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1-07.教室へ

 学校に対してと同様、隠しておいて見付かった時に騒がれるより、クラスメイトにも最初から見せておいた方がいい。

 ルナーティアはエイクレッドを肩に乗せて、堂々と教室へ入った。許可はもらったのだ、隠す必要はない。

「おはよう、ルナーティア……ねぇ、肩に何か乗ってるよ」

 ちょっと固まりながら、友達が指摘する。

 今のエイクレッドはほとんどトカゲサイズなので、気付いたクラスメイトは「何、これ」と少し引いていた。

 紺の服に鮮やかな赤い身体のエイクレッドが乗っていれば、白系の服ほどでなくても目立つ。無視できないので、友達は伝えるだけで精一杯だ。

 もっとも「何乗せてんのよー」などと言いながら、勝手にぽいっと放られてしまうのは困るので、これくらいの反応の方がいい。

「この子はね、紅竜のエイクレッドって言うの」

 ルナーティアは、なるたけ普通に紹介する。

「え? 紅竜って……これが竜なの?」

「うん。事情があってね」

 登校してきたクラスメイトが増えるに従い、ルナーティアを囲む輪も広がって騒がしくなってきた。

 事情を説明するが、後から教室へ入って来るクラスメイトにまた同じ説明をすることになる。前に立って、一気に説明を終わらせたい気分だ。

「ねぇ、その子、先生に見付かったらまずいんじゃない?」

 隠すそぶりもなく、堂々とエイクレッドを手のひらに載せているルナーティアを見て、クラスメイトが心配してくれる。

「それは大丈夫。さっき、先生に許可をもらったから」

「ねぇ、触ってみてもいい?」

 この手の言葉が来ると思っていたルナーティアは、困ったような笑みを浮かべた。

「昨日の今日で、まだエイクレッドも本調子になってないの。まだ帰れる方法がわかんないし、しばらくは一緒にいるから。もう少し待ってあげて」

 反発されかねないから、ダメとかの拒否する言葉は出すなよ。

 クラスメイト達の反応を想定したレシュウェルは、お願いするような言葉を使うように、とアドバイスした。

 先が見えない状況で、ルナーティアも楽ではない。そんな彼女の気持ちも知らず、触ってみたいという好奇心を否定されれば、自分だけ竜と触れやがって、と反発する人間もきっと出るだろう。

 そうならないための予防策だ。

「そっか。魔力を抜かれるって、たぶん大変だろうしね」

「帰れるまで、か。なら、それまでは話くらいできるよね」

「うん。言葉は通じるから」

 ルナーティアが下手に出たためか、レシュウェルやルナーティアが危惧したような空気にはならなかった。しばらくいる、という言葉も効いたのだろう。

 ホームルームのチャイムが響き、クフェアが入って来る。

 連絡事項を告げた後、少しエイクレッドにも触れた。

「確かに珍しい存在ではあるが、あまり構い過ぎないようにな。本来のサイズならともかく、竜だと言ってもあのサイズだから、対応できないこともあるだろう。今一番してはいけないのが、疲れさせることだからな」

 先生、ナイスフォロー。

 クフェアの注意を聞いて、ルナーティアは心の中で親指を立てた。

☆☆☆

 今のエイクレッドは軽いので、ずっと肩に乗せていても問題ない。授業に集中すると、その存在を一時的に忘れるくらいだ。

 魔法使いの授業なんて退屈だろうと思ったが、エイクレッドは何もかもが珍しいようで、興味深そうに話を聞いている。

 竜は魔力だけでなく、知能も非常に高い、という話を聞いたことがあるし、知的好奇心をそそられるのかも知れない。

「竜って、何を食べるの?」

 昼休み、ルナーティアと一緒にお弁当を食べていたクラスメイトのネーティが尋ねた。

「竜の世界にいる獣や魚や、あとは木の実だって。エイクレッドのお父さんのオウレンは、一年くらい何も食べなくてもいいって言ってたけど」

「あら、経済的ね」

 その言葉に、もう一人のクラスメイト、カミルレが眉をひそめる。

「ネーティったら、感心するの、そこぉ? 私だったら、たとえ平気でも食べないでいるなんて絶対無理。それがいやで、エイクレッドはリンゴを食べてるの?」

 ルナーティアのお弁当とは別に、小さなタッパーに入っているリンゴの薄切りをエイクレッドは食べていた。小さな前脚で、器用にリンゴを持っている。

「そういう訳じゃないけど……」

 言いながら、エイクレッドはしゃりしゃりといい音をさせてリンゴを食べる。

「食べなくていいって言われても、何もなしだとかわいそうでしょ。だけど、人間の食べ物が平気かわからないし……果物なら影響も少ないかなって思って」

 昨夜も、ルナーティアはずっと悩んだ。

 傷心な上にご飯抜きなんて、ますます気分が落ち込みそうだ。しかし、人間の食べる物を与えていいものだろうか。

 強い生命体として存在する竜が、人間の食べ物で体調不良になるとは考えにくいが、今は通常の身体ではない。

 とりあえず、調理したものは避けておくべきだろう。竜が料理をするなんて聞いたことがないし、加熱することで成分が変化したものでも問題ないか判断できない。塩分・糖分過多は誰にとってもよくないので、調味料の使用も悩ましいところ。

 エイクレッドの話を聞いていると竜は雑食のようだが、それなら生肉は大丈夫なのか。

 初めて人間の世界に来たエイクレッドも、その点はわからない。どちらも「初めて」ばかりなのだ。

 なので、拒否反応などが少ないだろう、と思われる野菜や果物を食べさせた。生でも食べられるし、自然に近い。

 幸い、エイクレッドがお腹を壊すこともなく、朝になる。しばらくこれでいこうかとも思うが、どうせ食べるなら体力・魔力が回復してくれる物があればありがたい。

 今のところ、エイクレッドの魔力が回復することが元の世界への帰る道なのだ。

「図書館に、そういうのってないのかな」

 ネーティの言葉に、ルナーティアは首をかしげる。

「そういうのって?」

「魔獣や竜にとって、栄養になる食べ物。図書館で探せば、何か載ってそうじゃない?」

「そっか。何か帰る方法がないか調べようとは思ってたけど、まずはそっちから探す方がいいよね」

 はっきり言って、全てが完全な手さぐり状態。

 昨日から、帰るための方法、魔力を取り戻す「直接的な方法」ばかりをどう探そうかと考えていた。

 だが、そんな簡単に見付かるはずもない。

 ネーティが言ったように、栄養をつける物について調べた方が、見付かる確率が高そうな気がする。外堀から攻める作戦だ。

 エイクレッドは体力が落ちている訳ではないようだが、今より体調がよくなれば魔力の回復も早くなる……ような気がする。

 ルナーティアは放課後になると、図書館へ向かった。

「ここ、何?」

 初めて見る本だらけの空間に、エイクレッドは目を丸くする。

 本が並ぶ棚は、昨日リクリスの部屋へ行った時にも見ているはずだが、昨日のエイクレッドに部屋の中を見回す余裕はなかっただろう。

 それに、図書館と一個人の蔵書とでは規模が違う。

「図書館っていうの。本っていう物がたくさんあって、そこに色々な情報が書かれてるのよ」

「ふぅん……わわっ」

 エイクレッドは棚と棚の間を歩くルナーティアの肩から身を乗り出し、落ちかけた。

 寸前で気付いたルナーティアが手を出し、その手のひらに落ちたので、完全な落下は免れる。

「エイクレッド、大丈夫? 歩いてる時に今みたいに身を乗り出したら、危ないよ」

「ぼく……飛べない……」

 少し呆然とした表情で、エイクレッドがつぶやく。

「え? エイクレッド、飛べるの?」

 そう言えば、エイクレッドを見付けてから今まで、ルナーティアがベレーに入れて抱いていたり肩に乗せたりしている。

 だから、自分で歩くことはほとんどなかった。まして、飛ぶなんて初耳。

「うん。こっちの世界へ来た時、少しの間だけ飛んでたんだよ。でも、力が抜けてから……」

 竜の世界では、飛んで移動するようだ。こちらの世界へ来ても飛んでいたようだが、エイクレッドの本来のサイズがどれだけにしろ、竜が飛んでいるのを見られたら騒ぎになるだろう。

 そうならなかったのは、来てすぐくらいに力を抜かれたと思われる。もしかしたら、こちらの世界へ出たら例の祠のすぐそばだった、とも考えられるだろう。

 とにかく「自分は(今も)飛べる」と思っているエイクレッド。ルナーティアの肩から飛んで、本をもっとよく見ようとしたらしい。

 だが、魔力がない今は飛ぶことなどまともにできないため、落ちそうになったのだ。

「エイクレッド、ちゃんと魔力が元に戻るまでは、無理して飛ばない方がいいよ。飛ぶことに魔力を使ったら、帰れるのが遅くなるかも知れないでしょ」

「うん……」

 エイクレッドは帰れる日が遅くなるより、今は「飛べない」ということの方がショックのようだ。

 今までできていたことができなくなる、というのは、確かにショックだろう。

 ルナーティアはなぐさめるように優しくエイクレッドの身体をなで、また自分の肩に乗せた。

 それから、エイクレッドに有効そうな食べ物について書かれた本がないかを探す。だが、未知な部分が多いため、竜についての本はあまり置かれていなかった。

 だが、それはこの図書館に限ったことではないのだ。

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