第9話『晶代の気持ち』
晶代の容態は安定し、3日間の外出許可が出た。
(この3日間どうやって過ごそうかな?)
晶代は考えていた。
出来るだけ有効に過ごしたい。自分のやりたいことを思いきりやりたい。
考えた末、晶代は母親に聞いてみた。
「お母さん、学校に行きたいんだけど…」
「あら、いいじゃない?久しぶりにみんなに顔を見せてあげたら?」
母親は賛成だった。
しかし、晶代には他にもやりたいことがあった。
その夜、晶代は春香に電話をかけた。
「もしもし、春香。明日空いてる?」
電話の奥で春香は嬉しそうに答える。
『晶代のためならいつでも空けるよー。で、どうしたの?』
「一緒に遊ぼう」
『いいよー。一緒に遊ぼう。久しぶりだね。晶代と2人で遊ぶの』
「うん。じゃあ明日の10時に心斎橋駅の改札で待ってて」
『わかった。じゃあまた明日ね』
翌日、晶代と春香は心斎橋で遊んだ。
服を買ったり、晶代の好きな初音ミクのグッズを見たり、Loftでイタズラグッズで盛り上がったりでとても楽しい時間を過ごした。
ランチの時、晶代は春香に自分の思いを打ち明けた。「春香…ごめんね」
「え…どういうこと…」
春香は突然の晶代の言葉に驚く。
「だって、あたしが浩介と付き合ってから春香に淋しい思いさせちゃったから。春香は彼氏と別れてから一人ぼっちなのに、あたし…自分の幸せばかり考えてた。入院してからもずっと春香に迷惑かけっぱなしだし…ホントにごめん」
「あたしは淋しいと思ったことなんかないよ。晶代がいてくれたらそれでいいの。それにさ、晶代はあたしが彼氏と別れた時支えてくれたし。だから晶代のそばにずっといたいの。入院中のことはその時の恩返し」「でも…あたしにかかりっきりではなくて春香も自分の幸せを見つけたらどうかな?」
「あたしの幸せ?もう見つけてるよ」
「何…?」
「晶代と一緒にいること。晶代はあたしの大事な親友だから」
「ホントに?」
「うん。だから晶代の病気が治ったらあたしに幸せいっぱいちょうだい」
「わかった。ありがとう。春香」
晶代と春香はその後はガールズトークで盛り上がった。
翌日、晶代は浩介をデートに誘った。
浩介と晶代は水族館に行った。
たくさんの魚を見ながら晶代ははしゃいでいる。
そんな晶代を浩介はいとおしく見つめている。
「浩介。手つないで」
そう言って晶代は浩介に左手を差し出す。
「いいよ」
浩介は笑顔で返事をし、右手で晶代の左手を握った。その後は手を繋いだ状態で2人は魚を見ていた。
2人は終始笑顔だった。
日が暮れ、浩介は晶代をクリスマスイブの時に行った夜景の見える公園に連れていった。
海の向こうにはあの時と同じようにきれいな夜景が広がっている。
「ここで晶代と永遠の愛を誓ったんだよな」
浩介は静かにそう言った。しかし晶代は不安そうだ。「でも…あたし約束守れないかもしれない。だってもうすぐ死んじゃうから…」
浩介は切り返す。
「バカなこと言うなよ。晶代が死ぬなんてありえないぜ。俺はずっと晶代の側にいるって決めたんだ。俺が晶代を失うなんてありえないんだよ」
「浩介…」
「だからさ、病気を治そうぜ。そして退院したら籍入れような」
「うん。ありがとう、浩介。あたし頑張るよ。初恋の人が浩介でホントによかった。こんなにあたしのこと大切に思ってくれてる人って他にはいないよ」
「俺も晶代が彼女でよかったよ。ありがとうな、晶代」
浩介はそう言って晶代を抱きしめた。
翌日、晶代は久しぶりに登校した。
「今村さん、久しぶり!」中沢先生が笑顔で晶代を出迎える。
「ご心配おかけしました」晶代は照れくさそうに謝る。
「いいのいいの。久しぶりに今村さんの顔が見れて先生嬉しいから」
中沢先生は嬉しそうに返事をする。
晶代が教室に入るとクラスメートが出迎えていた。
「晶代、お帰り!」
「今村、久しぶりだな!」「ただいま」
晶代は笑顔で返事を返す。この日のクラスは晶代がいるせいか、いつもより2倍も3倍も明るかった。
クラスメートはいつも以上にはしゃぎ、先生方もいつも以上に講義に気合いが入る。
放課後はクラス全員で飲み会をした。
クラスメート達はいつもより楽しい時間を過ごしたが、何よりも一番楽しんでいたのは晶代だった。
晶代は久しぶりにクラスメートと会えたことがとても嬉しかった。
浩介と春香は晶代を病院に送り届けた後、こんな会話をしていた。
「晶代のあんな笑顔久しぶりに見たな」
「そうですね。久しぶりにクラスメートに会えたことがいい刺激になったのではないですか?」
「そうだな。だからこそ晶代の病気は治ってほしいんだ。あいつが笑顔でいるためにはな」
「あたしも気持ちは同じです」
「なぁ、春香。晶代が退院したら何をしてあげたいか?」
「やっぱり…『お帰り』って笑顔で迎えてあげたいです。そして晶代にたくさんの幸せを与えることですね」
「そうだな。晶代を笑顔で出迎えてあげよう!」
「はい!」
2人は会話をしながら帰路についた。
それから数日後……
晶代の容態が再び急変した。
医師や看護師は懸命に処置を行い、側には晶代の母親と姉が心配そうな顔をして見守っている。
果たして晶代の運命は……!