇでもねぇ」


「……いいわ。何かと理由をつけて戦おうとするところは相変わらずね、空蝉」


 ロールはドアのロックを解除して、外に出ていく。

 空蝉さんも口元を歪ませ、外に出た。


 まずい。今空蝉さんがストックしている能力は念動力ともう一つ、おそらく強化系の何かだ。

 つまり、念動力という時点でロールには分が悪い。

 それに、こんなことをしている時間はないはずだぞ。


 溜息さんの方も、円城寺大将からさっさと切り上げたいだろう。音だけでも手一杯なのが分かる。話しかけて良い状況ではなさそうだ。


 クソ、せっかく街から脱出できそうだったのに。


 とにかく、ここは俺がなんとかするしかなさそうだ。

 そう思って車から出た俺は、二人の間に割って入った。


「ちょっと待ってください、空蝉さん」


「なんだお前」


「ちょっと死音。アンタ……」


 俺はロールに手のひらを向け、彼女の言葉を遮る。


「空蝉さんはロールの能力を知ってますよね? それに対してあなたはまだ能力を一つ隠し持っている上に、ロールに対して相性の良さそうな能力をストックしている」


「……テメェ、何が言いたい?」


「それってあんまり男らしくないですよね」


「言うじゃねぇか。じゃあハンデでも設けようか?」


「違います。代わりに俺と戦って欲しいんです」


 これはロールに対する助け舟だ。

 ロールでは空蝉さんに勝てそうにない。


 空蝉さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔をして返事をする。


「なるほどな。いいぜ」


「それで、負けたら帰って来てもらいますよ。それが俺達の任務なんですから」


「なら……、死んでも文句は言うなよ坊主」


 楽しそうな顔で、空蝉さんは両手を横に伸ばした。

 すると、駐車場に停まっていた車が一斉に宙に浮いた。


 死んでも文句は言うなよ、か。

 つまり、一応殺す気で行くぞってことか?


 むちゃくちゃだなこの人……。こんな人がアジトに帰ってきたら、きっと色々と面倒なことになるに違いない。

 明らかに連携とかできない人だ。放浪していてもらった方がいいんじゃないか?

 どうしてこんな人をわざわざ強制的に招集する必要がある。



 ふと、俺の中で一つの名案が浮かんだ。

 この人、任務中の事故死ってことにできないかな。



 ――無音世界(サイレントワールド)


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