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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第六話 水(すい)の魔珠

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6-03.クラスメイトの反応

「この前までは、大学部の友人と二人で行ってました。だけど、その魔性が現れたら危険かも知れないってことで、昨日はマロージャ先生も一緒でした。あと二回行く必要があるんですが、たぶん先生もまた一緒に来てくださると思います」

 校内でエイクレッドと一緒にいられるように頼む時も、ルナーティアはリクリスの名前を出した。

 今回も大学部の教授が同行している、とわかれば反対はされないだろう。……という、ルナーティアの期待である。

 もっとも、教授の名前を出さなくても、クフェアがこの件に口を出すつもりはなさそうだ。

「そうか。……まぁ、無理はするなよ、くらいしか言えないな」

 パラレル魔界へ行って、何かあっても自己責任。とは言っても、やはり危険だとわかっている場所へ行くとわかっていれば見過ごせないから、指導者としてはあれこれ言うことになる。

 だが、ルナーティアの場合は興味本位で行くのではなく、帰れなくなった竜のため。誰かのためにやろうとしていることをやめろ、とは言えない。

 本人が危険を承知で向かっているのだから、なおさら。

「遊びなら、せめてもう少し力をつけてからにしろ、くらいは言うんだがなぁ。とにかく、注意しすぎることはないからな」

「はい」

 一つ難関が突破できたような気がして、ルナーティアは少し気分が軽くなった。

☆☆☆

 教室へ入れば、当然クラスメイト達に会う。

 ネーティやカミルレはもちろん、ルナーティアのクラスの見習い魔法使い達は、エイクレッドにも普通に声をかけるようになっていた。

 自分達と同じ教室に、もう一ヶ月以上もいるのだ。もはやエイクレッドは「最近転校してきたクラスメイト」状態である。

 最初は物珍しかったエイクレッドも、今はすっかりクラスに馴染んでいる存在だ。

 彼らはクフェアよりもさらに長い時間、エイクレッドを見ているし、話もする。その大きさも、だいたい把握しているだろう。

 ホームルームや授業の時しか見ることのないクフェアが気付いたのだ、クラスメイトが気付かない方がおかしい。

「あれ? エイクレッド、休み前と変わってないか?」

 ジュークがエイクレッドの変化に気付いた。

「あ、本当だ。細くなってるぞ」

「まさか、ダイエット……じゃないよな」

「そんな訳ないだろ。だったら、激やせだぞ」

 一人が「小さくなった」と言うと「え? どれ?」となり、全員が注目するのはすぐだった。

 どうして小さくなってるのか。

 エイクレッドのサイズの変化に気付いたクラスメイト達が、ルナーティアとエイクレッドを次々に囲んだ。この休み中に何があったのか、と。

 やっぱり、クラスのみんなには秘密にできないよね。

「えっと、実は……」

 下手にごまかすと後でぐだぐだになりそうなので、ルナーティアは正直に事情を話した。

「やっぱり、竜ってすごいんだな」

 話を聞いたクラスメイト達の、最初の反応がこれだった。

 ルナーティアが魔性に襲われ、危ないところをエイクレッドが助けてくれた、という内容だが「ルナーティア、大変だったね」というより「竜はすごい」という方にのみ注目が向いている。

 でも、みんながそう考えることに、ルナーティアも納得していた。

 見付けた時は意識がなく、自力で帰る力さえ失っているはずの竜が、魔性を消滅させてしまう程の力を発揮したのだ。

 火事場の馬鹿力、と言ってしまえばそれまでなのだが、魔性をたった一回の攻撃で消滅させる、なんて人間にはまず無理だろう。腕のいい魔法使いが余程の力を発揮したとしても、そんな芸当ができるかどうか。

 それなのに、本来なら飛んで移動できるはずが今は浮かぶこともできない竜が、それをやってのけたのだ。

 魔性の魔力の大きさや生命力を勉強している見習い魔法使いにすれば、魔力が低下しても竜はすごい、となるのも当然なのだ。

「人間だって、魔力を使い果たせば倒れるわよね。いくら人間が魔力に依存して生きてる訳じゃなくても、寝込むんじゃないかしら」

「身体が小さくなるだけで、ちゃーんと生命活動を維持できるんだもんな。竜の力って、本当に半端ねぇよ」

 クラスメイト達は、目を輝かせながらエイクレッドを見ている。やけに褒めちぎられているエイクレッドは、どう反応していいか戸惑っていた。

「すごいだろ」と言うのも違う気がするし「そんなことはないよ」と言うのも、やはり違うような。

 身体が小さくなって「大変だね」といった言葉は、誰からも出ない。

 もちろん、休み前より小さくなっていることはわかっているが、クラスメイト達にすれば「自分達が知るエイクレッドは、最初から小さい」から。

 ちなみに、ルナーティアが魔性に襲われた件について「大変だ」という言葉は、その後もなかった。

 結果的にエイクレッドに助けられて、今はこうして無事な姿でいるから、か。

「あたし、記事にエイクレッドのサイズを書いたけど……まずかったかしら」

 エイクレッドの特集記事を書いたクルスラの表情が、少し曇る。

 今のエイクレッドがどれくらいの大きさか、学校新聞の中で紹介していたのだ。現在、十四センチ程になっている、などなど。

「どーってことないだろ。いちいち測りに来る奴なんて、いないって」

 ボーシュが笑いながら言う。

「そうだよな。遠目だと、十センチも十四センチもわからないんじゃないか?」

 このクラスの見習い達なら、正確な数値はともかく、エイクレッドが小さくなったことははっきりわかる。

 だが、毎日よく見ている訳ではない人間に、大きさの違いなんてそうはわからない。間近で見ないなら、なおさらだ。

 クラスメイト達が言うことにクルスラは、そしてルナーティアもほっとした。

「ねぇ、先生に見付かるとまずくないの?」

 ひとしきり「竜はすごい」という興奮がおさまり、カミルレが現実的なことを言った。

「あ、それは平気。朝一でクフェア先生に会ったから、話はしたの」

 それを聞いて、友人達はひとまず安心した。

 こっそりパラレル魔界へ行くことはできても、ルナーティアのように目的を持ってパラレル魔界のあちこちを奔走するなんて、いくら大学部の彼氏が一緒でもちょっとまねできない。

 だから、このことでルナーティアがパラレル魔界へ行くことを禁止されたり、何らかの罰が与えられたりしてほしくなかった。

 始業前のベルが鳴る。じきクフェアが来るはずなので、クラスメイト達はおのおの席へと戻り始めた。

「エイクレッド、具合が悪くなったらすぐに言えよ」

「言って、お前に何かできるのか?」

 ジュークの言葉に、ボーシュが突っ込む。

「いや、できないけどさ」

 クラスメイト達のそんな会話に、教室のあちこちで小さな笑いが起きる。

 席についてテキストを出しているルナーティアに、エイクレッドがこそっと尋ねた。

「ルナーティア、前から思ってたんだけど……魔法使いって、みんなこんな感じなの?」

「こんなって?」

「ぼくに優しくしてくれること」

 エイクレッドの実の姉でさえ、真意はともかく、からかいに来たというのに。

「ふふ、そうね。エイクレッドが小さいから……あ、身体がじゃなく、年齢がね。幼い相手には優しくなるのよ、きっと。それに、困ってる相手には、魔法使いじゃなくても優しくしてくれる人はたくさんいるよ」

「そっか」

 また小さくなってしまったことで変に同情されるのでは、などと思っていたが、いつもとそう変わらない対応をされ、エイクレッドはほっとしていた。

 同時に、ちゃんと心配もしてもらって。

 以前「ルナーティアに見付けてもらってよかったな」とレシュウェルに言われたことがあったが、ルナーティアの周りにいる人間や魔法使いにも恵まれている、と感じるエイクレッドだった。

☆☆☆

 残念ながら、一度や二度魔果を食べたくらいでは、エイクレッドのサイズが先週のように戻ることはなかった。

 なんせ、最初にルナーティアに見付けられた時よりも小さくなっているのだ、元に戻るにしても、これまでと同じくらいの時間がかかるのだろう。

 この点は予測できたことだ。

 エイクレッドも「やっぱり」という気持ちで、そう落ち込むことはなかった。焦っても仕方がない、と腹をくくっている。

 あとは、魔珠鏡の術が早く完成することを願うばかりだ。

 今度は、(すい)の珠を作るための素材を集めなければならない。珠については、これで最後だ。そして、残すは鏡。

 だが、その前に現実問題として、ルナーティアには定期試験がある。

 勉強や練習をしなくてもパスできる程、残念ながら優秀ではないルナーティア。

 時間を取るのは日曜日だけ、とは言っても、帰ったその夜はさすがに疲れてしまい、勉強どころではなくなる。

 そういったルナーティアの事情を考慮し、パラレル魔界へ行くのは一週間空けることになった。エイクレッドも、その点は了承している。

 もちろん早く帰りたいが、ルナーティアの生活を後回しにしてまで早く術を完成させてほしい、とは思っていない。

 ルナーティアも、補習を受けることになってパラレル魔界へ行くのがさらに先延ばしになっては困るので、いつも以上に勉強に集中した。

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