悪意の紡ぎ手4
「全く、どうして魚人族達から魔導書を回収しようと思っただけなのに、あんな面倒臭い目に僕達がハブッ」
死体が未だ転がる戦場を後にしようとした瞬間に、少年が流れる血に足を取られて思いっ切り後頭部を叩き付ける形ですっ転ぶ。
しかし、見た目には思いっ切り後頭部を打ち付けた様に見えた少年が何事も無かったかのようにむくりと起き上がる。
「あー、びっくりした。痛い筈だった。"肉体の保護"の呪文を使って無かったら間違い無く大怪我してた。」
少年が言った。
「あ〜あ。やっぱりやっちゃったね〜。だから気を付けるんだよってさっき言ったのにね〜。」
ゴートが、のんびりとした口調で言った。
「ええい、打ち所は悪かったが怪我した訳じゃないんだから良いだろうにッ」
少年が言い、
「大丈夫ですか〜。頭痛くないですか?頭擦ってあげますから、早く此方へ来て下さい」
リリが手招きする。
「いや、"肉体の保護"あったから大丈夫だし、お前も血溜まりの中で正座して慈愛に満ちた表情でこっちに手招きするんじゃない。その光景を見ているだけで、何か人間として大事な物を失ってしまいそうだ。」
少年の言っている事も無理からぬ事だ。
(少なくとも…見た目は麗しい女性が、まだ死体の転がってる血溜まりの中で正座して、こっちに微笑みながら手招きする光景とか、どんなホラーだよ。)
少年は1人考える。
「…?」
本当に意味が分からないのか。
リリがしきりに首を傾げている。
「待って下さいませ〜。今行きますから〜。」
背を向けて歩きだそうとすると、置いてきぼりにされたくないと言わんばかりに立ち上がったリリを見ると戦いの返り血が付いた手足や顔の一部だけでなく、血溜まりのなかで座った所為で身に付けているロングスカートまで、流れ出た鮮血で真赤に染まっていた。
「全く、もうちょい、状況考えような?ほれ、こっちに来いよ。ほら、水場があるからな。ここならちょっと拭いたり、手を洗ったり、出来るだろ。」
そう言うと、少年が持っていた布を水で濡らして、血の付いたリリの頬や手を、優しく拭いてやっていく。
「僕に拭ける所は拭いたから後で館に戻ったら水浴びでもしろよ。」
少年が一通り拭いた後に言う。
「うふふ、有難うございますね〜。」
リリが良い事があったと言わんばかりに声を弾ませ言う。
血溜まりを見なければ、何時も通りの風景と共に少年は3人に連れ、その場を後にした。
暫く洞窟内を歩き、転位魔方陣…父は"ターミナル"と呼んでいる…まで来た所で其処から数秒の時間で皇都パルフィナに戻って来る事が出来た。
「やっと…戻って来れた…てかやっぱりあそこまで行くと遠いなさっさとベッドに横になりたい。」
少年は文句を言いつつ魔方陣を降りる魔方陣は時間を短縮するが疲労は移動した時の数割程度ながら蓄積している。
「よーしゃー、父さん、僕達は帰って来たぞー。僕は休むからなー」
「ん、ソーマか、お疲れ様だったな。まぁ、回収してきたかどうかだけ確認させろ。」
少年と比べても、幾つかしか年の変わらない見た目の年若い青年が階段から降りる様に立っていた。
青年は一体何者なのか。