最終話『旅立ちの時』
朝の教室。
晶代の席には菊の花が入った花瓶が置かれている。
義彦、貴弘、春香が登校してくる。
3人は席に着くなり、すごく暗い表情で晶代の席を見つめている。
突然、義彦の携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
義彦は電話にでる。
電話の相手は浩介の母親だった。
『義彦くん、浩介がいなくなったの!』
母親はかなり慌てている。「本当ですか!?」
義彦は驚く。
『今朝、目を覚ましたらもういなくなってて…』
「浩介の家に何かありますか!?」
『手紙があったけど…』
「何て書いてあったんですか!?」
『「俺も晶代のところへ行きます。ごめんなさい」って…』
「とにかく、浩介は僕達で探し出しますので!!」
『お願いね』
義彦は電話を切ると、貴弘と春香にこう伝えた。
「浩介がいなくなった。あいつ自殺する気らしいぞ!!」
「ええ!?」
貴弘と春香は驚く。
「だから一刻も早く見つけ出さないと…。探しに行くぞ!!」
「はい!」
義彦と貴弘と春香は教室を飛び出した。
チャイムが鳴り、中沢先生が教室に入ってくる。
出席をとろうとすると、晶代に関係した人達が全員いないことに気付く。
(あの子達、ショックで学校休んでしまったのかな…)
中沢先生は不安にかられる。
「豊川くん達のこと何か聞いてない?」
中沢先生は生徒達にたずねる。
すると一人の生徒がこう答える。
「豊川さんは来てないんですけど、甲本さんと木原君と奥野さんは一回来たんですけど血相変えて出ていってしまいました」
「そうなの!?」
中沢先生は驚く。
「はい、何か甲本さんの携帯に電話がかかってきて、その後慌てて…」
「あの子達と連絡とれる?」
中沢先生に言われて3人の生徒が電話をかけるが……
「春香、つながりません」「貴弘も出ない…」
春香と貴弘は電話に出ない。
「もしもし、義彦さん?」義彦にはつながった。
電話の向こうで義彦はこう答える。
『落ち着いて聞け。実は……浩介が行方不明になった』
「えぇ!?」
義彦に電話をしていた生徒ユウタは驚く。
『だから、今俺と貴弘と春香ちゃんが探してる。見つかったらちゃんと連絡する。中沢先生にそう伝えといてくれないか』
「わかりました」
ユウタは義彦に言われたことを中沢先生に伝える。
すると……
「俺も探しに行く!」
「私も行く!!」
生徒達が教室から出ようとする。
「ちょっと待ちなさい!!」
中沢先生が引き止める。
そして静かな声でこう言った。
「心配なのはわかるけど、豊川くんのことはあの子達に任せて私達は無事を祈りましょう」
その言葉で生徒達は大人しく席に着いた。
義彦が電話を切った後、貴弘と春香が戻ってきた。
「おい、いたか!?」
「こっちにはいなかったです」
「こっちもいません」
浩介はまだ見つかっていないようだ。
「春香ちゃん、浩介と晶代ちゃんの思い出の場所とか知らない?」
義彦は春香にたずねる。
「晶代、そういうことは一切教えてくれなかったんです」
春香は悔しそうに言う。
「そっか。また手分けして探そう!」
3人は再び浩介を探し始めた。
そのころ浩介は……
悲しそうな表情で三条戻橋の上にいた。
空を見つめてこうつぶやく。
「晶代…。今まで寂しかっただろ。でも、もう大丈夫だよ。俺が側に行くから…。待っててくれ」
浩介は橋の欄干に手をかける。
「浩介ー!!」
「どこにいるんですかー?」
「浩介さーん!!」
義彦と貴弘と春香は浩介のことを探し続けている。
その時、春香はあることを思い出した。
それは、晶代が入院する前のことだった。
晶代は春香を三条戻橋に連れて行った。
「ここが浩介との思い出の場所」
晶代は嬉しそうに説明する。
「きれいな場所だね」
「辛い時や悲しい時は2人でここに来ると元気をもらえるんだ。それでケンカしたらいつもここで仲直りするんだ」
「そっかぁ」
もしかして……。
春香はハッと気付く。
そして義彦に電話をかける。
「浩介さんの居場所わかりました!」
『どこなんだ!?』
「三条戻橋です!前に晶代に教えてもらったことを思い出したんです!そこが2人の思い出の場所なんです!」
『そうか、わかった!春香ちゃんはそこに向かってくれ!』
「でも間に合うかどうかわからないです…」
春香は突然自信を失くす。電話の向こうで義彦は春香を励ます。
『とにかく行くんだ!春香ちゃん今まで浩介と晶代ちゃんのために頑張ってきただろ?ここであきらめてどうする!?浩介を止められるのは春香ちゃんしかいないんだ!!』
「わかりました!あたし行きます!!」
『よし!任せた!貴弘には俺から伝えておくから!とにかく春香ちゃんは浩介の元へ!』
「はい!!」
春香は三条戻橋に向かって走り出した。
「晶代…今行くからな」
浩介は橋の欄干を乗り越え今まさに飛び降りようとしている。
その時だった。
「浩介!!」
晶代の声が聞こえた。
「晶代か!?」
声のする方へ振り向くと、晶代が立っていた。
「晶代…お前…迎えにきてくれたのか?」
浩介は笑顔を見せる。
しかし、晶代はきっぱりとこう言った。
「浩介、死んじゃダメ。ちゃんと生きて。あたしの分まで長生きして。あたしはちゃんと待ってるから。浩介が来るまでちゃんと待ってるから」
「晶代…!」
浩介は晶代に近づこうとするが、浩介の手前で晶代の姿は消えてしまった。
入れ違いに春香の姿が現れた。
「浩介さん、何やってるんですか!?自殺なんてバカなことを…。こんなことをして晶代が喜ぶと思ってるんですか!?」
春香は息を切らしながら浩介に怒鳴りつけた。
「ごめん…春香」
浩介はそう言って春香を抱きしめた。
「浩介さん…」
春香の目から涙がこぼれ落ちる。
浩介は春香の頭を撫でながらこう言った。
「春香、今まで散々苦労かけたな。もう我慢する必要ないよ。思い切り泣けよ」
「うわあぁぁん!!」
その言葉で春香はさらに強く泣き出した。
「春香…今までごめ…んな」
浩介も泣き出した。
2人は抱き合って泣いていた。
その様子を義彦と貴弘が遠くで見つめていた。
「よかったな。浩介も春香ちゃんも」
義彦は嬉しそうにこうつぶやいた。
そして浩介、義彦、貴弘、春香は卒業の時を迎えた。3月5日。この日は卒業式だった。
浩介達はこの日をもってそれぞれの道へと進んでいく。
卒業式が終わり、浩介は春香に声をかけた。
「春香、今までありがとうな」
「いやいや、あたし何もしてませんよ」
春香は照れくさそうに言う。
「そんなことない。俺は春香のおかげで今まで頑張れた。春香がいてくれたから晶代の最期をいいものに出来たんだ」
「あたしも浩介さんのおかげで頑張れましたよ。こちらこそありがとうございました」
春香は浩介に礼を述べる。浩介は笑顔でこう言った。「俺ら、今まで晶代のために頑張ったんだな」
「そうですね」
しばらくすると義彦と貴弘がやって来た。
義彦はこう言った。
「俺らが出会ったこと、一緒に学校生活を送ったことは一生の宝物だ」
貴弘はこう言った。
「このことを忘れないで新たな道でも頑張りましょう」
春香はこう言った。
「そして晶代と過ごしたこと、晶代との約束を忘れてはいけない」
最後に浩介はこう言った。「どんなに離れていても俺達は同じ空の下にいる。苦しくなった時は仲間の顔を思い出せばいい。そして晶代の最後の時間を一緒に過ごせたことを誇りに思って生きていこう」
浩介、義彦、貴弘、春香は新たな誓いを胸にこれからも生きていく。
4人は新たな一歩を踏み出した。