実技訓練
そろそろ新キャラの設定資料集を書かないとな。
三時間目は実技訓練。要するに体育だ。ちなみに着替えとかは大丈夫だそうだ。どうやらこの真っ白な制服でそのままやるらしい。すげー汚れそうだが・・・大丈夫だろうか。
場所は・・・何処だっけ?
「アラン・・・次の実技訓練受ける場所、何処か分かるか?」
「・・・何処や?」
「ケルビも分かる?」
「ううん、分かんない」
誰も分からないんじゃあ授業の受けようがないやん。そういえばルグが体育科の教師だよな?なんか数学とかそういう風なことを教える教師の雰囲気してるから、実技訓練教えるの想像もできないんだよな・・・
一旦ルグのいる場所を特定するか。
でもあの人、常に隠密してるからか魔力感知に引っかからないんだよね。どうしたもんか・・・とりあえずダメ元で魔力感知やってみるか。
――――――――――――――――魔力感知―――――――――――――――――
・・・いたわ。普通に体育館?の様な所で仁王立ちしてるし。職務放棄?
でも、何でこんな所に・・・あ!
俺は朝ルグが言ってたことを思い出した。
「三時間目は体育なので、私の現在地を特定して此方に来てください」
特定して・・・てまさかとは思うけどルグの居場所を特定するのが今回の体育の授業の内容なのか?
「なぁ・・・アラン、ケルビ、もしかしてだけどさ、今日の実技訓練ってルグが何処にいるか特定するのが今回の授業内容なんじゃ・・・」
「そんなわけ・・・この学園やったらありえるかもしれん」
「そうだよね・・・」
なんか色々と別の意味でレベルが高い学校だな。何でこんなに授業の難易度が高いんだ?
見た感じ、今の所クラスメイトは皆付いて行けてるけど、此処からどんどん脱落していくかもしれんぞ?
「それか、ルグ先生は見つかった?」
「ん、ああアラン。ルグ先生は一応見つけた。とりあえずそこに向かうから二人ともついて来て」
そう言い、俺、アラン、ケルビは体育館らしき建物に向かった。
とはいえ、とても遠い。何なら建物の外に出ないといけない。どんだけ広いんだよこの学校。
歩いてしばらく、途中迷いつつも俺らはルグのいる所に到達したのだ。
ルグがこちらに気付き、小さく呟いた。
「・・・まあ、想定内ですね」
「ん?何か言いましたか?ルグ」
「コラ、ダメやろ。先生に向かって呼び捨てなんて」
アランに頭を軽くたたかれた。地味に痛い。
「私は別に構いませんよ」
この体育館で待って暫くすると、誰か入ってきた。クラウスだ。
その後、アリア、アルフォンスと続々と入ってきた。
やっぱ一組は優秀な奴が多いんだろうな。何人かは魔力感知は扱えないだろうに。
全員来たのを確認すると、ルグはホイッスルを吹いた。
「「「「ピーーーーッ!」」」」
「フッw」
俺は笑いを堪えるのに必死になった。だって想像できんもん。
幸いにもその姿をルグには見られなかった。もし見られていたら首が飛ぶところだった。
「それでは、実技訓練を開始します。」
ルグはそう言うと、ゆっくりとこちらを見渡した。
表情はいつも通り淡々としているが、その視線だけは物凄く鋭い。
「今回の訓練内容は単純です」
そう前置きしてから、指を一本立てる。
「生存能力の確認」
・・・ん?
「え、体育ですよね?」
誰かが小さく呟いたが、ルグは気にする様子もない。
「この学園では、実技訓練=運動ではありません。動けるかどうかではなく、生き残れるかどうかを見ます」
うわぁ・・・嫌な予感しかしない・・・
「まず第一段階。今から私が、この体育館内に簡易的な妨害結界を展開します」
ルグが指を鳴らす。
瞬間、体育館の空気が微かに歪んだ。
魔力の流れが、明らかに変質している。これは一体何だ?
「この結界内では、魔力感知・視覚・聴覚のいずれかが不安定になります。どれが弱体化するかは、人によって違います」
生徒たちがどよめき始める。
「第二段階。その状態で私に一撃でも触れられたら合格です」
「触れられたら、ですか?」
クラウスが冷静に問いかけた。
「はい。攻撃は不要。触れるだけでいい。ただし、私は反撃もしますのでご注意を」
うん、知ってた★
「安全面は大丈夫なんだろうな?」
アルフォンスが確認する。
「致命傷は与えません。ただし、動けなくなる程度の打撃は普通に入ります」
普通に、って言ったなこの人。この人の普通がこちらにとっては普通じゃないんだけど。
何故かルグは突然、視線を俺に向けた。
「なお、魔力感知に頼りすぎている者ほど、不利でしょう」
完全に俺を見て言ってるな。
「制限時間は十分。脱落者が出た時点で終了とします」
脱落者って何だよ。気絶?骨折?死亡?
「質問は?」
誰も手を挙げない。挙げられる空気じゃないもんな。
「では・・・」
ルグが一歩、後ろに下がった瞬間、気配が消えた。
「開始」
次の瞬間、床を蹴る音。その音と同時に冷たい殺気が俺らがいる方に漂ってきた。
俺は本能的に横へ飛んだ。
直後、さっきまで立っていた位置を、風が裂いた。
「・・・速っ!」
アランが叫ぶ。
クラウスは即座に距離を取り、アリアは一歩も動かず周囲を観察している。
ケルビは既に他の人と共に結界の性質を分析し始めているようだ。
魔力感知は・・・やっぱり発動しないか。
クソッ!ルグの位置が、掴めない。となると視覚・聴覚で頼らないといけないな。
「いいですね」
どこからともなく声がした。
「ですが、まだ探している段階だ」
背後にルグがいる。
咄嗟に振り向くが、そこにはすでに誰もいなかった。
次の瞬間、俺の肩に衝撃が走った。
「遅い」
視界が揺れ、床を転がった。
「がっ・・・!」
息が詰まる。
マジかよ・・・隙が見えない。物理的な意味で。ルグの圧倒的なスピードで隙が一切見えないのだ。
立ち上がろうとした瞬間、ルグはもう別の生徒の前にいた。
「ほう、判断は悪くない」
クラウスの攻撃を、指一本でいなす。
「だが、甘い」
この人絶対に暗殺者か何かだろ。頭おかしいほど移動が速いんだよ。ほんとどうなっているんだか。
俺は歯を食いしばり、再び立ち上がった。
生存能力の確認、か。
・・・なるほどね。この学園、ほんと容赦する気が一切ないよな。
それでも・・・
「やってやるよ!」
倒れる気は、さらさらなかった。
すぐに立ち上がり、体制を取った。
その瞬間、何かが吹っ切れたような感じがした。
床を踏みしめた瞬間、足裏から伝わる感触が妙に鮮明だった。
呼吸が深くなる。胸いっぱいに空気を吸い込んでも、一切苦しくない。むしろ足りないと感じるほどだ。視界が、澄んでいく。色が濃くなり、輪郭が研ぎ澄まされていく。人の動きが、はっきりと分かる。
「そこだ」
全身に衝撃が走る・・・が何とか受け身を取り、衝撃を最小限に抑えることができた。
難解か喰らって気づいたことがある。それは一撃一撃の威力はティオさんと比べて意外と痛くないことだ。いや痛いのは変わらないが・・・
その分スピードが異次元の速さをしている。到底追いつける速さじゃないな。
あれからずっとルグの攻撃を見てるからか慣れてきて、行動パターンは分かりやすくなって、初動よりはマシに動ている。
動けるだけで、倒せる可能性はないけども。でも、見えるようにはなった。だが一つ問題がある。圧倒的なスピードを出している状態であっても隙は一切ないのだ。
どうする・・・?
ずっと隙を伺ってはいるが、逆に隙だらけと言ってぶっ飛ばされたからな・・・
「ッ!!」
視界の端で、アリアが一瞬だけ結界の歪みを踏んだ。魔力感知が使えない代わりに、足裏と空気の流れで位置を測っているみたいだ。
クラウスは真正面から距離を詰め、アルフォンスが横から回り込む。
無意識の役割分担。だが、ルグはそれを読んでいた。次の瞬間、アルフォンスの攻撃が空を切り、クラウスの足元が払われ、体勢が崩れた。
やっぱり目で追える速度じゃない・・・が、その速度を出す為には一度踏み込みをおこなわなければいけない。ルグが踏み込む直前、床が僅かに軋んだ。
その瞬間を待ってた俺はすぐに前に出た。只々、手を伸ばした。
・・・が届かなかった。
「惜しい」
次の瞬間、肩口に衝撃、体が横に吹き飛ばされる。
床に手をつき、反動で体を起こす。肺が軋む感覚はあるが、呼吸はまだ制御できている。
「・・・まだだ」
視界の端で、アランがわざと大きく動いた。
・・・なるほどそういう作戦か。だったら俺はヘイトを稼ぐことに徹するか。
後方に下がって腕を上げ、わざと大きな隙を作る。案の定、ルグはそこへ踏み込んできた。
「判断が・・・!」
「「「「バリンッッッ!!!」」」」
言葉の途中で、ルグの動きが僅かに止まった。ケルビが結界を解体したのだ。
ナイスタイミングだ!ケルビ!
ルグはすぐさま結界を再度発動した。
・・・が俺はそれよりも早く魔力感知を発動した。
「・・・見つけた!」
俺は真っ先にルグがいる方にまっすぐ向かった。
よし、真正面だ。行ける!!
「今だ!」
全身に走る衝撃。さすがに読んでたか・・・
腹部に重い一撃をもらい、体が後方へ吹き飛ばされる。
でも、これでいい。注意は十分引いた。
「ありがとな、リュート!」
ルグの死角から、アランが踏み込む。
ルグはすぐにそこから離れた・・・一瞬ではあるがアランの指先が確かルグの左腕に触れた。
「・・・まさか、君が触れるとはね・・・合格です」
ルグは俺たちの方を向いて言い放った。次の瞬間、結界が壊れたと同時に傷と疲労、服の汚れなどがきれいさっぱり消え失せた。この人何でもできるな・・・やべぇよ。ほんと。
俺は疲労が回復しているのにもかかわらず、謎の疲れが生じて床に転がった。
息を整えながら、俺は天井を見上げた。心臓が、まだ暴れている。
確かな手応えだけが、身体に残っていた。




