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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第四話 土(ど)の魔珠

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4-11.本当はもっと

 ログバーンにカラスーマまで送ってもらい、パラレル魔界から出る際にはレシュウェルがまた薄気(はっき)の術を使った。

 これで「よくあの石碑からキョウートの学生が出て来る」と言われることはないはず。

 学校へ着くと、いつものようにリクリスの研究室へ向かった。

 今日もちゃんと、マロージャ教授は研究室にいる。……休みをしっかりと取っているのだろうか。

 そして、こちらも当たり前のようになったパフィオも一緒だ。

「お帰りなさい。今日もケガはないようね」

「電気石はうまく手に入ったかい?」

「はい。エイクレッドががんばってくれました。デンキナマズにじゃれつかれる、というハプニングはありましたが」

 レシュウェルが話している横で、ルナーティアはリュックを降ろして今日の収集物を取り出した。

「ああ、いい状態の石だね。大きさも申し分ないよ」

 レシュウェルはパフィオに魔法書を渡され、今回の呪文に目を通した。

 もう三回目なので頭に入ってはいるのだが、やはり使い慣れない魔法は緊張する。失敗して素材を無駄にしたら、というプレッシャーもあるせいだろう。

 軽く深呼吸をしてから、レシュウェルは呪文を唱えた。

「ヤキキオヨ テセワアナンミ シュマノード レハナシカンヘ レハナリナ」

 テーブルに置かれた「電気石」と「風花石」の間に「枯れ果てたトゲ」がはさまれ、宙に浮かぶ。

 素材の全てが一つに圧縮されたようになって丸くなったかと思うと、それらの周囲に黒い膜が現れ、全てがその中に隠された。

 その様子は、小さなブラックホールができたみたいだ。

 黒い膜の周囲で、青白く小さな火花が何度も散る。ここが暗い場所なら、線香花火のように見えたかも知れない。

 やがてその火花が出なくなると、ブラックホールのような珠はゆっくりとテーブルに降りた。

 中の素材を隠していた膜は消えたようだが、テーブルにある珠は黒いまま。初めから膜があったのかどうかも、怪しくなってきた。

「これで……完成なの?」

「うん、そうみたいだね」

 そこにある珠は(もく)()の珠と同じように、テニスボールより少し大きいサイズ。持ち帰った二つの石を足して、いくらか圧縮させたような大きさ、と言えるだろうか。

 単なる黒い珠になってしまったのか、と思ったルナーティア。だが、珠を間近で見て、そうではないと知る。

 珠の中は、夜のように暗い。だが、その中で木が伸びているのが見えた。その枝には「電気石」の表面にあった青白い星が、花のようにいくつもくっついている。そして、その背景には雪が降っていた。

「わぁ……雪は動かないけど、スノードームみたいな感じできれい」

「雪は動かないが、枝に付いている星は小さくまたたいているぞ」

 レシュウェルが言う通り、枝に咲く青白い花は確かにわずかながら動いている。それが、星がまたたいているように見えるのだ。

「ふふ、成功ね。来週が楽しみになるわ」

「うん。実は後学のために、保管してある珠を写真に撮っているんだ。昔からある魔法書の絵に比べれば、圧倒的にきれいな映像で残せるからね。こうして見ていると、魔法道具というより芸術作品みたいだよ」

 ()の珠は、いつものようにリクリスが保管用のロッカーへ入れる。

 これで、三つの珠が完成したのだ。

「さてと、珠が完成したところで……今回の魔界は、どんな様子だった?」

 いつもなら、ケガをしそうな状況にはならなかったか、という程度の質問だったが、今日のリクリスは真面目な表情をしている。

 まだ何があったか彼は知らないはずだが、その表情は何かあったことを想定しているように見えた。

「前回現れた魔性が、また現れました」

「……いやな予想って、本当に当たるのよね」

 レシュウェルの言葉を聞いて、パフィオが小さくため息をついた。

 特に問題はありませんでした、という言葉を聞きたかったが、そうはならなかったのが残念でならない。

 余程目立つようなこと、嫌がるようなことをして怒らせたり、人間に強い恨みを持つ魔性ならともかく、わずかな素材を探している人間に襲い掛かるような魔性はあまりいない。

 自分の魔力に自信があったとしても、人間の中には強い魔力を秘めた者がいたりするから、下手に手を出すと痛い目に遭う、と知っているからだ。

 そう簡単に負けなくても、絶対ということはない。余程の自信過剰でもなければ、触らぬ神を決め込んで、余計なちょっかいはかけないものだ。

「やっぱり、エイクレッド狙いかい?」

「はい。正体も現しました。一緒にいた炎馬にも聞いてみましたが、イタチが本性の魔物のようです」

 レシュウェルは、魔性が現れた時の状況を話した。

 ギルードルと名乗ったこと。攻撃の途中で獣の姿に変わったこと。

 火に対してはあまり得意ではないようだが、炎馬と一緒でも大きなダメージを与えられなかったこと。

 竜の心臓を取り込んでも、自分は暴走しないと思い込んでいる、など。

「独り占め、ね。まぁ、魔性の性質にもよるでしょうけれど、だいたい単体行動が多いもの。それに、わざわざ取り分を減らすようなことはしないでしょうね」

「前回はたまたまエイクレッドの気配に気付いて現れたんだろうけれど、今回は明確に狙った、と考えた方がいいかな。だとすれば、次回以降も……と警戒するべきだね」

「俺もそう思います。あきらめない、とはっきり言い残して逃げましたから。頭は悪いですが、根性はあるようです。一番面倒な奴、かも知れません」

「そうか……」

 いつも温和な表情のリクリスだが、その表情が険しくなる。

「ぼく……留守番した方がいい?」

 エイクレッドの言葉に、部屋にいる人間達の視線が竜に集まる。

「あの魔性はぼくを狙ってるから、ぼくがいなければルナーティアやレシュウェルは危ない目に遭わないんだよね……」

「んー、それはそうなんでしょうけれどね」

 パフィオが困ったように、首をかたむける。

 狙う対象がいなければ、魔性だって動くことはない。

 ギルードルは、レシュウェルやルナーティアも喰うようなことを前に言っていたが、それはあくまでもエイクレッドを喰った後のついで。最初から人間狙い、という訳ではない。

 ただ、今回はルナーティアも含めてかなり反撃をした。竜の心臓とは別に、恨みを晴らすために現れる可能性もある。

「そうは言っても、エイクレッドは留守番なんていやなんだろう?」

「……」

 リクリスの問いに、エイクレッドは視線を下げる。

 危険をかえりみず、自分のために動いてくれているルナーティアとレシュウェル。自分だけが安全な場所にいて待つなんて、エイクレッドとしてもそれはしたくない。

 それに、人間界だけでなく、パラレル魔界だって見られるものなら見たかった。そこも、竜の世界とは違う場所だから。

 しかし、エイクレッドが一緒にいることで、二人がさらに危険なことになるなら。

 留守番はいやだ、なんてわがままは言えなくなる。

「こっそり人間界へ来るくらいだから、エイクレッドはじっとしていたくないんだろ? 今でこそ、自由に動き回りにくいからおとなしくしているんだろうけれど、本当ならもっとあちこちへ行きたいんじゃないのかい?」

「えっと……」

 リクリスに気持ちを言い当てられ、エイクレッドは口ごもる。

 そうよね。気が付いたら素材を見付けたり「大丈夫だよ」とか言いながら、自分から危険な川へ飛び込んで、珠の素材を取って来たりもしてたもん。本当のエイクレッドは、もっと行動的な子なんだわ。

 これまでのエイクレッドの行動を思い出し、ルナーティアは納得する。

「そういうことだから、レシュウェル、ルナーティア、もうちょっと付き合ってあげてくれるかい。次回は、ぼくも一緒に行くから」

「マロージャ先生もですか」

 パフィオがルナーティアに話していたことはレシュウェルも聞いていたが、ずいぶんあっさりと同行を告げられた。

「うん。さっきまでテンプール先生とも相談していたんだ。魔性の件がまたあった時、どういう対処をしようかって。一度だけならともかく、二度も現れたなら学生だけにまかせてはおけないから、どちらかが行くことにしようってね」

 こうしようか、という相談はしていたようだが、今日の待機中に二人は同行する案件を確定させたのだ。

「ぼく達二人が一緒だと、守りは今より強くなる。だけど、もし何かあった時、事情を説明して外部に助けを求める人間がいなくなるからね。レシュウェルはかなり優秀だから、ぼくだけしか行けなくても、それなりに対処できるよ」

 評価してもらってありがたいが、リクリスの言い方だと「レシュウェルを一人前の魔法使いとして扱って、事にあたろう」ということで、結構プレッシャーでもある。

「せっかく、ここまで珠を作れたんだ。ひとりの魔性のために、やめる訳にはいかないだろ」

 リクリスの表情が、いつもの穏やかなものになる。

「よかったね、エイクレッド」

「え……ぼく、一緒に行っていいの?」

 ルナーティアの言葉に、エイクレッドがそこにある顔を見回す。

「次も活躍を期待してるからな」

 レシュウェルはそう言い、二人の教授は笑顔を向けている。

「うん!」

 小さな竜は嬉しそうに、そして元気に返事をした。

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