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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第四話 土(ど)の魔珠

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4-09.ギルードル

「エイクレッドは、気付いてたの? ずっと誰かに見られてるって」

「んー、こっちを見てる目はいつもたくさんあるから、そのうちの一つかなって」

「え、たくさん? い、いつも?」

「竜の世界もそうだけど、魔物じゃない生き物がたくさんいるでしょ。そういうのがぼく達を見てることは、よくあるよ。だから、そういうのかなって」

 聞かなきゃよかった、とルナーティアは心の中で後悔した。

 いくら自分に関わって来ようとしない存在でも、どれだけの生き物から見られてるのかと思うと、怖い。

 もしかしたら、自分の世界でもそんなものなのだろうか。だとすれば、気配にうとくてよかった、と思う。ずっと視線を感じていたら、落ち着かない。

「とにかく、何かやばそうだと思ったら、すぐに教えてくれ」

「ああ、わかった。で、キフネーでは何を探すのだ?」

風花石(ふうかせき)だ。今回は()の珠を作る素材だからか、木や石ばかりだな」

 見た目は電気石と変わらないような、黒い石だ。それを割ると中は真っ白で、雪の結晶のような模様がある、と本には書かれていた。

「ああ、見たことがあるぞ。解けかけた雪の中に、時々黒い石が落ちているが……あれが風花石と呼ばれる石か」

 魔物や魔獣、魔性にはこれといって用のない石なので、彼らはその石に名前がつけられていることさえ知らなかったりする。

「石なのに、風や花があるの? 不思議だね」

「人間は……特にヒノモト列島の人間は、雪や風なんかの自然現象を、色々な呼び方で表現するんだ。その中で、風花(かざはな)は雪を表す。文字は同じだけど、読み方を変えてフウカになったんだろう」

 話をしている間に、低いが雪がうっすら積もっている山と、その裾野に広がる草原が見えて来た。

 草原にも雪がある……と言うか、ログバーンが話したように解けかけてまだ雪が残っているような状態だ。

「この辺りは、少し雪が降っては解けることを繰り返す。季節を問わず、こんな感じの場所だ」

「これって、冬の終わりの光景みたいだけど……さむーい」

 雪が降るくらいだから、やはり寒い。

 パラレル魔界では人間界のように明確な四季はない所の方が多いが、ここは常に晩冬か初春といった気温なのだ。

 人間界では、時期としてはそろそろ秋が終わって冬になったくらいなので、服装もそれなりの格好をしているから助かった。夏の格好でここへ来ていたら、かなりつらそうだ。

 前回は火の山だったから、気温の差が極端に違う。自分達の世界と平行と言っても、やはり魔界と呼ばれる場所は普通ではない。

 ログバーンが話したように、解けかけの雪の中に黒いものが所々に見えた。あれがどうやら、今回の探し物のようだ。

 この石に関して調べていた時、一番楽な探し物になりそうだとは思っていたが、本当にすぐ見付かった。それに、周囲にこれを主食としている魔物の類はいない。

 つまり、邪魔者がいなくて、すぐ手に入る状況なのだ。

「いつもどきどきしながら探してたから、こんなに簡単に手に入ると嬉しいな。逆に、ちょっと怖い気もするけど……」

 楽に手に入ると、大きな落とし穴が隠れていそうな気がする。今まで苦労するのが当たり前、みたいな状況だったせいだ。

 シャーベットのような雪の上を歩き、見えている黒い石をレシュウェルが軽く蹴る。隠れていた何かが飛び出して来るでもなく、石は少し転がってすぐに止まった。

「あっさりゲットだな」

 転がった石を、レシュウェルが拾い上げた。似たような石は、他にもあちこちある。

 彼が拾った石は、さっきエイクレッドが拾った「電気石」よりもやや大きいサイズだ。

 違いは「電気石」には青白い星が表面に散っている、というくらいで、どちらも見た目は黒い石。今回の探し物は、色目が地味なものばかりだった。

「本当に何もなかったけど、一つくらい楽なのがあってもいいわよね」

 背中を向けたルナーティアのリュックに、レシュウェルは今拾ってビニール袋に放り込んだ石を入れる。

 特殊な石だと知らなければ、女の子のリュックに石を入れるなんて何をしているんだろう、と思われそうな光景だ。

「レシュウェル、奴だっ」

 今回の素材集めはこれで終わり、帰ろうとした時。

 ログバーンが、強い口調で警告した。

 すぐそばで小さな竜巻が起こり、それが消えると見覚えのある少年がそこに立っている。

 薄青の肌。薄い金色の長い髪に、つり上がった赤黒い瞳。

 前回、パラレル魔界へ来た時にも現れた魔性だ。

 逃げる時に「覚えていやがれっ」と捨て台詞を吐いていたが、本当にまた現れるとは。

「へへっ、また現れやがったな、てめぇら」

「それは、こっちのセリフだ」

 やけに嬉しそうな口調の魔性に対し、レシュウェルが無表情に言い返した。

 口のサイズは人間と変わらないのに、牙が覗いているだけで、そのうち口が裂けて噛み付こうとしてくるんじゃないか、と思ってしまう。

 赤い目をこちらへ向けられ、ルナーティアはぞっとした。相手が見ているのは肩にいるエイクレッドだ、とわかっていても。

 いや、最終的には、ルナーティアも獲物にされる。この魔性は、全員襲うことを宣言していたのだから。

「お前ら、バカだろ。お前らでさえ、どうとでもできるような力しかないんだぜ。そんな竜が近くにいて、その心臓を喰わないなんてよ」

 人間界へ帰ってからレシュウェルがこの魔性を「バカ」と評していたが、その魔性に「バカ」と言われた。

「俺達が食べる心臓は、せいぜい鶏か牛くらいだ」

 律儀に返す、と言うより、レシュウェルは軽くからかっているのかも知れない。

「ああ、そうかよ。だったら、腹の足しにしかならねぇ心臓だけ喰ってろ」

「聞いた話だと、お前が竜の心臓を喰ったとしても、ろくなことにならないらしいぞ。受け止めきれない魔力が暴走して、自滅する。そうならなかったとしても、まともな状態で生きられないってな」

 前回、この魔性に襲われた話をリクリスにした時、そう言われたのだ。どれだけ強い魔力を持つ魔性であっても、取り込むには竜の力は強すぎるのだ、と。

 レシュウェルの言葉を聞いて、魔性は鼻で笑う。

「けっ。つまんねーこと、ほざいてんじゃねぇよ。人間ってのは(よえ)ぇから、魔性でも無理なものは自分達にも無理だって、あきらめやすくしてんだろ。自分達をなぐさめるためにな」

 予想はしていたが、この魔性がそんな話を信じる様子はない。

「お前が自滅するのは勝手だが、暴走するならよそでやれ。迷惑だ」

「俺様が暴走しねぇってところを、今から見せてやるよっ」

 長く鋭い爪が伸びる手を振りかざしながら、魔性の少年はルナーティアに飛び掛かる。

 だが、魔性が現れた瞬間から張っていたレシュウェルとルナーティアの結界が、その爪を阻んだ。

 さらに、レシュウェルが魔性に向かって土のつぶてをいくつも放つ。ぎりぎりでよけられたが、一つが魔性の腕をかすめた。

「やっぱりうっとうしいな、お前」

 傷にはならなかったが、土で汚れたことで魔性は不快感を表す。

「それはお前のことだろ。その行動自体が、十分暴走だからな。もう一度言うが、迷惑だ」

「知ったことかよっ」

 自分の攻撃がルナーティアとエイクレッドに及ばないと知ると、魔性はその矛先をレシュウェルに向ける。

 エイクレッドばかりを狙うと思っていたレシュウェルだが、一応自分にも結界は張っていた。目の前で小気味いい音が響いて、結界が魔性の攻撃を跳ね返す。

「喰わせろよ、竜の心臓!」

 レシュウェルに攻撃が通じないと、すぐに方向転換してルナーティアへ向かう。その際、魔性の姿は少年から獣へと変わった。

 哺乳類のように薄茶の毛に覆われ、細長い身体をしている。イタチに近い形だ。

 それがさっきまでの少年の姿と同じ大きさなのだから、身体の長い熊にすら思える。

 少年の時は普通サイズだった口は、やはりその姿に見合ったサイズにまで裂け、鋭い牙を見せ付けた。爪も、獣姿になったことで、さらに厚みと鋭さを増して。

 ルナーティアに張られた結界に、伸びて太くなった魔性の牙が当たる。

 その途端、さっきよりも大きな音と、さらには火花まで出た。まるで剣を交えた時のような音だ。

 その音に驚いたルナーティアは、思わず悲鳴を上げた。

「小賢しいマネばっかしやがって。おい、ちび竜。とっととギルードル様の魔力の一部になりやがれっ」

「……また、ちびって言った」

 エイクレッドが、むっとしたようにつぶやく。

 小さいということが事実だとしても、こういった手合いに言われると腹が立つのだ。

 ギルードルというのは、自分の名前だろうか。自分に様を付ける(やから)に、ろくな性格の奴はいない。きっと、この魔性もそうだ。

「ギルードルというのは、お前のことか? お前の主のことか? 主に竜の心臓を献上しようってつもりか」

「はぁ? 俺様に、主なんて奴ぁいねぇよ。その竜の心臓は、この俺様だけが喰うんだ。他の奴にも、お前らのことは言ってないからな」

 話が広がって次々に襲って来る魔物がいないのなら、それはそれでありがたい。

「独り占め、か。せこい奴だ」

「こんなごちそう、誰が他の奴に譲るかよ。小さくても、不味くても、極上品だからな」

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