第4話 土と炎が繋ぐ日常
朝の光が、村の小道を柔らかく照らす。
藍は今日も小さな工房の前に立ち、手元の土と向き合った。昨日の文化祭で得た反応は、まだ胸に熱を残している。村の人々の笑顔も、少しずつ自信に変わっていった。
「藍さん! お願いがあります!」
駆け寄ったエルハンが、手に半壊した水受けを抱えていた。
「この水受け、村の井戸から運ぶ途中で割れてしまったんです。」
「わかったわ。ちょっと見せて。」
藍は手早く割れた部分を確認し、土を練る。
「ただ直すだけじゃ面白くない。耐久性も少し上げてみましょう。」
藍は壊れた水受けを土で補強し、焼き上げる。炎の中で土が変化するたび、器は強さと温かみを増していく。焼き上がった水受けを手に取ると、エルハンの目が輝いた。
「すごい……これなら長持ちします!」
「土が生きているからね。ちゃんと向き合えば、応えてくれるのよ。」
藍は微笑む。手仕事の積み重ねで、人々の生活を少しずつ支える——それこそが、異世界での自分の役割だと思えた。
その日の午後、街の商人が工房を訪れた。
「君の器、文化祭で評判になっていたね。ぜひ仕入れたい。」
藍は少し驚きながらも、商人と品物や価格、配送方法について相談する。小さな村の工房から、街にまで製品を届ける──そんな可能性が開けた瞬間だった。
さらに、侯爵令嬢クラリスも訪ねてきた。
「藍さん、器の修理や焼き上げだけでなく、村の生活を支えるのも素晴らしいわ。」
クラリスは藍の手元を覗き込みながら、真剣な目で言った。
「もしよければ、領地の支援も考えたいの。」
藍は言葉に詰まる。支援があれば、村の復興や窯職人の育成にも取り組める——だが、自分一人の技術ではなく、人々と共に作ることが必要だ。
夜、藍は窯の前に座り、古窯の守り手・長老の言葉を思い返した。
「土は嘘をつかぬ。君の手は、この国を変える第一歩になる。」
小さな修理から始まった日常が、国の文化や経済、歴史にまで影響を与える可能性がある——そのことを、藍は初めて実感した。
「よし……もっと、上手くなろう。村のみんなのために、そしてこの国のために。」
炎の揺らめきが、藍の決意を静かに照らした。
手にした土と器は、ただの道具ではない。人の心をつなぎ、未来を焼き固める力がある——藍はそう信じ、今日も小さな窯に火を入れるのだった。




