三日目
アシスタントみたいな感じで『(自称)文章力のある人』が修正してくれました。その為、少し読みやすくなったと思います。
【アリア・グランツ】
扉が静かに閉まり、三人の気配が廊下の奥へ遠ざかっていく。
アリアは、しばらくその場から動けずにいた。
「はぁ・・・」
張り詰めていた緊張が、まるで糸が切れたかのように一気に抜けていく。
全身を支えていた力が失われ、膝の力もがくりと抜けて、思わずベッドの縁に腰を下ろした。深いため息が自然とこぼれ落ちる。
「ほんと、嵐みたいな人達・・・」
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ胸の奥底には、何とも言葉にできない不思議なざわめきが残っている。心臓の鼓動が、ほんの少しだけいつもと違うリズムを刻んでいる。
「・・・戻っちゃった、んだよね」
自分に言い聞かせるように、そっと呟く。
三人の姿はもうどこにもない。
部屋を見渡せば、そこにあるのはいつもの、見慣れた寮室の風景だけだ。変わったものなど何一つない。シーツに残った微かな温もり。 床に残る、魔力の擦れたような感触。 そして何より胸の奥に引っかかる、説明のつかない不安。
その正体が何なのか、自分でもわからない。
「何も、起きませんように」
アリアは護符を両手で握りしめ、そう願った。
【リュート・アルス】
三人はセラフィナの部屋に入った。
「うわーお。荒らされてるね」
「そうだね・・・」
「片付け手伝おうよ?」
「いいよ。別に」
不意に、誰かが扉を軽くノックする音が響いた。
反射的に魔力感知を研ぎ澄ませる。扉の向こう側から感じ取れる魔力の気配は・・・
「ルグ先生?」
「入ってもいいですか?」
ルグ先生の声が扉越しに聞こえる。
「どうぞ」
セラフィナが答えると、扉が静かに開いた。
ルグが部屋に入り、荒らされた室内を一瞥する。その表情は、驚きよりも理解に近いものだった。
「やはり、こうなりましたか」
「先生、知ってたんですか?」
俺が聞くと、ルグは小さく頷いた。
「完全にではありませんが。今日の食堂での事件の後、学園内で不審な動きがあるという報告を受けていました」
「不審な動き?」
ルーベルトが身を乗り出す。
「ええ。セラフィナ様の部屋に出入りする清掃員の一人が、通常の勤務時間外に部屋の鍵を開けようとしていたところを、警備の者が目撃しています」
「あらら、やられたね」
「その清掃員は現在、騎士団が事情聴取を行っています。ただし、本人は『忘れ物を取りに来ただけ』と主張しており、まだ確たる証拠は掴めていません」
ルグ先生は部屋の中を見回した。
「しかし、この部屋の状態を見る限り、誰かが何かを探していたのは明白です」
「何を探してたんでしょうか?」
「ただの八つ当たりで荒らした可能性もあるけど・・・」
「おそらく・・・あなた方三人が今日の事件について話し合った記録、もしくは証拠となるもの」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
「てことは、やっぱり盗聴されてたってことですか?」
「可能性は高いでしょう。騎士団が現在、この部屋を調べています。盗聴器が見つかれば、それが証拠になります」
ルグは真剣な表情で三人を見た。
「あなた方三人が夕飯に睡眠薬を盛られたこと、そして転移魔法で逃れたことは、既に騎士団に報告してあります」
「えっ、いつの間に?」
「リュート君、あなたが私の耳元で囁いたでしょう?『何かあったらすぐに騎士団を』と」
「あ・・・そういえば」
「私はすぐに騎士団に連絡しました。あなた方が無事だと分かって安心しましたよ」
ルグは少し表情を緩めた。
「ところで、一つ聞きたいことがあります」
「何でしょうか?」
「あなた方は今日の事件について、どこまで推理していますか?」
三人は視線を交わした。
「・・・どこまで話していいんでしょうか?」
セラフィナが慎重に尋ねる。
「全て話してください。あなた方の推理は、騎士団の調査にも役立つはずです」
俺たちは頷き合い、今日一日で分かったことを全て話し始めた。
魔物化事件のこと。
核のこと。
直接憑依型と間接憑依型のこと。
女子生徒ばかりが被害にあったこと。
セプテム・ルクスの握手会のこと。
右手の異形化のこと。
そして、セプテム・ルクスの誰かが犯人ではないかという仮説。
ルグは黙って聞いていたが、時折深く頷いていた。
「なるほど・・・よくそこまで推理しましたね」
「でも、証拠がないんです。状況証拠だけじゃ、犯人を特定できない」
ルーベルトが悔しそうに言う。
ルグは三人を見た。
「騎士団は明日、セプテム・ルクスのメンバー全員に事情聴取を行います。あなた方三人も、立ち会ってもらいたい」
「立ち会う・・・?」
「ええ。あなた方は実際に魔物と戦い、この事件について最も深く推理している。あなた方の視点が、真実を見抜く鍵になるかもしれません」
三人は顔を見合わせ、頷いた。
「分かりました」
「では、明日の朝九時に騎士団本部へ。それまでは、自分の部屋で休んでいてください。もう今夜は何も起きないよう、警備を強化してあります」
「出席点数とかって大丈夫なんでしょうか・・・?」
俺は出席点数について少し声のトーンを落として、心配そうに尋ねた。
「そこについてはご安心を。公欠扱いとしますので」
そう言い残しルグは部屋を出て行った。
「セプテム・ルクスのメンバー全員か・・・こりゃあ骨が折れるね。なぁセラフィナ?」
俺はゆっくりと、邪悪な笑みを浮かべながらセラフィナの方へと視線を向けた。
「ねぇ・・・もしかしてだけど、私の真理視使わせようとしてる?」
「せいか~い!」
俺はゆっくりと、意味ありげに人差し指を一本、彼女の目の前に立てて見せた。
その瞬間、セラフィナは何かを察したように、両手で頭を抱え込んだ。
「これね、地味に疲れるのよね・・・嘘はすべて見抜いてしまうから」
「でもさ、それがないと犯人を特定できないよ。状況証拠だけじゃ弱すぎる」
ルーベルトが真剣な顔で言う。
「セプテム・ルクスの七人。その中の誰かが嘘をつく。それを見抜けるのは、セラフィナの真理視だけだ」
「・・・分かってるわよ」
セラフィナは諦めたように肩を落とした。
「明日、全力で見抜いてやる。誰が犯人なのか、何が真実なのか、全部ね」
三人は決意を新たにした。
「とゆうか、お前のその目真理視て言うんだ・・・」
「わからないのも無理はないさ。これはレアな特殊スキルだから」
「「へ~・・・」」
俺は寮に戻った。
部屋に入ると、壁に掛けられた時計はもう既に十一時を指していた。こんな時間では、アランもケルビもとっくに眠りについているだろう。
俺はできるだけ物音を立てないよう気をつけながら、すぐに寝る準備を始めた。
風呂は・・・どうしようか?今から入るのも面倒だし、他の寮生を起こしてしまうかもしれない。
そう考えた末、俺はとりあえず洗面所で濡れタオルを用意し、全身をくまなく丁寧に拭いていった。首筋から腕、背中、足先まで、汗や汚れを落とすように念入りに拭く。これで少しはマシになっただろうな、と自分に言い聞かせた。
拭き終わると、使い終わったタオルを洗濯籠にポイッと放り込んで、静かに寮部屋へと戻った。
俺は足音を忍ばせながら自分のベッドまで歩み寄り、そっと毛布をめくって潜り込んだ。枕に頭を沈めた瞬間、今日一日の疲れがどっと押し寄せてくるのを感じた。
明日の方が色々と大変だ。そう思いながら俺は眠りについた。
朝だ。
俺は誰よりも早く目を覚まし、まだ薄暗い部屋から抜け出した。寮の仲間たちがまだ夢の中にいる静かな時間帯、俺はいつも通りの習慣を黙々とこなしていく。
剣の素振り。
魔力感知の訓練と、その発動時間の継続。
その繰り返し。地道で単調な作業だが、これが確実に俺を強くしてくれる。そう信じて、俺は今日も朝の鍛錬を続けてる。
そして、寮に戻り、国語の長文を解く。
問題集を開いて鉛筆を握ったところで、背後から声がかかった。
「おう、リュート。えらい早起きやな」
振り返ると、アランが眠そうな顔でベッドから起き上がっていた。
「おはよう、アラン」
「おはよう・・・って、お前昨日どこ行っとったんや?夕飯時に部屋おらんかったやろ」
「あー・・・ちょっと色々あってさ」
俺が曖昧に答えると、今度はケルビも目を覚ました。
「んー・・・朝か。おはよう、リュート」
「おはよう、ケルビ」
ケルビもベッドから降りてきて、二人は俺の周りに集まった。
「で、昨日何があったんや?」
アランが再び聞いてくる。
俺は少し考えてから、話せる範囲で説明することにした。
「昨日の食堂の魔物化事件、覚えてるだろ?」
「ああ、あれな。女子生徒が次々と魔物に変化した奴」
「僕も戦ったよ。かなり大変だったね」
「実はあの後、セラフィナと一緒に事件について話し合ってたんだ」
「ほう」
アランが興味深そうに身を乗り出す。
「それで、色々と推理してたんだけど・・・夕飯に睡眠薬盛られた」
「「は?」」
二人が同時に驚いた声を上げた。
「睡眠薬って・・・お前、大丈夫なんか?」
「大丈夫だよ。咄嗟に転移魔法を使える知り合いに助けてもらって、何とか逃げ切った」
「転移魔法・・・そんな高等魔法使える奴おるんか」
ケルビが驚いたように呟く。
「で、誰がそんなことしたんだ?」
「それが、まだ分からないんだ。清掃員が怪しいって話はあるけど、確証はない」
俺は慎重に言葉を選んだ。セプテム・ルクスのことは、まだ話せない。
「なんや、物騒な話やな・・・」
「それでさ、今日は学校休むことになった」
「え、休むんか?」
「ああ。騎士団から呼び出されてて、事情聴取に立ち会わないといけないんだ。公欠扱いになってるから」
「事情聴取・・・それって、昨日の事件のこと?」
「そう。詳しいことは言えないけど、重要な調査らしい」
二人は顔を見合わせた。
「なぁ、リュート」
アランが真剣な顔で俺を見た。
「お前、何か危ないことに巻き込まれとるんちゃうか?」
「・・・否定はできないな」
「僕も心配だよ。睡眠薬を盛られるなんて、普通じゃない」
ケルビも不安そうな表情をしている。
「大丈夫だよ。騎士団が付いてるし、ルグ先生も事情を知ってる。それに、セラフィナも一緒だ」
「そうか・・・まあ、お前なら大丈夫やとは思うけどな」
アランは納得したように頷いた。
「でも、無理すんなよ。何かあったら俺らにも言えよ」
「ああ、ありがとう」
「それで、今日一日学校休むんだね?」
「そうだな。朝九時に騎士団本部に行かないといけないから」
「分かった。先生には僕らから伝えておくよ」
ケルビが優しく言った。
「助かる。頼んだ」
「授業のノートも取っといたるわ」
「サンキュー!!!」
俺は二人に感謝した。
こういう時、信頼できる仲間がいるってのは本当にありがたい。
「じゃあ、俺は準備するから」
「おう、気をつけてな」
「うん、頑張ってね」
二人に見送られながら、俺は着替えを始めた。
今日は、全ての真実が明らかになる日だ。
セプテム・ルクスの中に潜む犯人を、必ず見つけ出す。
そう心に誓いながら、俺は騎士団本部へ向かう準備を整えた。




