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【短編小説】DIE HARD サウナ

掲載日:2025/12/17

「サウナに、行きませんか」

 不用意に言ったが最後、それは覆されることはない。

 サウナは戦場だ。つまり闘争領域だ。

 サウナは我慢大会などと言う生易しいものでは無い。

 それはれっきとした闘争なのだ。

 サウナに男たちは流れる汗をものともせずに座り続ける。

「それでも構わないか?」

 お前のような育ちの良い人間が指し示すサウナと、おれたちのサウナは認識が一致しているのか?

 男は頷く。

 こちらも黙って頷き返す。


 服を脱ぎ、汚れを落とす。

 そして湯船に浸かって毛穴を拡げることから始まる。

 じわり、額に汗が浮かび始めたらそれが合図となる。

 おれたちはサウナに入る。



 男たちはより高い場所に座ろうとする。

 男たちはより背筋を伸ばそうとする。

 男たちはより静かに呼吸をしようとする。

 そうやって男たちは耐え続ける。

 男たちは自分の方が強いのだと誇示する為にサウナの上席に姿勢を正して座り静かに呼吸をする。

 先に入っていた男たちより早く出てなるものかと歯を食い縛る。

 だが白い歯を見せたりしない。

 後から入ってきた男が先に出た時は思わず微笑みを繰り出しそうになる。

 だがやはり白い歯を見せたりしない。

 サウナにおいて白い歯は敗北そのものだからだ。


 そうやって静かに座る男たちでサウナ室が満員になった時、サウナの外に列が形成される。

 挑戦者の男たちだ。

 そうするとサウナ室の男たちはおもむろに立ち上がりスクワットを始める。

 ヒンズースクワットだ。

 膝を爪先から出さず、太股が床と水平になるまで腰を落とす。

 そして脱落した者からサウナ室を出ていく。

 これが男たちのサウナ室に於ける掟だ。

 悠長に待っていては日が暮れる。

 いや、夜が明けてしまう。



 並んだ人数だけ、サウナから男たちが出ていくまでスクワットは繰り返される。

 何故スクワットなのかと言えば単純にスペースの問題だ。

 腕立てや腹筋では場所を取り過ぎる。

 だからスクワットなのだ。

 かつては拳闘で決めていたと言う記録もあるが、時間がかかり過ぎるので誇大妄想の類ではないかと思う。

 ここはロシアでは無いからだ。



 そして新しく入ってきた男たちは一番低い場所に座る。

 序列だ。

 階級社会だ。

 出て行った者の場所にはサウナ室に入ったのが先の順番で座っていく。

 ヒノキが渇く事は無い。

 常に男たちの汗で黒く変色している。


 当然、そんな場所にマットだのハットだのを持ち込む人間は嘲笑されてお終いだ。

 時折、水のボトルを持ち込む愚者もいる。

 もちろん笑いものだ。

 後ろ指を差されると言うのはこのことだ。

 だが一度だけ、サウナスーツを着た男が水を持って入ってきたのを見た事がある。

 おそらく減量中の格闘技者だろう。

 そういう人間に男たちは敬意を払い、一番熱い場所を譲る。

 適度に水を飲みながらのサウナは効果的だ。

 だからそのボトルも嘲笑の的にはならない。

 強い男こそ正義なのだ。

 それがサウナだ。



 サウナは出た後も戦いがある。

 戦いと言うよりは、礼節みたいなものだ。

 水風呂に入って声を上げるような男は駄目だ。

 眉ひとつ動かさず、歯を食い縛る事もなく平然と冷水に入ってこそのサウナ男だ。

 当然、頭まで浸かる様な無礼者は二度とサウナ室に入れない。

 きちんと手桶で水を汲んで汗を流すように被り、そして平然と水風呂に入る。

 それでこそサウナ男なのだ。

 きっちりと水風呂で身体を冷やし、ゆっくりと立ち上がって外に出る。

 この時にフラついてもいけない。

 それは隙だからだ。

 サウナ男たるもの、しっかりとした足取りで外に出て椅子に座る。

 座る際も、背筋を伸ばし、腕を組み、ゆっくりと目を瞑る。

 表情を崩してはならない。

 どんなに気持ちよく整っていようとも、男たるもの平然としていなければならない。



 ちなみに一番馬鹿にされるのは、サウナを出たあとに体重計に乗って「500g痩せたわ」と言う男だ。

 そんな男は顔を覚えられて二度とサウナに入れなくなる。

 そうやって男たちのサウナ室は回っている。



 女のサウナは知らん。

 どうせブランド物のタオルで序列でも決めてんだろう。

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