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王は、何も祈れなかった
――王太子視点――
聖女の祈りが失敗した日、
私は初めて、祈り以外の沈黙を知った。
会議室に並ぶのは、赤字の報告。
止まる物流。
怒号を上げる貴族。
「……前は、こんなことはなかった」
誰かが言った。
分かっている。
前は、誰かが全部、調整していた。
嫌われ役を引き受け、
数字を合わせ、
「無理だ」と言う役目を。
――悪役令嬢が。
私は聖女の隣で、
優しい言葉だけを選んでいた。
難しい判断は任せ、
責任は見ないふりをした。
それを「信頼」だと思っていた。
違った。
ただの、逃げだった。
今、祈る者はいる。
だが、支える者はいない。
私は王太子として、
初めて理解した。
奇跡は、土台があって初めて成り立つ。
そしてその土台を、
自分は切り捨てたのだと。
祈りはできない。
許しを乞う相手も、もういない。
残ったのは、
自分で背負うしかない現実だけだった。




