入院(2)
リュート(・・・マジで?)
セラフィナ(マジ。)
衝撃的なことを聞いた。
まさか、こんなタイミングでセプテム・ルクスが殺されるなんて・・・
リュート(犯人はユリウス?)
セラフィナ(そうなんだろうけど・・・少し厄介なことになっているんだよね)
リュート(厄介・・・?)
セラフィナ(レオンがデルフェ・・・何とかという花に変貌した時の魔力と同じ魔
力をその死体が持っていたんだ)
リュート(てことは、ユリウスはそのメンバーが何らかの形でレオンに乗っ取られ
る前に、殺しておいたってことかな?)
セラフィナ(多分そうだね。)
ルーベルト(僕がユリウスと遭遇した時に、転がっていた死体も同じ魔力が出てき
たっぽいし、間違いないね)
てことは、ユリウス味方説あるか?
どっちにしろ、ヴァルドと同じレベルの警戒をしとくべきだな。
リュート(ルーベルト、ユリウスと戦った?)
ルーベルト(戦ってないよ。でも、殺された人たちは皆、抵抗なく一瞬で殺されたかのよう
な状態だったから相当な実力者だと思う)
リュート(騎士団は、どう動いてる?)
セラフィナ(総力を挙げて、ユリウスを捜索中。でも、まだ見つかっていない)
リュート(マジかよ。一体、何が目的なんだ?)
セラフィナ(さあ。本人に聞かないと分からないね)
リュート(そうだな)
セラフィナ(じゃあ、また明日)
念話が、完全に途切れた。
俺は、ベッドに横になったまま、天井を見上げた。
セプテム・ルクスのメンバーが惨殺されれ、その犯人と思わしきユリウスが逃走した。そして、ヴァルドの組織が一週間後に戦争を仕掛けてくる。
滅茶苦茶だな。
「リュート」
「ん?なんだ?」
「僕ら、なんで学園に通うことにしたんだっけ?」
「えっと・・・冒険者になるため?」
「にしてはスケジュールがハードすぎない!?」
「そうだよねwww」
珍しくルーベルトが大きい声を上げた。そんだけ混乱してんだろうな。
俺は笑って見せた。
だが、心の中では、不安が渦巻いている。一週間後、何が起きるのか。ヴァルドの組織は、どれだけの戦力を持っているのか。ユリウスは、何を企んでいるのか。分からないことだらけだ。
「どーしたもんかな・・・」
俺は、ベッドに横になったまま、ずっと天井を見つめていた。考えれば考えるほど、状況は複雑に絡み合っていく。まるで、解けない糸のように。
とりあえず、もう寝るか。今考えこんでもしょうがないし、其処は明日の俺が何とかしてくれるよね?
今は身体を治すことに専念するか。
「リュート・・・まだ起きてるんだ」
「はyごrgvうぇgるれwqap!!!」
「いつも思っているんだけど、リュートが驚いた時、どうして奇声を上げるの?」
「そりゃあ、誰だって・・・驚いた時変な声が出るだろ?あれと同じだよ!!!」
恥ずかしさのあまり、ヤケクソにそう言った。
「それで、お前も色々考え込んでるんだな」
「・・・まあね」
「考えるなって言う方が無理だろ、あれだけのことがあったんだから」
俺は天井を見上げたまま言った。
「そうだね」
「実は僕、あの後調べたんだよね。ユリウスの事」
「どうだった?」
「何も出てこなかった」
ルーベルトの声に、僅かな戸惑いが滲んでいた。
「名前もない。所属もない。騎士団の記録にも、冒険者ギルドのどこにも。まるで、最初からこの世界に存在していないみたいに」
「意図的に消されたか・・・」
「多分ね。あれだけの実力者が、記録に一切残っていないというのは、普通じゃない」
ユリウス・ノイン。セプテム・ルクスのメンバーを一瞬で仕留め、転移魔法で姿を消した男。ルーベルトが遭遇した時の死体の状態を聞けば、その実力がどれほどのものか、なんとなく想像はつく。そして、その死体から検出された魔力は、レオンが変化した悪魔のものと同じだった。
味方なのか、敵なのか。それすら分からない。
「ヴァルドの件だけでも十分すぎるくらい厄介なのに、そこにユリウスまで加わって・・・」
「もう色々と滅茶苦茶だね・・・」
俺は、天井から視線を外し、隣のベッドに目を向けた。薄暗い病室の中で、ルーベルトは仰向けのまま、同じように天井を見上げている。
「でも、全部解決しようとするのは、やめとこうぜ」
「・・・うん」
「一週間後のことは、一週間後に考える。ユリウスのことは、実際に会った時に考える。今俺たちができることは、ちゃんと体を治して、ちゃんと寝ることだよ」
「・・・リュートってこういうこと案外得意だよね」
「え?」
「割り切ること。今に集中すること」
「それ、褒めてる?」
「褒めてる。」
「そうかよ。じゃあもう寝ろ」
「そっちこそ」
それきり、二人とも黙った。
俺はもう少しだけ天井を見つめてから、ゆっくりと目を閉じた。肋骨の辺りには鈍い痛みがある。それでも、いくらかマシだ。一日前の、あの戦いの最中に感じていた感覚と比べれば、これはほとんど平和と言っていい。
一週間後のことは、一週間後に考える。
自分で言ったくせに、完全には切り替えられていないのが情けない。でも、それでいいと思った。全部割り切れるほど、俺も大した人間じゃないし。
不安を抱えたまま眠ることも、仕方がない。
そのうち、俺は意識が遠のいていった。
翌朝、窓から差し込む光によって俺は起こされた。
ルーベルトはまだ眠っているようで、規則正しい寝息が聞こえてくる。
肩を慎重に動かしてみる。痛みは残っているが、昨日よりも可動域が広がっている。肋骨も、深呼吸した時の鋭い痛みが少し和らいでいた。
「回復が早いな・・・」
時計を見るとまだ5時を指していた。どうやらいつも通りの時間に起きたようだ。本来なら、剣の修行に励むのが一日のルーティーンなんだが、今は身体を壊している。だから今日は魔力感知の訓練メインでやっていくか。
俺は目を閉じ、魔力感知を発動した。
病室の壁。廊下。その向こうにある別の病室。
起き抜けで感知を伸ばすのは難しい。ぼんやりとした気配の塊しか掴めない。それでも、俺は焦らず、丁寧に範囲を広げ続けた。廊下を歩く看護師の気配。
隣の病室で眠っている誰かの、穏やかな魔力の揺らぎ・・・ってこれアリアの魔力だ。あれ?ほんの少しだけ、悪魔の魔力が混じってるけど、大丈夫なのか?
リュート(セラフィナ、起きてる?)
セラフィナ(起きてるけど・・・今何時だと思っているのよ・・・)
リュート(朝の五時半ぐらい?)
セラフィナ(早起きしすぎだろ。)
リュート(それ、ブーメランだから)
セラフィナ(ぶーめらん・・・って、何?まあいいか。それで、何の用?)
リュート(実はさ・・・アリアの身体に悪魔の魔力を感知したんだよね)
セラフィナ(まさか、寝込みを襲って・・・)
リュート(ちげーよ!朝早く起きて、魔力感知の訓練してたら偶々、悪魔の魔力を
感知したんだよ!!!)
セラフィナ(だよねだよね!リュートがそんな肝っ玉が大きい性格じゃないから襲わ
ないか~!)
リュート(ぶっとばすぞ?・・・それより本題に戻ろう)
セラフィナ(アリアの身体に悪魔の魔力を感知したことについて?)
リュート(そう。ルーベルトが治癒魔法をかけて侵食は止まったはずだったけど完
全には消えてないみたいで)
セラフィナ(アリアの具合分かる?)
リュート(今の所安定している。なんなら悪魔の魔力を自分の魔力として扱えそう)
セラフィナ(どっちにしろ、先生には言ったがいいかも)
リュート(多分何処かでルグ先生と会うかもしれん。その時に聞くからセラフィナ
はそっちでルグ先生探して伝えといて)
セラフィナ(りょうか~い。あ、このことアリアには伝えてないよね?)
リュート(さすがに伝えてないよ。とゆうか、今伝えに言ったら間違いなく不審者
として処理される)
セラフィナ(まあ、今日の状況次第で私が伝えとくよ。兵士は一人だけでも多い方
がいいでしょ?)
リュート(兵士言うなよ・・・それじゃあ頼んだ)
セラフィナ(じゃあ、また後で)
念話が途切れた。
一度体を休めてから、魔力感知を発動させた。だが、今回は隣の部屋で寝ているアリアの方を意識を向けた。正確にはアリアの魔力だけど。
悪魔の魔力の残滓は、アリア自身の魔力に溶け込むように、ひっそりと息をひそめている。暴れているわけでも、侵食が進んでいるわけでもない。
「今の所・・・問題なさそうだな」
魔力感知の発動をやめ周囲の様子を見ていた。隣のベッドではルーベルトがまだ穏やかな寝息を立てている。窓の外では、王都の朝が静かに始まっていた。石畳の向こうから、荷馬車の車輪が転がる音が聞こえてくる。
・・・てか、今のステータスはどうなっているんだろうか?
俺は見られないように布団の中でステータスを表示した。
リュート=アルス
Lv121
HP1434
MP1434
職業 転生者 剣士
魔法 空魔法 光魔法 水魔法
加護 なし
状態 記憶封印
スキル 鑑定 アイテムボックス 副業切り替え( 槍士 戦士 )代行思考機構
職業スキル 破嵐斬(Lv83)
無傷迎え(Lv4)
瞬界一閃(Lv12)
副業スキル(槍士)
天穿(Lv5)
貫通強化(Lv21)
副業スキル(戦士)
戦意高揚(Lv12)
偽死回避(Lv6)
HPとMPが完全に同じ数値になってるの何なの?これも個性ってやつなのかな?ルーベルトの数値はMPに偏りまくっていたし。
んで、代行思考機構君?君はどうゆうスキル何だい?ずっと鑑定を妨害しているけどさ、そろそろ教えてくれると助かるんだけど・・・って言っても意味はないか。
ほんと、このスキルは一体何なんだろうか。
「まあ、考えてもしょうがないか」
俺は、ステータス画面を閉じた。
今は、目の前のことに集中するべきだ。一週間後の戦争やヴァルドという圧倒的な敵。そして、ユリウスの謎行動。まずはこの問題を解決しないとな。
午前の診察を終えて少し経った頃、病室の扉が静かにノックされた。
「リュート君、入ってもいいですか?」
「どうぞ」
扉を開けて入ってきたのは、ルグだった。昨夜と変わらない、落ち着いた佇まい。ただ、その目だけが、どこか一段と鋭くなっているような気がした。
「体の具合はどうですか?」
「昨日よりはだいぶましです。回復が思ったより早くて、医者にも驚かれました」
「そうですか。それは結構なことです」
ルグは椅子を引き寄せて、静かに座った。ルーベルトもちょうど目を覚ましたところで、ぼんやりとした顔でこちらを見ている。
「実は、お二人に話があって来ました。昨夜、騎士団長に報告を行いました。ヴァルドの宣戦布告のことと、セプテム・ルクスのメンバーが殺害された件について」
「騎士団はどう動いているんですか」
「一週間後に向けて、緊急の防衛計画を立て直しています。ただ・・・」
「「ただ?」」
「ヴァルドの組織の規模が、全く掴めていません。何人いるのか、どこに拠点があるのか、何の目的でこの国を狙っているのか。昨日の宣戦布告以外に、手がかりが何もない。あの脳筋がこんなこと、できる訳がありません」
「脳筋って・・・てことはヴァルドの仲間に相当頭が切れるやつがいるってこと?」
「そうなりますね」
俺は昨日のヴァルドとの会話を頭の中で思い返した。あの男は、魔法使いの存在そのものを否定すると言っていた。新しい世界を作るためには犠牲が必要だと、まるで当たり前のことを話すように言っていた。
「どちらにせよ、ヴァルドは相当な戦力となる人間です。気を付けてください」
「分かりました。あ、ルグ先生。アリアについてなんですが・・・」
「ええ、セラフィナ嬢からも連絡を受けました。悪魔の魔力の残滓のことですね」
「はい。今朝俺が感知した限りでは、侵食は止まっていました。でも、完全に消えていないんです」
「そうですね。実は私も、朝一番でアリアさんの状態を確認しました」
ルグの表情が、わずかに曇った。
「残滓は確かにあります。ルーベルト君の治癒魔法で侵食自体は食い止められていますが、核の欠片のようなものが、アリアさんの魔力の深部に根を張っている状態です。幸いなことにその魔力に意思はありません。その為、突如として乗っ取られることはないと思います」
「除去はできないんですか?」
「難しいです。無理に引き剥がそうとすれば、アリアさん自身の魔力ごと傷つける可能性があります。今は、経過を観察するのが最善です」
「一つだけ聞いていいですか?」
俺はルグの目を見て、聞いた。
「ヴァルドのことを、知っていますか?」
ルグの表情が、一瞬だけ変わった。それはほんの刹那のことで、すぐに元の穏やかな顔に戻っていた。だが、俺の目には確かに映っていた。
「・・・昔の友人です。ただ、今のヴァルドのが間違っているのは確かです。魔法使いを消滅させることで世界を救えるなどという考えは、根本的に誤っている。私はそう思っています」
それだけ言うと、ルグは椅子を元の位置に戻し、扉の方へと歩き始めた。
「二人とも、しっかり治して退院してくること。それが今できる最善です」
「分かりました」
「はい」
「では」
そう言い残し、ルグは部屋から出て行った。扉が静かに閉まった。




