捜査(1)
扉がノックされ、一人の人物が部屋に入ってきた。
「失礼します」
落ち着いているが、力強い声だ。
入ってきたのは、褐色の肌に鋭い眼差しを持つ青年だった。身長は高く、引き締まった体格をしていた。
「セプテム・ルクスのリーダー『オルス・ジャベル』です」
彼は騎士団長に一礼し、指定された席に座った。
俺は即座に魔力感知を発動した。
オルスの魔力は・・・問題ないな。澄んだ青空のように、一切の濁りがない。悪魔の魔力が混ざっている様子は見られない。
「オルス君、まず最初に確認したい。君は昨日、校門前で握手会を行っていたね?」
騎士団長が質問する。
その声には有無を言わさぬ威圧感があり、部屋全体に静かな緊張が満ちていった。
「はい。昼休みの時間に、ファンの皆さんと握手をさせていただきました」
「その時、何か異変に気づかなかったか?」
「異変・・・ですか?」
オルスは少し考え込むような仕草をしたが、すぐに口を開いた。
「特に変わったことはなかったと思います。いつも通り、ファンの方々と楽しく交流していました」
「握手した相手の中で、印象に残っている人物はいるか?」
「う~ん・・・正直なところ、握手会では多くの方と接するので、一人一人の顔を詳しく覚えているわけではありません」
オルスは申し訳なさそうに首を振った。
「ただ、皆さん本当に嬉しそうな顔をしてくれていたことは覚えています」
その言葉には嘘がないように感じられた。
隣に立つセラフィナも、特に反応していない。彼女は腕を組んだまま、じっとオルス様子を観察しているだけだ。
騎士団長はゆっくりと頷き、満足したように小さく息を吐いた。そして間を置かず、次の質問へと移った。
「最後に聞きたい。君は|悪魔《デーモン》について、何か知っているか?」
「|悪魔《デーモン》・・・ですか?」
オルスは首を傾げた。
「授業で習った程度の知識しかありません。地上界で活動するために核が必要で、憑依する能力があるとか・・・」
「では、悪魔と接触したことは?」
「ありません。」
即答だった。質問が終わるや否や、オルスの口から迷いのない返答が飛び出した。
セラフィナが俺に視線を送る。
俺は彼女の視線を受け止めながら、小さく首を横に振った。
オルスの魔力に変化はない。嘘をついている様子もない。
「分かった。以上だ。次のメンバーを呼んでくれ」
騎士団長が指示を出すと、オルスは一礼して部屋を出て行った。
「それで、どうだ?オルスは」
騎士団長は静かにセラフィナに聞いた。
その声には命令口調ではなく、むしろ意見を求めるような柔らかさが含まれていた。
「嘘はついていなかったね」
「そうか。」
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扉が再び開き、次の人物が入ってきた。
「失礼します」
整った顔立ちに、完璧に整えられた髪。
洗練された動作、一切の隙のない立ち振る舞い。
「ユリウス・ノインです」
「・・・」
彼は丁寧に一礼し、椅子に座った。その一連の動作には、一切の無駄がなかった。
その姿は、まるで絵画から抜け出してきたかのように美しい。
俺の魔力感知は異常を示していない。魔力の流れは穏やかで整っており、悪魔の魔力は感じられなかった。
だが、セラフィナが真理視で嘘を検知したらしく、気をつけろと合図を送ってきた。
「ユリウス君、君も昨日の握手会に参加していたね?」
「はい。ファンの皆様と貴重な時間を過ごさせていただきました」
完璧な笑顔。完璧な言葉遣い。
「握手した相手の中で、気になった人物はいたか?」
「全ての方が大切なファンですので、特定の誰かだけを気にするということはありません」
「では、悪魔について何か知っているか?」
「知識としては存在を知っている程度です。実際に見たことはありません」
「本当に、悪魔と接触したことはないのか?」
騎士団長が念を押す。
「・・・はい」
「私はただのアイドルです。悪魔などという危険な存在と関わるはずがありません」
騎士団長は少し考え込んでから、次のメンバーを呼ぶよう指示した。
ユリウスは丁寧に一礼し、部屋を出て行った。
扉が閉まると、セラフィナが小声で呟いた。
「彼、嘘をついてる」
「やっぱり?お前、何か検知したような素振り見せてたもん。それで何処の部分が嘘だったんだ?」
俺はそう問いただした。
「名前」
「「「名前?」」」
俺とルーベルト、騎士団長は不思議そうな顔をしてそう言った。
俺が『ほかの所は?』と質問するもセラフィナは『ない』と言い切った。
「でも、名前だけだよね?そこまで問題ないと思うんだけど・・・」
「・・・そうだね。不安要素ではあるけど今回の事件とは無関係っぽいし。今のところは」
「でも、警戒すべき存在なのは変わらないからな。」
そんな会話を交わしていると、三人目がこちらの部屋に歩いてきた。
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次に入ってきたのは、小柄で可愛らしい少年だった。
「『フィン・ミラージュ』です」
柔らかい声。可愛らしい仕草。
俺の魔力感知が反応した。
フィンの魔力は・・・表面は柔らかく、優しい魔力。
「フィン君、握手会の時のことを聞かせてほしい」
「はい。たくさんの方が来てくださって、とっても嬉しかったです」
可愛らしく首を傾げる。
「握手した相手の中で、覚えている人はいるか?」
「う~ん・・・みんな可愛い女の子ばかりだったから、誰が誰だか・・・」
フィンは困ったように笑った。
「悪魔について、何か知っているか?」
「ボク、そういう怖い話は苦手で・・・」
フィンは両手を顔の前で組んだ。
「でも、授業で習ったことくらいは知ってます」
「では、悪魔と接触したことは?」
「ないです。そんな怖いもの、会いたくないです」
その言葉は・・・真実だった。
フィンは悪魔と接触していない。
「分かった。ありがとう」
フィンは可愛らしく一礼し、部屋を出て行った。
「此奴は只の可愛いショタだけだね。」
「セラフィナ。そこ言っちゃうんだ」
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次に入ってきたのは、暗い雰囲気を纏った青年だった。
「セス・クロウです」
小さな声。うつむき加減の視線。
彼の魔力は・・・なんだこの量。
多分だけど、魔力量は恐らくルーベルトと同じくらいの量だな。とんでもない魔力量だ。
「セス君、握手会の時のことを聞かせてほしい」
「・・・はい」
セスは俯いたまま答えた。
「ファンの方々と握手をしました。でも、僕なんかと握手して喜んでもらえたのか・・・」
「自己評価が低いんだね」
騎士団長が優しく声をかける。
「・・・はい。僕はメンバーの中で一番才能がなくて・・・皆さんに迷惑をかけていると思います」
その言葉には、深い自己嫌悪が滲んでいた。
いや、いっちゃあなんだけど魔法使いとしてはお前が一番才能あるよ。
「悪魔について、何か知っているか?」
「・・・僕みたいな人間に憑依する悪魔なんて、いないと思います」
自虐的な笑み。
「では、接触したことは?」
「ありません」
その言葉は・・・真実だった。
セスは悪魔と接触していない。憑依もされていない。
セスは部屋を出て行った。
出て行ったのを確認すると俺とルーベルトはお互いを見合った。
「なあ、ルーベルト。彼奴の魔力量・・・」
「魔力量がどうかしたの?」
セラフィナが問いかけてきた。
「ああ、まあルーベルト並みの魔力量をしてたんだよ。彼奴」
「えぇ・・・まじかよ・・・」
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次に入ってきたのは、柔らかい笑顔を浮かべた青年だった。
「『アレン・リヒト』です」
穏やかな声。優しい表情。
アレンの魔力は・・・そこまで問題ない量か。
「アレン君、握手会の時のことを聞かせてほしい」
「はい。皆さん、とても楽しそうでした」
柔らかい笑顔。
「君は何か気づいたことはあるか?」
「気づいたこと・・・ですか?」
アレンは少し考え込んだ。
「う~ん・・・特には・・・」
「本当に、何も気づかなかったのか?」
騎士団長が念を押す。
「・・・いえ、その・・・」
アレンの笑顔が僅かに歪んだ。
「実は、少しだけ・・・気になったことがあって」
「何だ?」
「握手会の時、メンバーの一人が・・・少し様子がおかしかったんです」
その言葉に、部屋の空気が一変した。
「詳しく聞かせてくれ」
「その人、握手する時の手つきが・・・普段と違っていて。まるで、何かを探るような、そんな感じでした」
「誰だ?」
騎士団長が身を乗り出す。
アレンは躊躇した。
仲間を裏切るようなことを言っていいのか、迷っている様子だった。
「・・・言わなければ、この事件は解決しないよ」
セラフィナが静かに言った。
アレンは深く息を吸い込み、そして答えた。
「・・・ユリウスです」
部屋に、重い沈黙が落ちた。
ユリウスだと?
「ユリウス・ノインが、おかしかったと?」
「はい。彼、握手する時に相手の手を少しだけ長く握っていたんです。それで、何か呟いていたような・・・」
「何を呟いていた?」
「すみません。聞き取ることができませんでした・・・」
俺たちは顔を見合わせた。
ユリウス・ノイン・・・彼奴が、犯人なのか?
「アレン君、ありがとう。勇気を出して話してくれて」
騎士団長が労う。
アレンは複雑な表情で頷き、部屋を出て行った。
「あれれ?誰かな?今回の事件とは無関係とかほざいた人は?」
セラフィナが明らかに不機嫌そうな様子で、視線を横に逸らしている。頬を膨らませているわけではないが、その態度からは『話を聞く気ありません』というオーラが滲み出ていた。




