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第2話 小さな窯から始まる日々

小さな村の朝は、鶏の声で始まった。

藍はまだ異世界に来たばかりの身体を伸ばし、昨夜のことを反芻する。壊れた碗や壺を手に取り、修理する約束をしたまま眠ったのだ。


「……まずは、土と親しくならないと。」


藍は工房の隅に設置された小さな窯を確認する。見慣れない形だが、原理は同じだ。火を起こし、空気の流れを調整しながら土をこねる。手に触れる感触が、胸の奥を温めた。現代の工房では、緊張感と正確さが勝負だった。ここでは、もっと穏やかに、土の声を聞くことが求められる。


最初の仕事は、ひびの入った小碗の修復だ。

藍は手際よく土を練り、ひびに慎重に詰める。余分な部分は削り落とし、形を整え、釉薬をかける。村の子どもたちが興味深そうに覗き込む。


「藍さん、何してるの?」

エルハンが声をかける。

「これ? 碗のひびを直しているの。壊れたものも、手をかければまた使えるようになるのよ。」


火に入れると、土がゆっくり色を変えていく。炎の中で器は生き返るかのように輝く。藍は息を詰めて見守った。


やがて、最初の修理が終わる。

「できた……」藍は小さくつぶやき、碗を手に村人に差し出す。

老人が手に取ると、目を細めて笑った。

「まるで新品じゃ。ありがとな、藍さん。」


その笑顔に、藍の胸は高鳴った。手仕事で、人の心を動かせる——これこそ、私のやりたかったことだ。


夕方になり、村の広場では小さな騒ぎが起きていた。

壊れた壺を抱えた子どもが、家の前で泣いている。藍は駆け寄り、落ち着いた声で言う。

「大丈夫、明日直してあげるから。」

子どもは安心して頷いた。その場面を見たエルハンも、目を輝かせる。

「藍さん……やっぱり、ただの職人じゃないな。」


夜、窯の前で藍は独り考える。小さな器を直すだけで、人の笑顔を生み、日常を少し変えることができる。

そして、土に触れるたび、どこか懐かしい“記憶”のようなものを感じるのだった。


「——この国の秘密も、きっと土が知っているんだろうな。」


静かに火を消し、藍は明日の仕事に思いを馳せた。

小さな窯から始まる日々が、やがて国を変える——その兆しは、確かに、土の匂いと共に漂っていた。

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