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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第七話 鏡

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7-04.竜狙いの魔物達

 ディージュが、リクリスに視線を向けた。

「ぼくは、信頼できる魔獣を他にも知っているよ。だけど、ここまで頼ってきたのに、最後はなしっていうのはないかなって思ったからね。ディージュがいやだって言うならともかく、ぼくの方から切り離すのは好ましくないだろうって判断だよ。あと、レシュウェルも言ったけれど、火が近くにある方が、エイクレッドにとってもいいからね。火属性で一番速いのは、ディージュだし」

「そう……ねぇ。あれからどうなったかしら、というのは、確かに気になるかも」

 人間と同じように、魔獣にもプライドや好奇心はある。自分が関わった竜がどうなったかという気持ちもあるし、ずっと協力してきたのに最後は切り捨てられた、となれば、気に障るというもの。

 そういったことを想像できるから、レシュウェルとリクリスは炎馬達を呼び出したのだ。

「我々といることで、お前達の危険度が上がるのだろう。その点については、いいのか?」

「さっさと逃げてくれればいい話だ。炎馬が本気で走れば、追い付ける奴なんてそう多くはないだろ?」

「持ち上げたところで、何も出ないぞ」

 お互いが少し笑いながら、相手を見る。

「双方、問題なしってことでいいかな?」

 リクリスの言葉で、話がまとまった。

☆☆☆

 最初の目的地は、西地区のランザーンだ。

 西地区は、東西に比べて南北の距離が長い。そして、今回の目的地は、そのほぼ北端になる。出発地は南地区なので、かなりの距離だ。

「今日は何を探すのだ?」

 目的地へ向かいながら、ログバーンが尋ねる。

「竹林エリアにある石だ。集陽石(しゅうようせき)って名前で、太陽の光がこもっているらしい」

「ちくりん?」

 ログバーンは石の名前より、竹の方に反応を示した。

「竹が群生している場所だ」

「たけって何?」

 真横で並走しているディージュが尋ねる。

「全体が緑で、ほぼ等間隔に節がある植物だよ。上の方には笹と呼ばれる葉が茂っていて、かなり細長い形をしているんだ」

「ああ、あの緑の細長い木のこと。あれって、リック達はたけって言うのね」

「ディージュ達は、竹って呼び方はしないの?」

「緑の木、ね。たけって言い方はしないわ」

 どうやら、炎馬達に「竹」という名称は存在しないらしい。見たままで「緑の木」という感覚なのだ。

「見えている部分は茎で、厳密には木とは呼ばないんだけれどね。でも、これは人間が勝手に決めた分類だから、パラレル魔界や魔獣には通用しないのかな」

 竹の名前はともかく、炎馬達はだいたいの場所を知っている、と言う。それなら問題はない。

「しっかり掴まっていろ」

 ログバーンがそう言い、突然一気に浮上する。ディージュの方も、同じように高度を上げた。

 その直後、それまで炎馬達が飛んでいた辺りに、黒い物体が飛んで行く。

 そのまま滑空していたら、ログバーンの身体もしくはレシュウェルの後ろに座っているルナーティアの背中に、それが当たっていたかも知れない。

 実際には炎馬が急浮上したので、黒い物体は眼下を通り過ぎて被害は受けずに済んだ。

「な、何なの?」

 ルナーティアが振り返ると、飛行系の恐竜みたいな生き物がこちらへ向かって飛んでいた。少し離れているが、たぶんログバーンよりも大きいと思われる。

 大きな翼はあるが、そこに羽はないのでロック鳥ではない。顔は長いが、その顔にくちばしのようなものはないので、鳥ではないだろう。

「レシュウェル、プテ何とかみたいなのが飛んでる。鳥タイプの恐竜」

「プテラノドンだろ」

「そう、それ」

 姿形は見たことがあるが、恐竜に興味のかけらもないルナーティアは名前が出て来なかった。

 とにかく、あの恐竜もどきな魔物が追って来ているのだ。

「最初の客だな。思ったより、早い登場だ」

「あんなお客さん、いらないわよぉ。さっき飛んでいったの、何? プテラノドンって、何か吐いて攻撃するんだっけ?」

「似てはいるが、恐竜と怪獣は別物だぞ」

 恐竜は身体が大きくても、普通の獣と同じ。攻撃は爪や牙だ。口から火を噴いたり、ビームを出すのは怪獣。

 ルナーティアは、その辺りを混同している。

「攻撃してきたのは、あいつに乗ってる奴だ」

「え? 乗ってる?」

 レシュウェルに言われ、もう一度ルナーティアは振り返った。

 さっきは恐竜もどき全体の姿しか目に入っていなかったが、その背にゴブリンのような魔物の姿がある。

「あ、本当。気付かなかった」

 ルナーティアが見た時は、魔物の頭の陰に隠れてわからなかったのだろう。

 土気色の肌に、頭には角が一本。顔は凶暴そうな作りで、笑みを浮かべているのが不気味だ。

 さらによく見れば、近くに同じような組み合わせの飛行物体。ざっと五組はいるだろうか。

「土系の魔物だろう。自力では飛べないから、飼い慣らした魔物に乗って来た、というところだろ。不意打ちするところまではよかったが、ログバーンやディージュには通じないな」

 ログバーンはあの魔物の殺気に気付き、飛ぶルートを外れたのだ。

 さっきと同じような黒い物体がまた飛んで来たが、ログバーンは楽々とかわす。どうやら、土のつぶてを投げているらしい。

 エイクレッドはルナーティアのブルゾンのポケットに隠れているし、気配は薄くなってわかりにくいはずだが、炎馬と魔法使いの組み合わせで適当に攻撃をしかけているのだ。

 なので、ルナーティアだけでなく、リクリスの方にも土のつぶては投げられていた。どちらかに竜がいる、と見越しての攻撃だろう。

 もちろん、ディージュもあっさりとかわしているので、問題ない。

 自力ではなく、投石機のような物を魔物の背中で使っているようだが、向かい風の中で投げているようなものなので、大した威力とスピードは出ないようだ。

「ねぇ、どうする?」

 ディージュが、誰にともなく尋ねた。

「お前達の体力魔力を温存、というのなら、振り切る。あの程度なら簡単に引き離せるし、奴らに長距離は飛べないはずだ」

「あの恐竜もどきは、魔力も低そうだしねぇ。それじゃ、頼めるかい?」

「わかった。落ちるなよ」

 リクリスの言葉を受け、炎馬達がスピードアップする。

 それまでは速く空を駆けていてもあまり風を感じなかったのだが、速度が上がったことを感じると同時に、強い風を全身に感じる。

 ルナーティアはレシュウェルの後ろにいるので彼が壁になってくれているが、前のレシュウェルは強すぎる風で息ができなくなるんじゃないか、と心配になった。

 走ったのは、体感で恐らく数分。だが、風が緩くなった気がしてルナーティアが振り返ると、後ろには誰もいなくなっていた。

「まいたの?」

「俺達の目には見えないから、そうだろう。ログバーンが言ったようにスタミナはなさそうだし、気配をたどってまた追って来るとしても、時間がかかるだろうな」

 一行が目的地に着き、用を済ませて次に出発する頃に追い付ければ、まだいい方。追い付けたとしても、こちらが今のように逃げてしまえば、また追い付くのはあちらの能力的に不可能だ。

「もう平気?」

 エイクレッドが、ポケットからこそっと顔を出す。

「うん。でも、出ちゃダメよ、エイクレッド。危ないからね」

 襲われると言うより、今は飛んでいる最中なので、軽いエイクレッドは風に飛ばされかねない。

「ここには、キョウリュウっていうのがいるの? それも竜の仲間?」

 ポケットの中で、ルナーティアとレシュウェルの会話を聞いていたエイクレッド。ちらっと「りゅう」という言葉が聞こえたので、気になっていた。

「え? ああ、竜って言葉は付くけど、エイクレッド達とは全然違うわ。人間界にいたんだけど、その生物はずーっと昔に絶滅してるの。それによく似た魔物がいたから、そういう話になったのよ」

 自分達の中では竜と恐竜は全くつながらないので、言われてみれば「竜」という字が付くなぁ、と改めて気付いた。

「それにしても、あの程度で我々をどうかできる、と考えるのか。なめられたものだ」

 ログバーンが、不愉快そうに鼻を鳴らす。

「うまくいけば、という運任せの部分もあるんじゃないかな。もしくは、どうしても竜の力がほしいから、という強い欲望に突き動かされているとかね」

「これから現れるとしたら、ああいう運任せのバカか、ちょっと面倒なバカでしょうね。本当に弱い奴と、賢い奴は来ないわよ。そう簡単に竜の力が手に入ることはないって、ちゃんとわかっているから。こういう世界で生きるには消極的、とも言えるけどね」

 ディージュの言う面倒なバカとは、前回来た時に現れたコウモリの魔性のような輩のことだ。中途半端に強くてしつこいのは、確かに面倒である。

「あれじゃねぇか」

 どこからか、そんな声が聞こえた。

 進行方向の横から、いくつかの影が現れている。近付いてルナーティア達にも見えるようになると、現れたのは人間のような顔を持つ大きな鳥の魔物だった。

「もしかして、ハーピー……とか?」

「そのようだね。ここで現れるとは」

 ルナーティアは、急いでエイクレッドをポケットの奥へと隠した。

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