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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第五話 金(ごん)の魔珠

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5-05.優しさではない

 神獣がそう感じる、ということは、魔果が確かにエイクレッドに魔力を回復させる効果を発揮している訳で、その点については喜ばしい。

「イナリーの神さんとこより、ちょっと出遅れたみたいやけどな。言い訳に聞こえるか知らんけど、場所柄いうんもあるんよ」

「場所柄?」

 レシュウェルとルナーティアは、二人して首をかしげた。

「ここは、あんたらが通てる学校が近いやろ。つまり、魔法使いや見習いがよーけ((たくさん))いる。魔法使いやったら、使い魔を連れてることもあるしな。その中に、たまたま珍しいもんがいることも考えられるやろ。この気配もそういうのかいな、ゆうことで様子見てたん。せやけど、ちょっとちゃう感じやし。そろそろ調べた方がええんちゃうかって、思てたとこなんや」

 場合によっては、ルナーティアの前に現れたのは、スズナの方が先だったかも知れない、ということ。

 魔法使いがほとんどいないイナリーでは、エイクレッドの存在が少し目立ったから、シオンが先に現れたのだ。

「俺たちは、エイクレッドが竜の世界へ戻れるだけの魔力を取り戻せる術を行うつもりでいます。それまでにエイクレッドを襲うような輩が現れたら、排除してもらえますか」

 レシュウェルが直球で聞いた。

「まぁ、対象が竜くんやと、知らん顔もできひんしねぇ」

 スズナは軽くため息をつく。

「イナリーの神さんとこはどうか知らんけど、魔物がテリトリーに入って来たから()うても、すぐに排除する訳やないんえ。基本的には、ほったらかし」

「えっ、魔物が来ても、何もしないの?」

 てっきり「悪霊退散!」的な対応をするものだ、と思っていた。

「人間が気付かへんだけで、通りすがりの魔物なんてなんぼでもいるんえ。そんなんにいちいち反応してたら、忙しゅうてしゃあないやん」

 シオンの話はそんな感じではなかったように思ったが、やはり人間と同じで神様によって対応がまちまちなのだろうか。

「せやけど、力の弱った竜を狙うとなったら、話は別やしねぇ。竜の力がどういう形でか奪われたら、その魔物の対処がえらい難儀なことになる。ほっとく訳にはいかんわなぁ」

 エイクレッドのため、というよりは、エイクレッドの力を取り込んだ魔物が爆誕しないように対処する、ということ。

 事情がどうであれ、神やそこに仕える神獣が動いてくれるなら、普段の生活も少しは安心できるはずだ。

「ごめんなさい」

 小さな声で、エイクレッドが謝った。

「ぼくのせいで、みんなにいっぱい迷惑かけてる……」

「そやな」

 ルナーティアが「そんなことないよ」と言うより先に、スズナが肯定してしまう。

「スズナさん……」

「ほんまのことや。竜くんの勝手な行動で、色んな誰かが何かをすることになったんやろ。それは事実やし、ちゃんと受け止めなあかんえ。そこは否定するとこやない。そんなんは、優しさでも何でもないえ」

 きっぱり言われ、ルナーティアも反論できない。

「お父はんがほって帰らはったんも、そういうことを自覚せぇゆうことを言いたかったんとちゃうか」

 自分の行動で周囲に、世界にどんなことが起きるのか。その目でちゃんと見て来い。

 スズナが言うように、エイクレッドの父オウレンはそう考えて、息子を連れ帰らなかったのだろうか。

 勝手な行動をすれば。一歩間違えば。力のない自分ばかりでなく、周囲の誰かさえも命の危険にさらすことがあるのだ、と。

「こういうことになるんやって頭に叩き込んだら、もうアホなことはせぇへんやろ。今回のことも、無駄な経験やなくなる。あとは自分でできること、やっていき」

「ぼくができること?」

「別に今やのうて構へん。ちゃんと力が戻ってから、あんたのために動いてくれた誰かにお礼するとかな。どういうことするかは、自分で考えや」

「……うん」

 ルナーティア達では言わないことを言われ、エイクレッドも考え込んでいる様子だ。

「とりあえず、あんたらが学校行ってる間は変なんが来たりしぃひんか、気にかけとくわ。はよ帰れるように、がんばりや」

 スズナにそう言われ、ルナーティア達は神社を後にしたのだった。

☆☆☆

「お願いよぉ、変なことは書かないから」

 水曜日。

 クラスメイトのクルスラが、ルナーティアに手を合わせて頼み込んでいた。

 魔法使いの学校とは言っても授業内容が違うだけで、一般の学校と同じように放課後に部活動する生徒は大勢いる。

 その中で、クルスラは新聞部に所属しているのだ。

 どこの学校にもあるような学校新聞も、彼女達が書いている。ちなみに、クルスラは時期部長候補だ。

 見習い魔法使いで、新聞部。

 そんな人間が、竜を目の前にしてネタにしない訳がなかった。

 が、今のエイクレッドは普通の状態ではないし、あまり騒ぎ立てないでほしい、と最初の取材交渉の時にルナーティアから断られてしまっている。

 エイクレッドが学校へ来るようになって、二日目の話だ。

 しかし、高等部のみならず、大学部でも噂になっている。こんな大きなネタが目の前にあって、何も書かないなんてありえない。

 傷心の竜のことを面白おかしく書いたら、ますます傷付くじゃない、と言われて引き下がったものの、部では「何とか書かせてもらえないか、頼め」とずっと催促されていた。いわゆる、板挟みという奴である。

「うちのクラスはともかく、学校中のみんなが興味あるんだよ。何も書かないままなんて、ありえない。ルナーティアだって、ずっと注目されてるでしょ」

 クラスメイト達がエイクレッドのにせものを作り、みんながルナーティアと同じように肩に乗せてくれている。今もそれは続けられていて、そのおかげでルナーティアだけが注目されることは少ない。

 それでも、どういった情報でか、ルナーティアを特定し、エイクレッドのことを尋ねようとしてくる見習い魔法使いは一定数いる。

「エイクレッドも以前に比べれば、気持ちも身体も落ち着いてきたように思えるし、ここでみんなにちゃんと事情を知ってもらうのはどうかな」

 ルナーティアとしてはできるだけ騒がれたくないのだが、対象が竜であればそうもいかない。

「エイクレッド、どうする?」

 一緒にはいるが、エイクレッドはルナーティアの所有物でもペットでもない。小さくても、ちゃんと自分の意思があるのだ。

 あくまでも人間の感覚で言えば「小学生くらいかな」と思ってはいる。だが、幼くても知能の高い竜であれば、しっかり自分の意思表示はできる。

「……いいよ」

 自分がしゃべっても黙っていても、結局はルナーティアの迷惑になりかねない。

 今は必然的に、交渉窓口はルナーティアになっている。それなら、取材交渉にルナーティアが応じなくてもいいようにすれば、少しは彼女のためになるのではないか。

 エイクレッドはそう考えて、返事をした。

 それを聞いて、クルスラは目を輝かせる。

「ありがとうっ」

 クルスラはそう言うと、すぐにペンとメモ帳を取り出した。

 自分で書かなくても、自動で全ての文言を筆記してくれるものだ。ボイスレコーダー系で録音し、後で文字起こしもしなくていい。新聞部の必需品である。

「それじゃあ、前にも聞いたけど、もう一度人間界へ来るきっかけを聞かせてくれる?」

 クルスラの質問は、すでにクラスメイトなら知っていること。だが、他のクラスの見習い達は知らない。

 なぜ身体が小さくなったのか、なぜこの学校にいるのか、というところからだ。

 聞かれるままに、エイクレッドは答えた。もちろん、差し支えない範囲で。

「こんなので、みんなが喜ぶの?」

 自分の行動を、クルスラが文字にするだけ。エイクレッドにとっては何が面白いのか、よくわからない。

「もちろん。だって、滅多に会うことのない竜の話よ。それが昨夜の晩ご飯のことだって、興味の対象だわ。竜ってこんな物を食べるのかって」

 ルナーティアは、こんな嬉しそうなクルスラの顔を見たことがない。それを見ていると、本当に竜の話が書きたかったんだな、と改めて思う。

「ねぇ、クルスラ。書いた記事は、発行する前に一度読ませてね。誤解されるような文章だと、エイクレッドや他の竜にも迷惑になっちゃうし」

「ええ、わかってる。ああ~、次の発行が楽しみだわ」

☆☆☆

 日曜日になり、イナリーの駅に集合する。

 いつもはレシュウェルとルナーティアだけだが、今回は一人増えてリクリスが一緒だ。

 普段は白衣を引っかけている教授だが、今はレシュウェルと同じような黒のブルゾンにデニムという、動きやすい格好をしている。

 格好もそうだが、学校以外の場所で教授と一緒に行動する、というのがとても不思議な気分だ。

 大学部の生徒ならフィールドワークでこういう状態もありなのだろうが、高等部のルナーティアにすれば妙な感じであり、新鮮な気もする。

 前回と同じように薄気(はっき)の魔法をかけるべく、レシュウェルはルナーティアと改札近くにある自動販売機の陰へ向かった。

「ガイハケ ニウヨンラカワ ウスッウ レナ」

 周囲の人に気付かれないよう、素早く呪文をかける。リクリスはゆっくり歩きながら、独り言を言ってるかのように呪文をかけた。

 三人が固まっているとさすがに目立つので、こうすることにしていたのだ。

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