1/12
聖女の奇跡が止まった日
聖女の祈りは、奇跡と呼ばれていた。
病は癒え、作物は実り、人々は救われた――ことになっている。
その裏で、帳簿はずっと赤字だった。
無計画な施し。
感情だけの救済。
「祈ればなんとかなる」という、無責任な楽観。
それを現実に引き戻していたのが、
私――“悪役令嬢”だった。
数字を合わせ、怒りを引き受け、
理想の後始末をする役目。
だから、嫌われた。
そして私が追放された日。
聖女は、いつも通り微笑んで祈った。
――奇跡は、起きなかった。
人々は慌て、王は顔を青くし、
聖女は初めて、自分が「祈るだけの存在」だと知る。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「……奇跡って、あの人が支えてたんじゃないか?」
答えは、もう戻らない。
祈りは無料だ。
現実には、代償が必要だった。
それを払っていた人間は、
もう、この国にはいない。




