作戦
校門に向かうと、そこには既に数人の騎士たちと、ルーベルト、そして変装したセラフィナの姿があった。
どうやら、俺がここに到着する前から、とっくに集合して待ち構えていたらしい。
・・・てか、彼奴ら準備が早すぎだろ。
よく見るとルーベルトなんていつもより気合いの入った服装で決めてるし、セラフィナは変装のはずなのに妙に凝った装いをしてるし・・・
なんだこれ、学校の遠足かよ。
思わず心の中でツッコミを入れずにはいられなかったが、今回はスルーすることにした。
「お、来たね~・・・ってなんだよ、君だけ質素な服じゃん。おしゃれとか興味ないの?あ、もしかして『ミニマリスト』ってやつ?服も人間関係も最小限に抑えるタイプ?」
セラフィナが会って早々、ニヤニヤしながら煽ってきやがる。腹立つんですけど。
ああもう、いつか此奴にナックルパンチをお見舞いしたい・・・本気で。
拳を握りしめながら、俺は必死に平静を装った。
「リュートってそんなに服を持っていないの?」
「そうだよ。ずっと学費とか貯金とかに回してまともな服なんて持っていないんだよ・・・」
この点、ルーベルトは本当にやさしいな~。ほんと優しい。
セラフィナみたいに平然と煽ってくることもないし、いつも穏やかな笑顔で接してくれる。俺が困ってる時だって、さりげなくフォローしてくれるし。こういう仲間がいるって、本当にありがたいことだよな。
・・・たまに毒吐いてくることがあるけど。しかも厄介なことに、あの笑顔のまま、さらりと急所を突いてくるんだよな。メンタルが豆腐な人は多分死んでる。
「・・・全員集合しましたか?」
騎士団の一人が俺らに向かって丁寧な口調で話しかけてきて、俺たちは揃って頷いた。三人は全員来たことを伝えると、用意されていた馬車の方へと案内してもらった。
・・・さすが王都の騎士団馬車。しっかりした作りになってる。
三人は順番に、騎士団の馬車へと乗り込んでいった。俺とルーベルトは初めて乗るためか少しワクワクしていた。セラフィナは・・・此奴変装してるのにもかかわらず優雅に乗り込んでいやがる。もう少し庶民ぽい雰囲気を出せよ・・・
全員が席に腰を落ち着けたのを確認すると、御者が手綱を握り、馬車が走り始めた。窓の外に流れていく学園の景色を横目に、俺たちを乗せた馬車は王都の中心部へと向かっていく。
目的地は騎士団本部。
さて、どう来る・・・セプテム・ルクス。
馬車に乗り込んで暫くたった。
セラフィナが静かに口を開いた。
「ねえ、二人とも。今日の事情聴取だけど、一応作戦を確認しておきたいんだ」
「「作戦?」」
俺とルーベルトはセラフィナに聞き返した。
セラフィナは自分の目を指差して、また口を開いた。
「セプテム・ルクス七人全員にこの真理視使うと、体力削られてぶっ倒れちゃうんだよね・・・」
「お前、俺と最初逢った時めっちゃ使ってたくないか?」
「ああ、それね。あの時はエネルギーがなくなるまで使ってたんだよね。今は色んなことにエネルギーを割いてるから、連発に扱えなくなった」
「じゃあ、どうするの?」
ルーベルトが身を乗り出す。
「まずは普通に質問をして、反応を見る。その中で怪しい動きをした人物にだけ、真理視を使う」
「なるほど・・・つまり、最初は観察ってことだね」
「そう。嘘を見抜くだけが真理視じゃない。相手の仕草、視線の動き、声のトーン・・・そういう細かい部分から、怪しい人物を絞り込む」
セラフィナは腕を組んだ。
「それに、もし本当に悪魔に憑依されている人物がいるなら、魔力の流れも違うはず」
「魔力の流れ?」
「悪魔は人間とは異なる魔力を持つ。直接憑依型なら、憑依された人間の魔力に悪魔の魔力が混ざるはずなんだ」
ルーベルトが補足する。
「でも、それを感知できるのは相当な魔力感知能力が必要だよね」
「そこで、リュートの出番」
セラフィナが俺を見た。
「お前、魔力感知得意だろ?」
「まあ、一応な」
「じゃあ、セプテム・ルクスのメンバーが入ってきた時、それぞれの魔力を感知してほしい。もし悪魔の魔力が混ざっていたら、すぐに教えて」
「分かった」
俺は頷いた。
「僕は何をすればいい?」
ルーベルトが尋ねる。
「ルーベルトは、彼らの言動を記録して。後で矛盾点を洗い出すために」
「了解」
三人は互いに視線を交わし、頷き合った。
「それと、もう一つ」
セラフィナが声のトーンを落とした。
「もし本当にセプテム・ルクスの誰かが犯人だとして・・・その人物は、自分が疑われていることに気づいているかもしれない」
「昨日の睡眠薬事件のこと?」
「そう。もし盗聴器があったなら、俺たちの推理は全部筒抜けだった。犯人は今頃、どうやって切り抜けるか考えてるはず」
「つまり、警戒してるってこと?」
「そういうこと。だから、今日の事情聴取では、相手も必死に嘘をつくかもしれない。まあ、彼らが盗聴器を仕掛けていた犯人だったらの話だけど・・・」
ルーベルトが顎に手を当てた。
「でも、セラフィナの真理視があれば、どんな嘘も見抜けるよね?」
「それが・・・問題なんだよね」
セラフィナは少し困った顔をした。
「確かに嘘を見抜ける。でも、『本人が真実だと思い込んでいる嘘』は見抜けないんだ」
「え?」
俺は驚いた。
「どういうこと?」
「例えば、悪魔に記憶を操作されていたら? 本人は嘘をついているつもりはない。だから、真理視でも『嘘』とは判定されない」
「なるほど・・・厄介だね」
ルーベルトが眉をひそめる。
「だから、魔力感知と真理視、両方を組み合わせる必要があるんだ」
「分かった。俺も全力で魔力を感知する」
その時、馬車がゆっくりと減速し始める。
「どうやら、着いたみたいだね」
窓の外を見ると、そこには立派な石造りの建物が堂々とそびえ立っているのが見えた。
騎士団本部だ。
建物の前には、既に何人もの騎士が待機している。
そして、その奥には・・・
「あれが、セプテム・ルクス?」
ルーベルトが小声で呟いた。
「恐らくな」
建物の入り口近くに、七人の人影が見えた。
距離が縮まるにつれて、その姿がはっきりと見えてくる。華やかな衣装に身を包んだ、若い色男たちがそこにはいた。
馬車が完全に停止し、扉が開かれる。
「さあ、行こうか」
セラフィナが立ち上がる。
俺とルーベルトも続いて馬車から降りた。
騎士団の一人が近づいてきて、丁寧に頭を下げた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
三人は騎士に案内され、騎士団本部の中へと入っていった。
廊下を進むと、やがて大きな扉の前で立ち止まった。
「この部屋で事情聴取を行います。セプテム・ルクスのメンバーは既に到着しており、一人ずつ順番に呼び出します」
「分かりました」
扉が開かれ、中に入ると、そこには長いテーブルと椅子が並んでいた。
騎士団の幹部らしき人物が数名、既に席についている。
「ようこそ。君たちがリュート君、セラフィナ様、そしてルーベルト君だね」
中央に座っている騎士団長らしき人物が声をかけてきた。
「はい」
三人は頷いた。
「では、早速始めよう。まず最初に、君たちから昨日の事件について、詳しく聞かせてもらいたい」
俺たちは席に座り、改めて昨日の事件について説明し始めた。
魔物化事件の詳細。
核コアのこと。
憑依型の分析。
女子生徒ばかりが被害にあったこと。
握手会と右手の異形化の関連性。
全てを話し終えると、騎士団長は深く頷いた。
「なるほど・・・よく調べたね。我々も同じような結論に達していた」
「では、セプテム・ルクスが?」
「ああ。ただ、彼らは魔物が突然発生したことについての取り調べと、そう伝えている」
「つまり、右手が肉塊になったり、背中を突き破ったり、少女が魔物に変化したとかは、話していないのね?」
「そうだ。」
そりゃそうか。あんな風に変化したことを知ったら驚くだろうな。
騎士団長は手元の書類に目を落とした。
「では、最初のメンバーを呼ぼう」
扉がコンコンと軽くノックされ、一人の人物が部屋に入ってきた。セプテム・ルクスのメンバー、一人目。
俺は即座に魔力感知を研ぎ澄ませた。
事情聴取が、始まった。
部屋の空気が、一気に張り詰める。さあ、どうなる・・・?
俺は心の中で身構えながら、相手の言葉を待った。




