第6話『襲いかかる病魔、恋心と友情』
新学期になって4日経つが晶代はいっこうに姿を見せない。クラスメート達は晶代のことを心配している。
「晶代ちゃん、全然学校に来てないじゃん。どうしたのかな?」
義彦が心配そうに言う。
「俺何も聞いてないですよ。親友の春香ちゃんなら何か聞いてるよね?」
浩介はそう言って春香の方を向く。春香は一瞬戸惑ったが
「いえ…あたしも聞いてません」
と言う。
「もしかして、まだ冬休みだと勘違いしてるんじゃないか?」
貴弘がおどけた声で言う。春香もそれに便乗する。
「あー、晶代だったらあり得るかも。あの子日にち間違えるのしょっちゅうだから」
「こら、お前ら!晶代はそんなやつじゃねぇ!!」
浩介は貴弘と春香に怒る。しかし貴弘と春香は反論する。
「でもホントのことですよ。この前のレクの時なんて1日遅く間違えて大変だったんですよ。だよね、貴弘」
「あぁ、あの時は焦ったぜ。春香かなり怒ってたもんなぁ」
「でしょー。大変だったんだから」
「てめえら、晶代を悪く言うのも大概にしとけ」
浩介はかなり怒っている。
「ほらほら、早く席について」
そう言いながら中沢先生が教室に入ってくる。
全員が席についたのを確認した後、中沢先生は神妙な顔をして話始めた。
「今日はみなさんに大切な報告があります。実は……今村晶代さんが入院しました」
「えー!!」
「何で入院したのかよ!?」
クラスは騒然とする。
「静かに!落ち着いて」
中沢先生が生徒達を静める。
「大丈夫。今村さんすぐに戻ってくると思うから。お母さんの方からお見舞いに来てもよいと言われているので、病院の場所書いておくから時間がある時にお見舞いに行ってあげて下さい」
中沢先生はそう言って晶代が入院している病院の名前を黒板に書いた。
春香は戸惑いを隠せなかった。なぜなら晶代が入院していることは浩介には言わないという約束だったのにこんな形で浩介に知られてしまったからだ。
しかし、春香には晶代との約束がもう一つあった。
「どういうことだよ!?」浩介は春香に詰め寄る。
春香は少し黙ってから静かな声で答えた。
「晶代に口止めされてたんです。浩介さんには言うなって。晶代は重い心臓病であとどれくらい生きられるかわかりません。それに、このまま浩介さんと付き合っていると辛い治療に巻き込んでしまうからそれは嫌だと言っていました。だから晶代は浩介さんにはもう会わないと言ってました。浩介さんは幸せな恋を見つけてほしいと言ってました。私は晶代の親友として彼女の意志を尊重します」
しばらくの沈黙……………
浩介はエレベーターに向かって走り出した。春香はその後を追いかける。
「どこ行くんですか!?」「晶代のところだよ!!」晶代のところに行こうとする浩介を春香は引き止める。
「行かせませんよ!!」
「いいからどけよ!!」
「ダメです!さっきも言いましたよね?晶代の意志を尊重すると。晶代はもう会わないと言っているんですよ!!」
「俺は晶代を守りたいんだ!!」
「とにかくここを通すわけにはいきません!」
浩介は思った。力づくでなんとかするしかないと……。
ドスッ!!
浩介は春香の腹を殴る。
春香は気絶してその場に倒れる。
「悪いな。春香」
浩介はそう言ってエレベーターで下に降り、病院へ向かった。
浩介は晶代の病室を訪れ、ドアを勢いよく開ける。
「晶代!!」来ないはずの浩介が来たことで晶代は困惑する。
「何で来たの…?」
「晶代のそばにいたいからだよ」
「来ないでって、春香に言われなかった?もしかして、春香が行けって言ったの?」
「いや、春香ちゃんはそう言ってた。でも俺が春香ちゃん殴って気絶させた」
その言葉に晶代は憤慨する。
「ひどい!何でそんなことしたの!?春香は無事なの!?」
しかし浩介は冷静だ。
「ああ、無事だよ。腹殴っただけだから。もう目を覚ましているころだよ」
「春香ちゃん、春香ちゃん」
義彦の言葉で春香は目を覚ます。
「んー?痛ったぁ〜。浩介さん、強い力で殴るから。あれ?浩介さんは?」
春香は浩介がいないことに気付く。
「もう病院に行ったよ」
義彦のその言葉に春香は驚く。
「えー!!何で止めてくれなかったんですか!?」
しかし、義彦は真剣な目で春香を見る。
「浩介の気持ちを知っていたから止めなかった。浩介が春香ちゃんを殴った時も俺はあえて止めなかった。なぜ浩介が春香ちゃんが止めるのを振り切って病院に行ったかわかるか?」
「晶代とずっと一緒にいたいからじゃないですか?」義彦は春香のその言葉を聞いて呆れる。
「わかってないな、春香ちゃんは。浩介は晶代ちゃんを守りたいと思ってる。辛い治療も一緒に頑張りたいと思っている。何があっても晶代ちゃんを支える。だから浩介は覚悟を決めて病院に行った。その気持ちは春香ちゃんも同じじゃないかな?」
「そうですけど…。」
「春香ちゃんは親友として晶代ちゃんを支えたいと思っている。それと同じだよ。浩介も恋人として晶代ちゃんを支えたいと思っている。」
春香はやっと納得した。
「結局、あたしと浩介さんの考えは同じなんですね」「そうだよ」
「俺は晶代を守りたいんだ!!」
浩介は強い口調で晶代に詰め寄る。
しかし、晶代は春香との約束をネタにし、反対し続ける。
「春香と約束したことなの!春香はあたしの気持ちわかってくれた。一緒に頑張ろうって言ってくれた。春香はあたしの親友なの!あたしの支えなの!春香との約束を浩介なんかに邪魔されたくない!」
浩介はもう自分の気持ちを押さえきれなくなっていた。
「口を開けば春香、春香、春香って……。何で俺を頼らないんだ!!」
晶代は驚いて言葉を失う。「辛い治療に巻き込まれてもいい。みんなに反対されてもいい。それでも晶代を支えたい。晶代に何があってもそばにいたいんだ!!」
晶代の目から涙がこぼれ落ちる。
「こ…浩介…」
浩介は晶代を強く抱きしめる。
「晶代、一緒に頑張ろう」「うん…」
晶代はうなずき、浩介の胸の中で泣いた。
こうして浩介と晶代の病気との戦いが始まった。