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黒騎士の真意

 サイアが目を覚まし、ジェンを撃退するまでの間、ルレンサ軍は押し込まれ続けていた。最先鋒を務めていたサイア(という名前のアイシャの部隊)は既に被害が大きく、指揮が困難な状況であるため、後衛であったアイシャの部隊の指揮下に入っている。

そのシンシア隊に黒騎士隊が突撃し、それを守ろうとするルレンサ軍全体に帝国軍が攻撃を加えているというのが現在の戦場の構図だった。

その最先鋒。

「キリ様、いくらなんでも前に突出しすぎじゃないですか?他の部隊まったくついて来てないですよ!」

「問題ない。いつものことでしょ?」

副官のファウムの言を軽く流しながら黒騎士は突き進む。何人ものルレンサ兵が襲いかかってくるが、キリとファウム、そして精鋭揃いの彼女の部隊には関係ない話だ。

「もらったよ。」

シンシアを射程内に収めたと判断した彼女は飛び上がり、ルレンサ兵から奪った剣を投げつけた。

「甘いわ!」

それをシンシアは手にしたセリエリオンで弾き飛ばした。だが、皆の注意が自分から離れる一瞬、それがあれば黒騎士には十分だった。ファウムすら置き去りにして敵陣に斬り込む。周りの兵たちが気付いた時には既に手遅れだった。

「あなたは、もっと甘いね。」

眼前に迫った黒騎士がその剣を振りおろした瞬間、突如としてシンシアは後ろへ引っ張られた。目と鼻の先を黒騎士の深紅の刀身が通過していく。一瞬宙を舞った後、シンシアは何者かに抱きとめられた。

「申し訳ありません。少々、……その、寝坊いたしました。」

やはりと言うべきか何と言うべきか、その影はサイア・アルレイだった。


 サイア・アルレイが現れた途端に黒騎士はその動きを止めた。サイアに対するその異様な執着を知るシャオレンはこれを好機と判断した。黒騎士隊の動きが止まった隙にシンシアの護衛にあたっている部隊を他の部隊への攻撃にあたらせれば、まだ戦況の逆転は不可能ではない。

「サイアよ、この部隊の相手は任せてよいか?」

「当然です。私はそのために戻ってきたのだから。姫様のことは任せますよ?」

うむ、任された。と答えたシャオレンに向かってサイアはシンシアを突き飛ばす。

「サイア、一人で戦ってはダメ!」

シンシアが叫ぶが、サイアは振り向かない。振り向かず、彼は言った。

「私は戦えます。勝つために。姫様、シャオレン、お気を付けください。カルザの相手はあなた達がしなければならないのだから。」

「心得た。無事で会おう。姫様、お早く……」

「駄目よ、サイア!そんなの認めないわ!ルレンサの君主として……」

私はもう失いたくない……。そう呟いたシンシアの声にサイアは答えなかった。ただ一言、ありがとうございます。と呟いたサイアは、炎剣を抜き放ち黒騎士と向かい合った。


 「ふふ、ふふふ……」

自らの眼前に戻ってきた炎帝の姿に、黒騎士は笑みがこぼれるのを禁じ得なかった。極上の獲物を守るために、手負いの獲物までもが戻ってきたのだから。

「出てこなければいいのに。死にに来たの?その傷じゃ私には勝てないでしょ?」

警戒する様子もなく、むしろ呆れた様子で黒騎士は言った。彼女は狂っているかもしれないが、常に冷静だ。全開で互角の勝負、今戦えば間違いなく自分が勝つ。そうすれば、あの王女を追って狩ることができる。

サイアは答えない。答えないまま炎剣を抜き、言った。

「……何度でも言う。お前は、間違っているよ。」

「なんですって?」

「お前の言うとおり、アルレイである私にもその責任の一端はあるのだろう。ならば、私はお前を倒すことで自分の責を果たす!」

サイアがそう叫ぶと同時のことだった。彼の手にした炎剣が一気にその火勢を強めた。

彼はまるで剣に操られるかのように剣を振り上げると、渾身の力でそれを大地に向かって叩きつけた。

「っ!」

超反応。迫ってきた炎の波を黒騎士は飛び上がってかわした。彼女のように躱すことができなかった兵士たちから幾人も炎に飲み込まれるが、そちらの扱いはファウムに任せることにした。シンシアの部隊から再び離脱した、アイシャが指揮する兵士たちの相手をしてもらわなければならない。

 それはともかくとして、今の炎帝には接近しないことには始まらないようだ。そう判断した黒騎士は姿勢を低くすると一気に距離を詰めた。彼女を迎撃するように振り払われた炎剣を、彼女も手にした剣で迎え撃った。

(重い……)

「剣は持ち主の望みに応える。……お前には礼を言わなければならない。私はお前のおかげで自分の戦う意味を見出すことができた。」

少づつ、黒騎士の剣が押し込まれていく。

「アルレイの者としてせめてもの罪滅ぼしだ、二度とお前のような者が生まれぬように、私がこの戦争を終わらせる!」

サイアが力任せに剣を振りぬき、黒騎士を吹き飛ばした。黒騎士は地に叩きつけられる。だが、彼女はその瞳に憎しみの炎を燃やして立ち上がる。漆黒の鎧、その下から覗く瞳だけが爛々と輝いて見えた。

「剣が持ち主の望みに答えると言うなら、この深紅の剣は私の望みそのものだ!私を倒す?この戦争を終わらせる?」

黒騎士が剣を構えて突っ込んできた。

「ふざけるな!お前みたいなやつがいるせいで、私がこんな真似をしなければいけないんだ!」

「まるで、黒騎士であることが嫌みたいな言い方だな。」

「当たり前だ!」

しまった、と直感した。下手なことを考えず一撃で斬り倒すべきだった。振り下ろされたキリの剣を受け止めることができず、サイアの手から炎剣が弾き飛ばされる。

「……こんなこと、したくてやってるわけないでしょ。でも、あなたなら、私の代わりに違う方法でこの戦争を終わらせることができるというの?」

剣を振り上げてキリがサイアに問いかける。だが、なぜかその姿はまったく彼に恐怖を与えなかった。仮面の奥から覗く瞳をまっすぐに見つめ返してサイアは答えた。

「その通りだ。…まだ方法もわからないが、私がお前の代わりにこの戦争を終わらせる。」


「いいよ。」

と言ってキリは剣を収めた。

「あなたの傷が治るまで待ってあげる。今戦えば私が勝つだろうけど、それじゃ私が正しいことの証明にはならないし。お互いに全力で戦って、生き残った方が正しい。」

ファウム、帰るよ。茫然と見守っていたファウム達に声をかけるとキリは部隊を率いてその場を立ち去ろうとする。

「……お前は戦い、殺しあうことでしか善悪を判断できないのか?」

「何を言ってるの?この世界の、この時代がそうじゃない。勝った方が正しいから、みんな頑張って殺し合いしてるんでしょ?」

問いかけたサイアに振り返らず答え、キリはその場を去っていく。

「明らかな命令違反じゃないですか?大丈夫なんですか、こんなことして。」

ファウムが悲鳴を上げるが、キリは聞く耳を持たない。

「サイア様……」

よくご無事で、と言わなければならないはずなのに、アイシャはうまく言葉を発することができなかった。その言葉を言わせないほどの重圧をサイアは放っていた。

「この機は逃さない。動ける者をつれてカルザの皇騎兵を奇襲し、この戦いに決着をつける。」

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