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4話目


 両の手に荷物を持ちながら雪道を歩く。

 目と鼻の先にはもう我が家が見えている。

 街では無事に原稿を新聞社の人間に手渡す事に成功し、新聞社から受け取った金で生活の為の消耗品を買い、露店で土産を一つだけ買った。

 我が家ではユイが待っている。妙な高揚感を抱いている事に気付き、それを打ち消した。誰かが待つ家への帰宅というものが幾ら良い物だからといっても先程までのにやけた顔で帰る訳にはいかない。柄じゃないのだ。

 仏頂面で玄関の扉を開ける。

 外気と比較すれば幾分か温かい空気が出迎えてくれた。一人暮らしであればこうはいかない。

 もうすぐ日も暮れる。冬というのは日の出ている時間が極端に短い季節なのだ。

 暗い視界の中、なんとか暖炉のある居間まで辿り付く事ができた。道中、ユイの姿は見当たらなかった。自室で眠り続けているのだろう。

 暖炉に燻る火を使って蝋燭に灯りをともした。荷物の多くを居間に置き、片手に蝋燭を、もう一方の手で今晩の夕食の材料を持ち、台所へ向かった。

 街で購入したものは塩漬けの肉や堅いパン、砂糖をふんだんに使った菓子などの保存のきくものが中心だ。

 買出しに行ったばかりで豊富な食材の中から作る料理を考える。

 献立を考えながら台所を見渡すと違和感を感じた。

 普段よりも綺麗に片付いているように感じるのはユイが掃除をしたからだろう。だけれど今感じている違和感はもっと現物的な所から生じているようだ。

 思い付いて食器の数を確認する。

 減っていた。何種かの食器と野菜が。

 部屋の隅に目をやると食器であった物の残骸を片したものが見付かった。

 それを見つけるのとほぼ同時に居間の方から足音が聞こえてきた。この家には俺ともう一人しか居ない筈だ。

「すいませんでした!」

 ユイは俺の姿を見つけるやいなやすぐさま腰を折って謝罪した。

「別に構わないが」

 有形の物はいつか形を失う。きっかけとなった人間を責める気も気概も無い。

「すいません、シンの為にご飯を用意しようと思ったんですが……」

「別に良いと言っている」

 本来そんな気遣いは好まないのだけれど、空回りしたのであれば愛着も湧くものだ。

「え?」

 呆気無く赦されたことに驚いたのかユイは間の抜けた顔を俺に晒す。

「皿に対して別段思い入れがある訳でもない。あと、土産だ」

 言いながら街の露店で見つけた手頃な値段の手首を飾る為の硝子細工をユイに握らせた。

「で、でもですよ? 私は家事手伝いで本来はシンの身の回りの世話をするべきで、今はシンのお世話になってばかりで。あ、それと、お土産ありがとうございます」

 ユイは早口に言葉を並べ立てる。相当に混乱しているらしい。

「ん、なら飯を作るから」

 俺は夕食の用意を始める。

 ユイは許された事に納得がいかなかったのか、眉をしかめながら俺が料理するのを眺め続ける。

 今晩の夕食はいつもよりも少しだけ豪勢になりそうだ。


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