幕間「うちのダンジョン、なんか変わった」
ある日、俺は全員を集めることにした。
特に理由はない。ただなんとなく、一度ちゃんと確認しておきたかった。
鍛錬を続けるうちに、このダンジョンがじわじわと変わってきているのは感じていた。
どう変わったのか、自分の目で見ておきたかった。
「全員、ボス部屋に来い」
ぷるぷる。「ボス!」「ふん」「わかった!」きゅっ。
返事は様々だった。
◆◆◆
最初に来たのはホブゴブリンたちだった。
三匹が並んで立つと、以前とは別の生き物のようだった。
体格が一回り大きく、眼光が鋭い。以前のゴブリンの面影はかろうじてあるが、立ち姿に締まりが出ていた。
「お前たち、名前はあるか」
三匹は顔を見合わせた。
「……ない」と一匹が言った。
おお、と俺は思った。普通に喋った。「ぐぇ」ではなく、ちゃんとした言葉だ。
「喋れるようになったのか」
「少し、喋れる」と別の一匹が言った。少し、のところで少し間があったが、ちゃんと言えた。
三匹目はしばらく考えてから「ぐぇ……喋れる」と言った。まだ「ぐぇ」が混ざっていた。
「まあ、いい。名前をつけてやろう」
俺は三匹を見比べた。特に深く考えなかった。
「お前がイチ。お前がニ。お前がサン」
「……それでいいのか」とイチが言った。
「いいだろう、わかりやすい」
「ぐぇ……まあ」とサンが言った。
ニは何も言わなかったが、なんとなく納得した顔をしていた。
◆◆◆
次に来たのは鬼人だった。
以前のオーガとは明らかに違った。体格が人間の大柄な男に近くなり、角が生えて、目が静かな光を帯びていた。
パワーが落ちた様子はない。むしろ、以前より制御が利いている感じがした。
「お前も喋れるようになったか」
「……はい」
低く落ち着いた声だった。以前の「ふーん」とは別人のようだが、口数が少いのは変わっていない。
「名前をつけてやろう。鬼助、キスケだでいいか」
「……鬼助」
「そうだ」
「……わかりました」
短い。でも以前よりずっと多くを語っている。俺はそれで十分だと思った。
◆◆◆
次は少し待った。
しばらくして、壁がぐにゃりと動いた。
スライムが壁から染み出してきた。床に落ちて、ぷるぷると形を整えた。
以前と変わらない半透明の体だが、よく見ると密度が違う。引き締まっている。
「喋れるか」
「……しゃべれる、なの」
小さな声だった。高くて、柔らかい声だった。
俺は少し驚いた。予想はしていたが、いざ聞くとなかなか不思議な感じがした。
「形を変えられるんだったな」
「うん。とがらせることも、できるの」
スライムの表面がすっと変化して、細い棘が一本伸びた。それからまた元に戻った。
「壁に溶け込むのも」
「できるの。どこにでも、いけるの」
「名前をつけてやろう。ポリン、でいいか」
「……ポリン」
「ポリンだ」
「ポリン……なの」
嬉しそうだった。嬉しそうかどうかはわからないが、なんとなくそう見えた。
◆◆◆
最後はバットだった。
天井からざわざわと降りてきた。群れで動いていて、整然としている。以前のびくびくした様子は消えていた。
リーダー格の一匹が、俺の肩に止まった。いつも肩に乗ってくるやつだ。
「喋れるか」
「しゃべれるよ!」
高くて元気な声だった。
「群れで動けるようになったんだな」
「みんなで動けるよ!あと、声で攻撃できるよ!」
「超音波か」
「そう!すっごく大きい声!でもボスには使わないよ!」
「……使ったら承知しないぞ」
「使わないよ!」
名前をつけてやろうと思った。
「お前はチイ、でいいか。小さいから」
「チイ!いい名前だよ!」
他のバットたちもきゅっきゅっと鳴いた。気に入ったらしい。
◆◆◆
全員が揃ったところで、俺は改めてボス部屋を見渡した。
岩の玉座の前に、ホブゴブリンのイチ、ニ、サンが並んでいる。その横に鬼人の鬼助が立っている。床にはポリンがぷるぷるとしている。天井にはチイを筆頭にバットたちがぶら下がっている。
以前と同じダンジョンだ。
でも、全然違う。
「お前たち」と俺は言った。
「次に誰かが来た時、俺の邪魔はするな。でも、援護もいらない。ただ、お前たちの仕事をしっかりやれ」
「わかった」とイチが言った。
「……はい」と鬼助が言った。
「わかったの」とポリンが言った。
「わかったよ!」とチイが言った。
ニとサンは顔を見合わせてから、こくりとうなずいた。
俺は玉座に座った。
「よし」
それだけ言った。
ポリンが足元でぷるぷるした。チイが肩に飛んできた。
「ボス、つよくなったね!」
「……お前たちもな」
「えへへ」
鬼助が静かに部屋の隅に立った。
ホブゴブリンたちは通路に戻っていった。「ぐぇ、じゃなくて……また後で」とサンが言った。まだ「ぐぇ」が抜けきっていなかった。
俺は少し笑った。
今度こそ、負けない気がした。




