第1話『一目惚れ』
2009年9月。その日は学園祭だった。
2人の男子生徒が会場を眺めていた。1人の男子生徒は女子生徒を見る度にはしゃいでいるが、もう1人の男子生徒は自分のクラスの方をぼんやりと見つめていた。
はしゃいでいる方の男子生徒が「やべ、あのポニーテールの子可愛いんだけど」と言うがもう1人の男子生徒は自分のクラスを見つめたまま返事を返さない。
「浩介、お前また春香ちゃん探してるだろ?」
「違いますよ!!義彦さん」
はしゃいでいる男子生徒の名は甲本義彦。年齢は30才でクラスでは最年長であり、父親的存在。
そして自分のクラスを見つめていた男子生徒は豊川浩介。
成績はクラスでトップ、実習でも高い評価を受ける、いわゆる模範生だ。また、クラス1のイケメンで女子からの人気も高い。年齢は義彦より6才下の24才。
「お前ずっと春香ちゃんしか見てないじゃないか」
「違うって言ってるじゃないですか!第一、春香ちゃんには彼氏いるのに」
「好きなら告ればいいじゃん」
「だから違いますって!!」
義彦と浩介はこんな会話をずっと続けていた。
10月。後期最初の授業が終わった放課後。
「晶代、貴弘、カラオケ何時から?」
そう言ったのは奥野春香。学園祭で義彦が噂していた女子生徒である。
春香も成績優秀で浩介とほとんど変わらない。クラスのカリスマ的存在で副委員長も努めている。
「何時でもいいじゃない?私ゲームしてるから」
ゲームをしながら答えたのは春香の親友である今村晶代。ズボラな性格で授業中もよく先生に注意されている。きっちりしている春香とは大違いである。
「もー、ちゃんと時間決めてって言ったじゃん」春香はため息をつく。
「春香ー、そんなにカッカッするなよ」と言って教室に戻って来たのは晶代と春香の友人の木原貴弘。フラッシュ動画が好きないわゆる『オタク』である。
春香のイライラは貴弘に向いた。
「カッカッするな…ってあんた今までどこにいたの!?」
「先生から呼び出し」
「一言言ってから行きなさいよ!!」
「言ったけど、お前聞いてなかっただろ?」
その言葉に春香は驚き大きく目を見開く。
「ホントだ、ごめん」
春香は貴弘に謝った。
「おい、奥野!!来月の情報誌の原稿書けよ」
そう言ったのは委員長の志賀ヒロキだ。
春香はムッとしてヒロキに言い返す。
「志賀がやりなさいよ!」「副委員長は委員長のサポートだから、委員長の言うこと聞いてればいいんだよ!」
「はぁ?そんなのなし!」「とにかく書いてこいよ」「もうすぐ実習なのに書けるわけないでしょ!!」
志賀は春香に仕事を押し付けて去っていく。
「ったくもう!!志賀のアホ!」
春香は不機嫌な様子で椅子に座る。
その様子を浩介が見ていると後ろから、「………こ・う・す・け……」と声がした。驚いて振り向くとそこには義彦がいた。
「うわーっ!!おどかさないで下さいよ!!」
義彦はニヤニヤして「お前また春香ちゃんのこと見てただろ?さっさと告白しなよ」
浩介はムキになって「だから春香ちゃんじゃないって何度も言ってるじゃないですか!!」
浩介の言っていることは本当だった。なぜなら浩介が見ていたのは春香ではなく晶代だった。