第3話 小さな工房が国を変える日
村の朝は穏やかに始まった。
藍は昨日修理した碗や壺を整理しながら、ふと遠くの街で開かれる祭りのことを思い出す。村人の話では、年に一度、領主直轄の街で文化祭が開かれ、手工芸品が展示されるのだという。
「……行ってみようかしら。」
藍はそっとつぶやいた。小さな工房で培った技術を、もっと広い世界に試したい気持ちが芽生えたのだ。
祭りの日、藍は小さな陶器の品々を箱に詰め、エルハンと共に街へ向かった。道中、村の景色は徐々に広がり、城壁に囲まれた街が見えてくる。人々の服装や建物の華やかさに、藍の胸は高鳴った。
文化祭の広場には、色とりどりの手工芸品が並ぶ。藍は緊張しながらも、自分の作った碗や壺、耐火煉瓦を並べた。小さな窯で焼いた器は、どれも土の温もりが伝わる色合いだ。
すると、ひときわ目立つ令嬢が近づいてきた。侯爵令嬢クラリス——品のある立ち居振る舞いで、藍の作品を手に取る。
「……これは……。とても繊細で、美しいわ。」
藍は照れくさそうに頭を下げる。
「ありがとうございます。私は藍といいます。現代で陶芸を学んでいました。」
クラリスは微笑み、作品を指で軽く撫でる。
「あなたの器には、ただの美しさ以上のものがありますね。何か……歴史や記憶を感じるような。」
その言葉に、藍は心をざわつかせた。確かに、窯の炎と土の触感が呼び起こす感覚は、ただの器ではない何かを宿していた。
祭りが終わり、帰路の途中、古びた建物に導かれるようにして藍は立ち寄った。そこには、長老と名乗る老人が座っていた。古窯の守り手——この村で唯一、土の記憶に通じる人物だ。
「……君が、異世界から来た者か。」
長老は静かに藍を見つめる。
「土は嘘をつかぬ。君の手は、かつてこの国で失われた技術を蘇らせるだろう。」
藍は言葉を失った。長老の眼には、深い知識と警告の色が混じっていた。
「……でも、どうして私に?」
「土が、君を選んだからだ。」
長老は藍に、古窯の秘密を少しだけ示す——焼き方によって土の記憶が現れるという伝承だ。壊れた器を修復するとき、過去の出来事や感情がうっすらと映し出されることもあるという。
「覚えておきなさい。君の仕事は、この国を変える第一歩になる。」
夜、藍は村に戻り、小さな窯を前に考える。
土の中に歴史が眠り、手仕事で未来が作られる——そう思うと、胸の奥の熱がさらに強くなる。
「よし……もっと、上手くなろう。」
藍は火を見つめながら、静かに決意した。小さな工房と手作業で、国の未来を焼き固める——その日が、きっと来るのだ。




