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第7話『結婚式』

浩介達はいつものように晶代の病室を訪れる。

「晶代、元気〜?」

貴弘は調子のいい声で晶代に声をかける。

「うん、元気だよ〜」

晶代も負けじと調子よく返事をする。

「春香はさー、あたしが入院してからカップ麺ばっか食べてない?」

その言葉に春香は反論する。

「失礼ねぇ!!そんなことないわよ!」

「晶代、春香が食べてるのはカップ麺じゃなくてインスタントラーメンだ」

貴弘はフォローしたつもりだが、春香の怒りをかうことになってしまった。

「どっちも一緒だし!!貴弘も失礼なこと言うのね!」

「お前らうるさいぞ!」

浩介が怒鳴る。

「ごめんなさ〜い」

3人は浩介に謝る。

「あら、晶代。お友達?」そう言って浩介達が見慣れない女性が入ってくる。

「うん。お母さん」

どうやらこの女性は晶代の母親のようだ。

女性は浩介達に自己紹介をする。

「はじめまして。私は晶代の母の今村裕子ひろこです」

浩介達も自己紹介をする。晶代の母は浩介の方を向き笑顔でこう言った。

「あなたが豊川浩介さん?いつも晶代がお世話になっております。こんなカッコいい人が彼氏で晶代は幸せね」

「いえ、そんなことありませんよ」

浩介は照れ笑いをした。


裕子は浩介達を病院の談話室に連れていく。

「晶代の病気のこと…聞いてるかな?」

裕子は神妙な顔で浩介達に質問する。

「はい…知ってます。心臓病ですよね」

浩介が答える。

「晶代の場合は思ったより進行が速く、手術をしても助かる可能性はわすが10%。助かるには移植しかないけれど、ドナーも見つからない。今の状態だといつ急変してもおかしくないし…」

「晶代はあとどのくらい生きられるのですか?」

春香が訪ねる。

裕子は少し黙ってからこう答えた。

「あと…1ヶ月生きられるかどうか…。あなた、晶代の親友の春香ちゃんね」

「はい…」

「晶代のこと、よろしく頼むね」

裕子は涙ぐみながらそう言い、浩介達に一礼して去っていった。



あと1ヶ月…。

その衝撃の事実に浩介達は言葉を失った。

1ヶ月後には晶代はこの世からいなくなってしまう…。

自分達はどうしたらよいのだろうか…。

浩介達はその場に立ち尽くした。


しばらくして浩介が口を開く。

「なぁ…。俺らに出来ること何かないか?」

その言葉に義彦も賛同する。

「そうだな。晶代ちゃんが悔いのない人生を送れるように思い出に残るものがいいな」

貴弘と春香も賛同した。

「いいですね!やりましょう!」

「晶代の思い出と言えばやっぱり浩介さんとのデートだね」

貴弘はそう提案するが、

「バカじゃないの!外出許可も下りない状態でデート出来るわけないじゃない!それに浩介さんと2人で過ごすのは病院の中でも出来るわけだし」

と春香からダメ出しを受ける。

「春香の言う通りだよ」

浩介にも指摘を受け、貴弘はヘコむ。

「学校に来てもらうのはどうかな?」

義彦が提案するが

「それじゃあ、入院前と変わらないですよ」

浩介に却下される。

「結婚式なんてどうですか?晶代のウェディングドレスを生で見たいし」

貴弘がそう言うと浩介、義彦、春香はテーブルを叩いた。

「あ…、今のは冗談ですよ」

貴弘はうろたえるが…


「それだ!!」

浩介、義彦、春香は貴弘の冗談をあっさり採用してしまった。

「冗談ですって!」

貴弘はまだうろたえているが、浩介は

「貴弘、ナイスアイデア!」

と貴弘を褒める。

「おい、浩介!そろそろ市役所閉まるぞ!今のうちにアレ取りに行かないと!」義彦は浩介を促す。

「わかりました!!」

浩介はそう言って病院を飛び出して行った。

貴弘はまだ信じられない様子だった。


病院に戻った浩介は晶代の病室を訪れる。

「俺、晶代とずっと一緒にいたい。だから、俺と結婚してくれ!」

突然のプロポーズに晶代は驚く。

「あたし、あと少ししか生きられないよ」

「それでもいい。俺は晶代と結婚したいんだ」

「浩介がそう言ってくれるのなら結婚する」

「ありがとう!じゃあこれに名前を書いてくれ」

浩介は晶代の前に婚姻届を置いた。

浩介が市役所に取りに行ったのはこの婚姻届だった。


翌日。学校にて。

婚姻届は後は同意の欄を書けば提出出来る状態になっていた。

「ここの欄に3人の名前を書いてほしい」

浩介は義彦、貴弘、春香にそう言って同意の欄を指さす。

義彦が名前を書こうとすると…


「あなた達、何書いてるの?」

教務主任の山本先生が後ろから声をかける。

浩介達は驚いて、婚姻届を隠す。しかし、4人はしどろもどろである。

「何って…レクリエーションの申し込み用紙ですよ」しかし、山本先生には通用しない。

「レクリエーションの申し込み用紙なら私に見せられるはずでしょ?ちゃんと見せなさい!」

「いや…これは見せられないことが書いてありまして…」

「見せられないことって何?」

浩介達はどう答えていいか分からない。

志賀が浩介達に気付かれないように婚姻届を奪い、山本先生のところに持っていく。

「先生ー、こいつらこんなもの書いてますー」

「おい、志賀!!」

浩介が止めたがもう遅かった。

山本先生の表情が険しくなる。

「婚姻届…?」

「あっ…」

浩介、義彦、貴弘、春香は青ざめた。


「これはどういうことですか!?」

職員室で山本先生は浩介、義彦、貴弘、春香を叱責する。

4人はかなりヘコんでいる。

「今村さんもう長くないから、何か思い出に残ることをしてあげたいと思って…」

「だからと言って、学生のうちに結婚なんてとんでもない!自分の立場をわきまえなさい!」

「すみません…」

4人は謝る。

「山本先生、結婚式ぐらいいいじゃないですか」

そう言ったのは中沢先生だ。

「中沢先生!何を言っているんですか!?」

山本先生は驚く。

「彼らは今村さんのために何かしようと思っています。だったら結婚式だけでもさせてあげましょうよ」

中沢先生は浩介達の方を向いて

「入籍するのは今村さんの病気が治ってからでも遅くないでしょ」

と言った。

中沢先生は今度は山本先生の方を向いて

「山本先生、いいですよね?」

と言った。

山本先生は

「中沢先生がそこまでおっしゃるのなら…」

結婚式を行うことを許可した。

「ありがとうございます!!」

浩介達は中沢先生と山本先生に礼を述べる。

「今村さんにいい思い出を作ってあげてね」

中沢先生はニッコリと微笑んだ。

「はい!!」

浩介達は明るく返事をした。



浩介はそのことを晶代に報告する。

「わーい!ウェディングドレス着られるー!」

話の内容を理解しているかどうかはわからないが、晶代は大喜びのようだ。

裕子にも報告した。

「もちろん大賛成よ。晶代のためならおばさんも協力するわよ」

裕子も賛成してくれた。

「そうと決まったら準備開始だぜ!!」

「オー!!」

浩介達は張り切って結婚式の準備を始めた。




家に帰った春香は結婚式場のパンフレットを見ている。

「ハァ〜。どれもすごく高いな。あたし達のお金では到底足りないよ」

春香はため息をつく。

「春香、ご飯よ」

母親が春香の部屋に入ってくる。そして、机の上に置いてあるものに気付く。

「何これ?春香、結婚するの?」

「違うよ。結婚するのは親友の晶代だよ。この前話した病気で入院している子」「春香!!」

「ごめんなさい…」

春香は怒られるのかと思った。だが……


「何でお母さんにこのこと言わないの!?」

「え?」

春香は母親の言っていることが理解出来ない。

「お母さんの仕事何だと思ってるの!?」

「何って…結婚式のプランナーでしょ?」

「そうよ!お母さんがあなたのお友達の結婚式のプランを立てるってことよ。こういうことはお母さんに任せなさい!!」

実は春香の母親は結婚式のプランナーである。娘の友達の結婚式のプランを立てるのも仕事のうちだ。

「ありがとう!お母さん!」

春香は笑顔で礼を述べる。「あなたの親友の結婚式でしょ。お母さん頑張るわよ〜」

母親はやけに張り切っている。

「おい、春香が結婚するのは本当か!?」

父親が慌てて部屋に入って来る。

「違うわよ。結婚するのは春香の親友よ」

母親が笑って父親を諭す。「そうか…勘違いして悪かったな」

父親は恥ずかしそうに笑う。


春香は早速浩介に電話をする。

「浩介さん、結婚式のことはウチにお任せ下さい」

電話の向こうで浩介は驚いている。

『どうしたんだ?』

春香は嬉しそうに答える。「実はあたしの母が結婚式のプランナーで、浩介さん達の担当になったんですよ」

『おぉ!それは心強いな。お母さんによろしく伝えといて』

浩介も嬉しそうだ。

「わかりました!明日病院に来て下さいね」

『わかった』

春香の母親も協力するとは思いがけない展開だった。


翌日、春香は母親を連れて病室を訪れる。

「晶代、調子はどう?」

「うん、いい感じ。あれ?そちらの方は?」

晶代は春香の後ろにいる見知らぬ女性に気付く。

「ああ、お母さん」

春香が答える。

春香の母親は晶代に自己紹介をする。

「はじめまして。私、春香の母親で結婚式のプランナーをしております奥野節美せつみと申します。春香がいつもお世話になっております」

「いえ、こちらこそ」

晶代は返事を返す。

「あなたが今村晶代さんね。私があなた達の結婚式のプランを担当させて頂きます」

「いいんですか?ありがとうございます!!」

結婚式をさせてもらえる上に親友の母親にプランを立ててもらえるなんて…。

晶代はこれ以上ない喜びでいっぱいだった。

浩介が病室を訪れ、節美に声をかける。

「あのー、春香のお母さんですか?」

「そうです。あなたが豊川浩介さん?」

「はい」

節美は浩介にも自己紹介をし、結婚式のプランを担当することも伝える。

「それでは、式場と段取りを決めていきましょうか。春香、席を外してくれる?」

「はーい」

春香は病室を出る。

節美は浩介と晶代に結婚式について様々な説明を始めた。


節美は春香、義彦、貴弘にも指示を出した。

「春香、これあなた達のすることよ」

節美はそう言って、春香に一枚の紙を渡した。

そこには何をすべきかびっしりと書いてあった。

「お母さ〜ん、いくら何でも多すぎるよー」

あまりの多さに春香は嘆く。

「あなたの親友のためでしょ。頑張りなさい」

しかし、節美は手加減しない。


晶代のウエディングドレスと浩介のタキシードはオーダーメイドなので、自分たちで考えなければならない。

浩介はサイズを測り終えた後、春香と節美と一緒に晶代のウエディングドレスのデザインを考える。

「春香、どんなデザインがいいか?」

「んー、晶代のドレス姿見たことないからわからないですね。あ、こんなのはどうですか?」

春香は近くにあったドレスを手に取り、浩介と節美に見せる。

「春香、あんたのセンス、ダサイよ」

節美は春香にダメ出しする。

「ひどーい!」

春香は口を尖らせる。


節美は浩介と晶代だけでなく、義彦と貴弘のスーツ、春香のドレスまでオーダーメイドにした。

「俺らもサイズ測りに行くのか?」

義彦と貴弘は驚愕する。

「うん…。お母さんがあたし達の服もオーダーメイドにすると言ってたんです」「かなり本格的だなぁ。春香のお母さん」

「でしょ〜。もう張り切っちゃって大変なのよ」

「晶代ちゃんのためだからねぇ…」

春香は義彦と貴弘を連れて節美の仕事場に行く。

「お母さん、2人連れて来た」

3人に気付いた節美は

「ご苦労様。サイズ測って来てね」

と言った。

義彦、貴弘、春香もサイズを測り、スーツやドレスのデザインを決めた。


節美は毎晩遅くまでプランの見直しをしたり、当日の段取りを考えた。

春香は節美の仕事を手伝う一方、学校では浩介達と当日の打ち合わせ等をしていた。

こうして、結婚式の準備は着々と進められていった。



そして結婚式当日。

「春香!いつまで寝てるの!早く起きなさい!」

節美は春香を無理矢理起こす。

「ん〜、まだ5時半じゃん。いくら何でも早すぎるよ」

春香は突然起こされて機嫌が悪い。

「何言ってるの!?あなたにとっても大事な結婚式でしょ」

「う〜ん、わかったよぉ」仕方なしに春香は起きる。節美と春香はある程度準備を済ませた後、晶代の病室に向かった。

「晶代、おはよう。調子はどう?」

「うん!今日結婚式だと思うとすごく元気になるから。おかげで今すごく調子いいよ」

晶代はいつになく元気そうだ。

浩介が病室に入ってきた。「浩介おはよう!」

「晶代、今日は俺達にとって大切な日だ」

「うん!いい思い出にしたいね」

節美は浩介と晶代に挨拶をする。

「今日はよろしくね。」

「こちらこそ」

浩介と晶代も挨拶をする。「じゃあ、行こうか」

晶代は車椅子に乗ろうとする。それを浩介と春香が手伝う。

晶代が車椅子に乗ったのを確認した後、浩介、晶代、春香、節美は結婚式場に向かった。

結婚式場に到着すると、晶代の家族、浩介の母親、中沢先生、クラスの人、義彦、貴弘が来ていた。

義彦達と合流した浩介、晶代、春香は貴弘の服装を見てずっこけた。

「おい貴弘。お前どんな格好してるんだよ」

浩介がすかさず突っ込みを入れる。

それもそのはず、貴弘はスウェット上下で来ていたのだ。

浩介達5人は結婚式場で着替えるので、晶代を除く3人はラフな服装であるが、貴弘の服装はマズイだろう。

「あれ…?ダメ?」

貴弘は笑っている。

「結婚式場にその格好はマズイってどう考えてもわかるでしょ。貴弘、頭おかしいんじゃない?」

春香はこの上ない突っ込みを入れる。

「春香!お友達に向かってそんな言い方はないでしょ!」

節美は春香に一喝する。

「ごめんなさい」

春香はすぐそばに母親がいることを無視していた。



浩介達は支度を始めた。

浩介、義彦、貴弘はスーツやタキシードに着替えた後、整容をしてもらっていた。

「浩介、似合ってるぞ」

義彦が浩介のタキシード姿を見て、誇らしげに言う。まるで、弟の結婚を喜ぶみたいに。

「ありがとうございます」浩介は満面の笑みを浮かべる。

しかし、浩介は晶代のウエディングドレス姿の方が楽しみである。

「浩介さんと義彦さんの男の友情だぁ」

貴弘がはやし立てる。

「お前はさっさと寝ぐせを直せ!」

しかし、浩介と義彦に一喝された。


一方、こちらは晶代と春香。

晶代と春香もドレスに着替え、メイクとヘアアレンジをしてもらっているところだった。

春香は晶代のウエディングドレス姿を誇らしげに見つめている。

「晶代、キレイじゃん」

「へへっ。キレイでしょ」「自分で言わないでよ。でも…あたしより先に結婚するなんてちょっと悔しいなぁ」

「春香もいつかいい人見つかるよ」

「だといいんだけど…。でも、結婚相手が浩介さんでよかったね」

「うん。あたしのことこんなに思ってくれてる人他にはいないから」

2人がそんな会話をしていると

「そろそろお時間です」

結婚式場の担当者が2人に声をかけた。

「行こうか」

浩介、晶代、義彦、貴弘、春香はそれぞれの持ち場についた。


そして、結婚式が始まった。


パイプオルガンが鳴り、聖歌隊が讃美歌を歌う。

教会の扉が開き、晶代が現れた。

晶代はバージンロードをゆっくりと、しかし、しっかりした足取りで歩いた。

バージンロードの終わりには浩介が立っている。

その様子を義彦、貴弘、春香を含む列席者が見つめている。

「新郎様、ベールをあげて下さい」

神父の言葉で浩介はベールをあげる。

そして浩介と晶代はキスをする。

晶代の母親の裕子は信じられない様子でいた。

娘が今、人生で一番幸せなひとときを過ごしている。大好きな彼と結婚する幸せを感じている。

そう思うと何故か涙が溢れてきた。

浩介と晶代が教会から出て、ライスシャワーを浴びた。

そして、晶代のブーケトス!!

ブーケを取ったのは中沢先生だった。

「ありがとう、今村さん」中沢先生は晶代に礼を述べる。

「次は先生の番ですよ」

中沢先生はクラスの女子達にからかわれた。

写真撮影も行い、結婚式は終わった。


結婚式は大成功だった。

「みんな、ありがとう」浩介と晶代は義彦、貴弘、春香に礼を述べる。

「2人が喜んでくれたらそれで十分だよ」

義彦が笑顔で言う。

「みんな、晶代のためにどうもありがとう」

裕子が4人にお礼を述べる。

「こんなに本格的な結婚式、計画するの大変だったでしょ」

「いや、実はあたしのお母さんが考えたんです」

春香は本当のことを話す。裕子は節美にもお礼を述べる。

「娘のためにここまでして頂いてありがとうございました」

節美は笑顔で返事をする。「いえいえ。大事な娘さんの結婚式でしょう。当たり前のことをしただけですよ。それに、これは私の仕事ですから」

「もしかして、結婚式のプランナーさんですか」

「そうですよ」



浩介と晶代は幸せいっぱいだった。

2人にとって思い出に残る一日だった。

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