02. 御伽噺 ~銀の姫君と夜の魔法使い~
『~銀の姫君と夜の魔法使い~』
昔むかし、森に囲まれた小さな国に、一人の小さな姫君がおりました。
姫君はそれはそれは愛らしく、とても優しい心の持ち主。流れる長い銀糸の髪は綺羅らかで、まるで月の光を集めて作られたかのようです。
父親である王さまと人々は、姫を〈銀月姫〉と呼び、亡くなってしまったお妃さまの分まで大切に育てました。
森の動物たちも、心優しい姫のことが大好きです。姫はたくさんの友達に囲まれ、光溢れる森で穏やかな毎日を過ごしていました。
月日は経ち、姫君は美しく成長しました。森の動物たちと無邪気に戯れ慈しむその姿は、まるで麗しき精霊の乙女のよう。
ある日、通りかかった隣国の王子が、森で偶然姫の姿を見つけました。王子はたちまち恋に落ち、姫に結婚を申し込みました。
王様さまは愛する娘に訪れた幸福に大喜びです。
ほどなくして、二人の婚礼が決まりました。
姫の幸せな未来に国中が喜びに満ちていた、ちょうどその頃。
一人の魔法使いが、国にやって来ました。
魔法使いは、誰よりも強い力を持っていました。
果てしなく暗黒に近い、闇色の外衣をいつも纏っていることから、人々は魔法使いのことを〈夜の魔法使い〉と呼び、恐れ、忌み嫌っていました。
夜の魔法使いは、卑しくも銀月の姫君に恋をしました。
心やさしく美しい姫君を、自分だけのものにしたいと思っていました。
ある夜のことです。
王宮の白いバルコニーで、緑の月に照らされる庭園を眺めていた銀月姫のもとに、夜の魔法使いが現われました。姫は王さまやお城の兵士たちに助けを求めましたが、間に合いません。
魔法使いは姫を攫い、自分の住処である森の塔に閉じ込めました。
王さまは姫を助けようと、すぐさま何人もの騎士や魔導士を塔へ送りましたが、魔法使いの魔法の力には敵いませんでした。
皆が悲しみ、どうすればいいのかと困り果てていた時です。
隣国の王子が、剣を手に立ち上がりました。
「姫は、誰よりも大切な私の花嫁です。必ずや、私が姫を助け出してみせます」
王子は塔にむかい、魔法使いと戦いました。
魔法使いは強力な魔法を仕掛けてきます。王子はそれをかわし、剣撃を繰り出しました。
激しい戦いの末、王子はついに夜の魔法使いを剣で貫きました。
魔法使いは地に倒れ、永久に起き上がることはありません。
「貴女を二度と放さない」
そう言って、王子は愛する銀月姫を、無事に救い出しました。
人々はその勇姿を讃え、銀月の姫君と並び城へと帰ってきた黄金の髪の王子を〈金の王子〉と呼び、歓呼をもって出迎えました。
こうして、王国に平和が戻り、金の王子と銀月姫はめでたく結ばれたのでした…………
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―――――― これは、この国の誰もが聞かされる童話。
ありきたりでつまらない、御伽噺。