第10話『届かぬ思い』
義彦の携帯が鳴った。
電話の相手は浩介だった。「もしもし浩介か。……………え?…………何だよ!?………わかった。すぐに行く」
「何かあったんですか?」義彦の様子がおかしいことに貴弘と春香が気付く。
「晶代ちゃんに何かあったみたいなんだ…」
「何かって何ですか!?」春香が問い詰める。
「俺にもわからない…。とにかく病院に行こう!!」義彦、貴弘、春香の3人はすぐに病院に向かった。
病院に着いた義彦達は待合室のソファーに座っている浩介を見つける。
「浩介、何があったんだ」義彦がたずねるが浩介は返事をしない。うつろな目をして下を向いたままだ。
「浩介、黙ったままじゃわからないだろ」
義彦が再度、声をかけるが浩介はやはり返事をしない。
「春香ちゃん達も来てくれたのね」
後ろから声がして義彦達が振り向くと晶代の母親がいた。しかし母親は泣いている…。
「晶代に会ってあげて…」母親は泣きながら義彦達にこう告げる。
まさか………晶代が………
義彦達は不安にかられる。母親は義彦、貴弘、春香を連れて一番奥の部屋に案内した。
「この中に晶代がいるから…」
母親はそう言うと義彦達に一礼して去っていった。
義彦達はドアを開けて中に入る。
そこには晶代がいた。
しかしいつもの晶代じゃない。
目を閉じて眠っているようだ。しかし、晶代の頭の上の台にはろうそくと線香が置いてある。その光景に義彦達は言葉を失った。
「死んだんだ……晶代」
浩介がそう言って中に入る。
そう…ここは『霊安室』だったのだ。
「ウソだろ…!?」
貴弘は信じられないという思いだ。
「信じられないかもしれないけど、本当なんだ」
浩介はそう言って晶代の手に触れるがもう冷たくなっていた。
「マジかよ…」
義彦も今の現実を受け止めることが出来ない。
「そんな…」
一番辛いのは春香だった。「晶代…。あたしを置いていかないでよ……。あたし一人ぼっちになっちゃうじゃない……」
春香は晶代にすがって泣き出した。
「晶代…。もっと一緒にゲームの話をしたかった……。晶代がいないゲームなんて全然楽しくないんだよ……」
貴弘も泣き出した。
「もう晶代ちゃんのあの笑顔見れないんだね……」
義彦も泣き出した。
「晶代…。俺は今でも晶代のことが好きなんだよ!!」
浩介は床に座り込んで泣いた。
4人はずっとずっと泣いていた…。
2010年2月20日午後2時10分今村晶代はわずか20年の生涯を閉じた。
数日後、晶代の告別式が行われた。
「今まで本当にありがとうございました」
晶代の母親は中沢先生、浩介、義彦、貴弘、春香に挨拶をした。
「こちらこそありがとうございました」
中沢先生も晶代の母親に挨拶をした。その横で浩介、義彦、貴弘、春香が頭を下げた。
晶代の母親と中沢先生はその場を去った。
浩介達はその場に立ちすくんでいる。悲しみと絶望が渦巻いてどうすることも出来ない。
「木原くん、奥野さん?」声がして浩介達が振り向くとそこには途中で退学した西山と宮川がいた。
西山と宮川は在学中は春香と晶代と貴弘といつも一緒にいた。
「久しぶり…」
宮川は春香達に声をかける。
「久しぶりです」
「急にこんなことになって驚いたよ」
「ですよね…。あたし達もまだ受け止めきれなくて…」
「あれ?何で甲本さんと豊川さんが貴弘達と一緒にいるの?」
西山がすっとんきょうな声を上げる。
義彦が答える。
「晶代ちゃんが亡くなるまで……浩介と晶代ちゃん、付き合っていたんだ」
宮川が浩介に声をかける。「そっか…。それは辛いね。御愁傷様です」
しかし浩介は
「てめぇに同情される筋合いねぇよ!!」
と言って宮川を殴った。
宮川は倒れ、西山が抱える。
「浩介何やってんだ!!」義彦が浩介を押さえる。
貴弘と春香は呆然としている。
「わりぃ、浩介を落ち着かしてくるから貴弘と春香ちゃんはその二人に話をしてくれ」
義彦はそう言って浩介を連れて去って行った。
貴弘と春香は西山と宮川に今までの出来事を話した。「大変だったんだね…」
宮川がポツリと言った。
「ええ、特に春香が苦労してました」
貴弘が沈んだ声で返事をした。
「やっぱりそうなったか…。一番苦労するのはいつも春香ちゃんだね」
西山は春香を見つめてそう言った。
「いつものことだから」
春香は遮る。
「言ってくれれば僕達も協力したのに」
宮川は悔しそうに言う。
「ごめんなさい…。そんな余裕なくて…」
春香が謝る。
「仕方ないさ。けど、生きてるうちに会いたかったな…」
西山が寂しそうに言った。「ああ、生きてるうちに会わせてやりたかったよ…」貴弘も寂しそうに言った。
お坊さんの読経の時、浩介達を含む参列者は全員涙を流していた。
次は弔辞。
弔辞を読むのは委員長の志賀だ。
志賀は最初は普通に読んでいた。
しかし、途中で声を詰まらせる。
よく見ると………
志賀は泣いていた。
春香は信じられない思いでいた。
ついこの間まで晶代のことをけなしていたあの志賀が泣いているからだ。
志賀は弔辞を読み終えた後、晶代の遺影に向かってこう叫んだ。
「今村、天国でも元気でな!!」
そしていよいよ出棺の時。晶代の棺には花束の他に思い出の品が入れられる。
「晶代……また一緒に遊ぼうね」
春香はそう言って晶代と撮ったプリクラを入れた。
「晶代……天国でこれで遊んでな」
貴弘はそう言ってゲームソフトを入れた。
「晶代ちゃん……天国でもちゃんと勉強するんだよ」義彦はそう言って教科書を入れた。
「晶代は死んでも俺の彼女なんだよ」
浩介はそう言って晶代の左手の薬指に指輪をはめた。棺のふたが閉じられ浩介、義彦、貴弘、春香、西山、宮川の手によって運ばれた。
「晶代ー、一生友達だからねー!!」
浩介、義彦、貴弘、春香は棺をのせた車を追いかけた。
浩介が家に帰ると母親が来ていた。
「辛いよね…。好きな人に先立たれて。浩介大丈夫?」
母親は心配そうにたずねる。
「まだ気持ちの整理がつかねぇよ…。それより悪いな母さん。わざわざ来てもらって」
浩介はまだ引きずっている様子だ。
「いいのよ。お母さん浩介の味方だから」
母親は優しい声で返事をする。
母親はその日は浩介の家に泊まった。
翌朝、母親が目を覚ますと浩介がいなくなっていた。机には手紙が置いてあった。
母親はその内容を見て驚いた。
浩介の身に何があったのか……!?