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お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ  作者: Kouei


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第2話 忘れられない出会い

「やはり実物はすごいわ…っ」


 そこは有名画家の絵画展。

 いつも画集で見ていた小さな絵の原画が、目の前に広がっていた。

 想像よりずっと大きな作品の迫力に、見えない力を感じ圧倒される。

 夢中になってその絵を仰ぎ見ていたら身体の重心がぶれ、ふらりと後ろへ揺れた。


「おっと、大丈夫ですか?」


「は、はい」


 後ろに倒れた私を支えてくれたのがクレマンド様だった。

 肩越しに超至近距離で目が合う。


 爽やかな薄荷色(ミントグリーン)の瞳。

 ほんのりと漂うシトラスの香り。

 そして(つや)やかな琥珀色(こはくいろ)の髪。


 力強い腕で支えながら、そっと私を起こす彼。


「あ、ありがとうございます。ご迷惑をおかけして…」


 私はあわてて体制を立て直し、お礼を述べる。

 顔が熱い。

 きっと真っ赤だわ。


「いいえ、これだけ素晴らしい作品を目にすれば僕でも同じ状態になりますよ」


 スマートな物腰に胸がときめいた。 

 何歳くらいかしら。

 私より少し上に見えるけど…


「あ、いた~っ!」


 モニカの声に視線を向ける。

 人波を避けながら、あわてて駆け寄って来た。


「では、僕はこれで」


 心の中で『あ…』と思ったが、彼はすでに雑踏の中に紛れてしまった。


「やっと見つけた!」


 少し息を弾ませるモニカ。


「もう少し、後で来てくれればよかったのに…」

 

 私は少し()ねた感じで(つぶや)いた。

 

「えーっ 何よそれ! あなたが勝手にどんどん進むのが悪いんでしょ? この人込みの中で迷子になるかと思ったわよっ」


 私はモニカの小言に構わず、先程の彼の事を想い出していた。


 素敵な人だったな…まだ胸がどきどきしている…

 もう会う事はないでしょうけどね。


 私は一瞬の出会いに夢を見て、すぐに現実と向き合った。



『もう会う事はない』



 この時はそう思っていた。


 それでもこの日のチケットの半券を、私は宝箱の中に閉まった。

 淡い想い出とともに。


 まさかこの先、物語のような再会が待っているとは思いもせず…



 ◇



「婚約?!」


「ああ、来週両家の顔合わせがあるから準備し置くように。お相手は…」


 父はお相手の事を話し始めた。

 絵画展に行ってから3か月後、告げられた婚約話。

 

『とうとう来てしまった…』


 話しを聞いて、瞬時に思った。


 数か月後、私は18歳になる。

 縁談話が来て当たり前。

 逆に遅すぎるくらい。


 だから、お話がきて安堵するはずなのに、私の心に割り切れない思いが渦巻いた。

 一瞬、絵画展で出会った彼の顔が(よぎ)ったからだ。


 もう会う事のない人なのになぜ…

 自分でも形容しがたい気持ちに戸惑った。


 父の話によれば、お相手はクレマンド・セルマール様。


 伯爵家のご長男だ。

 年は私より2つ上の20歳。

 ストーキス高等寄宿学院を首席で卒業。

 現在は父親のもとで領地運営を学んでいるそうだ。


 断る理由もない。


 けれど私は、父の話をうわの空で聞いていた。

 だって…私がどう思おうと、既に話は進行中なんだもの。

 

 ならば差し出された肖像画(ポートレート)を見ても意味はない。

 だから敢えて見る事はしなかった。



 

 それから一週間後。

 両家の顔合わせで、私は驚いたわ。


 そこにいたのは絵画展で出会った彼だったから。

 まさか彼が婚約の相手だなんて…

 

肖像画(ポートレート)を見た時に似ていると思ったんだけど…本当に君だったなんて」


 首元に手を当てながら、照れ臭そうに微笑む彼。


 彼も私の事を覚えて下さっていた!

 私は嬉しくて胸がいっぱいになった。


 そして私たちは自然に打ち解け、二人の時間を持つようになった。


 彼は絵に関して、とても造詣が深かった。

 よく二人で絵画展に足を運んだわ。

 そしてその都度、さりげなくエスコートをして下さる紳士な方。


 そんな反面、意外にも甘党。

 珈琲はいつもミルクとお砂糖を少し多めに入れている。

 あとちょっと動物が苦手みたい。


 前に街でチワワを連れていた夫人が向かいから歩いて来た時、わざと道を遠回りされていた。

 時には、突然お店に入ったりして。


 そんな事に何回か遭遇すれば気づく。

 クレマンド様は(おっしゃ)らないけれど。ふふふ。

 

 いつもは紳士然としている彼。

 でも甘い物がお好きで動物が苦手。


 年上だけどなんだか可愛らしい。

 彼のギャップに惹かれていく(きもち)を止められなかった。


 そんな彼にちょっと意地悪な事を言ってみる。


「私、犬が大好きなんです。けど、お母様がアレルギーを持っていてずっと飼えなくて…。だから将来、犬が飼いたいんです」


「素敵だね、犬王国でも作ろうか」


「い、犬王国ですか?」


「うんっ」


 クレマンド様が嬉しそうに頷く。

 私もつられて笑う。


 動物が苦手なのに。

 ただ、話を合わせてくれただけかもしれない。

 けれど、私の気持ちを尊重してくれた事が嬉しかった。


 でも、彼にとってはこの婚約は政略的なものだろう。

 それでもいい。

 私たちの関係は、これからゆっくりと築いていけばいい…それで良かった。

 

 婚約式も終え、あとは私が高等学院を卒業してからの結婚。

 人生の予定は順調だった。



 彼女…そう…ライラ・コルトが現れなければ……




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