書類が、急に届かなくなった
――地方役人視点――
最初は、些細な違和感だった。
いつも期日ぴったりに届いていた書類が、来ない。
問い合わせを出しても、返事が遅い。
「中央は何をしているんだ?」
そう愚痴をこぼした翌週、ようやく届いた通達は――
内容が、致命的に噛み合っていなかった。
予算は未承認。
人員は不足。
指示は曖昧。
以前なら、あり得なかった混乱だ。
「前は、こんなことはなかったはずだが……」
同僚が、ぽつりと言った。
「悪役令嬢が追放されたでしょう」
その一言で、点と点が繋がった。
王都にいた頃、私は彼女と一度だけ会ったことがある。
多くを語らず、しかしこちらの事情を即座に理解し、
必要な許可を、すべて整えてくれた人だった。
感情ではなく、現実を見ていた。
善意より、結果を優先していた。
――だから、嫌われたのだろう。
今、地方は疲弊している。
それでも王都は、まだ気づいていない。
秩序は、自然に保たれていたのではない。
誰かが、黙って支えていたのだ。
追放されたのは、悪役令嬢。
だが失われたのは――
国を回していた、理性だった。




