第4話『大切な人』
貴弘が登校すると何やら人だかりが出来ている。
「何かあったのか?」
そう思いながら人だかりの方へ行くと…
掲示板にこんな貼り紙がしてあった。
『今村晶代はオタクの分際で豊川浩介と付き合っている。あのバカが恋愛する資格はない。』
貼り紙の横には、晶代が描いた絵が貼り出され、『バカが描いた絵』と記されている。
「何だよこれ!?」
貴弘は驚いて言葉を失う。義彦と春香が登校してくる。
「ちょっとあれ見て下さい」
貴弘は義彦と春香を掲示板のところに連れていく。
「何で晶代ちゃんが…」
「ホント許せない」
義彦と春香も憤りを隠せない。
そこへ浩介がやって来る。「何だこの騒ぎは?」
「あ、浩介さん、実は…」貴弘が浩介に事情を説明する。
「……何だって!!」
浩介は人込みをかき分け、掲示板の方に向かう。そして貼り出された紙を外し、ビリビリと破いて床に投げつける。
浩介は野次馬に向かって怒鳴り付けた。
「誰だよ。俺の女にこんなヒドイことしたのは誰だよ!!さっさと名乗り出てこい!!」
しばらくの沈黙………
「あたしだよ。」
そう言って浩介の前に現れたのはミサキだった。ミサキは浩介の元カノである。ミサキは続ける。
「あんたの彼女バカだよね。オタクだし、あんな絵しか描けないし。あのバカに恋愛する資格なんてない」その言葉を聞いて浩介の怒りはさらに増した。
「てめぇ………ふざけんな!!晶代は俺の女だ!俺の大切な人だ!お前にバカ呼ばわりされる筋合いねぇよ!今度こんなことしてみろ。次は容赦しねぇぞ!!」ミサキは何も言わずにその場を去る。
しかし、これでミサキの嫌がらせが終わったわけではなかった。
翌日。
春香が階段を降りていると…
バシャアアァ!!
上から水をかけられた。
「冷たっ!誰よ!こんなことしたの!!」
春香は階段をかけ上がるが誰もいない。
教室に入ると机に『死ね』と言う文字が刻まれていた。
「何よこれ…」
春香は困惑する。
「どうしたの春香?」
晶代はびしょ濡れの春香を見て驚く。
「上から誰かにかけられた。それより誰がこんなことしたの!?」
「春香、何か心当たりない?」
「ううん、ない」
晶代はともかく春香が嫌がらせを受ける理由はわからない。
その後4日間、春香への嫌がらせは続いた。
数日後、春香が帰宅しようとすると、目の前にフミノリが現れた。
「春香、久しぶり」
フミノリは春香の彼氏である。
「久しぶり。2ヶ月も連絡ないから心配しちゃったよ」
「ごめんごめん」
春香は嬉しそうだ。
「ちょっと話したいことがあるから来てくれない?」フミノリは春香を連れて歩いていく。
「どこ行くんだろう?」
春香はそう思いながらもフミノリについて行く。
フミノリは春香を路地裏に連れて行った。
そこにはミサキと数人の男がいた。
フミノリがミサキに「姉ちゃん、春香連れて来た」と言う。
「ご苦労」
ミサキは返事をする。
「どういうこと?」
春香は理解出来ない。
ミサキが言う。
「あんたの彼氏、あたしの弟なんだよ。それより、あんたに話があるんだよ」 「何ですか?」
「あんた、あのバカを浩介とくっつけたでしょ?」
「あれは、浩介さんに依頼されてやっただけですよ」「ふざけんな!!あのバカさえいなければ浩介はあたしのものだったのに!!」ミサキは怒るが春香はひるまずに続けた。
「晶代をバカ呼ばわりするなんて…。晶代はあたしの親友なんですよ!こんなの許せません!第一、先に好きになったのは浩介さんの方ですよ」
「そんなの関係ない!!あんた達に嫌がらせしたのに、それでも意志を変えないのね」
「じゃあ、一連の嫌がらせは…」
「あたし達の仕業だよ。」晶代と春香が受けていた嫌がらせはすべてミサキが仕組んだことだった。
「あんたには死んでもらうよ!」ミサキはそう言って拳銃を取り出し銃口を春香に向ける。
「あのバカは浩介がいるから殺さないけどあんたは1人だからさ。死んでも誰も悲しまないだろ」
フミノリが敵となった今、春香の味方は1人もいない。
浩介がいる晶代と違って春香には一緒に戦ってくれる人はいない。
1人でなんとかするしかない。
春香は自分が空手3段であることに気付いた。
(空手を使えば勝てるかもしれない)
そう思い春香は空手を始めるかけ声をかける。
「アアアァァ!!」
ミサキに蹴りを食らわせようとした瞬間、数人の男が春香の手足を押さえつける。
「やめてぇ!!」
これではさすがの春香も抵抗出来ない。
ミサキが春香の額に銃口を突き付ける。
「さぁ、死んでもらうよ。あのバカを浩介とくっつけたことを恨むんだね」
ミサキが引き金を引こうとしたその時…
「春香ー!!」
浩介、義彦、晶代、貴弘が駆けつけた。
「やっぱりてめぇの仕業か!春香ちゃんにも手出しやがって!!」
浩介はかなり怒っている。しかしミサキは言い返す。「最初から狙いはこいつだったんだよ。あのバカへの嫌がらせはカムフラージュ。こいつには死んでもらう。こいつ1人だから死んでも誰も悲しまないだろ?」その言葉を聞いて浩介はぶちギレた。
「ふざけんな!!春香ちゃんは俺の大切な人の親友だ!!死んだら俺らが悲しむよ!」
晶代が続ける。
「確かにあたしバカだよ。オタクだよ。あたしのことをバカ呼ばわりするのは構わない。でも、春香を殺すのはやめて!あたしの大事な親友なの!!」
義彦も続ける。
「春香ちゃんは俺にとっても大事な人だ。春香ちゃんはいつも俺に元気をわけてくれる。そんな子を殺したらお前は痛い目に遭う」
貴弘も続ける。
「春香がいないと俺達のグループはまとまらない。だから殺すのは止めてくれ」浩介は静かな声でミサキに言う。
「これでわかっただろ?春香を放せ」
「もういい。行くぞ」
ミサキ達は春香を放して去っていく。
「フミノリ待って」
春香はフミノリを呼び止める。
「何だよ」
ドカッ!!
春香はフミノリの顔を拳で殴った。
「あんた最低!!大っ嫌い!!」
フミノリは殴られたところを押さえながら何も言わずに去って行く。
「春香、大丈夫か?」
浩介達は春香に駆け寄る。「うわあぁん!!」
春香は地べたに座り込み、大声で泣き出した。今までの恐怖とフミノリとの失恋が重なったからだ。
「春香、一人で抱え込まないで言ってくれたらよかったのに」
「水くせぇな、春香ちゃん」
「春香、俺達を頼ってくれよ」
浩介が春香の頭をなでて言う。
「春香ちゃんは一人じゃないんだよ。」
「みんな…ありがとう」
春香は泣きながらお礼を言う。
「よし、帰ろっか」
5人は帰路についた。