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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第四話 土(ど)の魔珠

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4-05.動物園

 幸い、エイクレッドが不調を訴えることはなく、無事に動物園へ着いた。

「昼メシ、どうする?」

 時計を見れば、もうすぐ一時だ。

「あたしね、サンドイッチ作って来たの」

「もしかして、ダウンジャケットだけじゃなくて弁当も入っているから、カバンが大きいのか?」

「まぁ、ね。今日は、一緒に来てくれたレシュウェルのために」

 今日は午前で授業が終わるため、昼休みというものがない。

 昨日の昼休みにお弁当を食べ終わってから、ルナーティアは今日の昼食をどうするかが抜けていたことに気付き、どうしようか迷った。

 でも、せっかくのお出掛けなのに、学校の食堂で腹ごしらえをしてから出発、というのも味気ない。

 園内のレストランか、行くまでにあるコンビニで何か買おうかと考えた時、行き先の環境に改めて気付いた。

 動物園なら、外でお弁当を広げている家族連れも多い。テーブルやベンチもあるし、周囲に気兼ねすることなく、ピクニック気分で食べられるのだ。

 滅多にしないくせに「色々と作ろう」などと張り切ったルナーティアだったが、あまり食事に時間をかけていられない。

 今回の目的は「エイクレッドに動物を見せること」なのだ。

 それなら、簡単に済ませられる方がいい。……ルナーティアも、気負って作らなくて済む。

 で、サンドイッチになったのだ。

 そういうことで、二人はまず食事をすることにした。

 動物園の横を流れる川べりに、食事ができるエリアがあったはず。園内の案内図で確認し、そちらへ移動した。

 その間にも、動物の檻のそばを通るのだが、エイクレッドはそれらに目を奪われている。言葉は出さないが、どんな気持ちで見ているのだろう。

 昼食時間を少し過ぎていたので、ぽつぽつと空いているベンチが見受けられる。なるたけ人が少ない場所を選んで座った。

「おいしそうだな。いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」

 二人はツナや玉子のサンドイッチをつまみ、エイクレッドはルナーティアがひざに広げたハンカチの上で、ゆでたささみやキャベツなどを食べる。

「ここの動物って、みんな閉じ込められてるの?」

「色々な地域の色々な動物を、一カ所に集めているからな。一緒にすると草食獣が肉食獣に食べられたりするし、動物によって暮らしやすい環境が違う。それぞれに適した状態になるように、分けられてるんだ。まぁ……閉じ込められてる、と言われたら、否定はできない」

「竜にしろ、魔獣や魔物にしろ、みんな自由だもんね。もしかしたら、エイクレッドには受け入れにくい部分があるかも。ただね、この世界にはこういう動物がいるんだよってことを教えてもらうには、いい場所なのよ。この後で回るけど、犬やねこ以外にこんな動物がいるっていうのを、エイクレッドに見せてあげられる訳だから」

 普段自由でいる竜から見れば、人間はとんでもなくひどいことをしているように見えるかも知れない。

「人間側の勝手な言い分としては、教育であったり研究するためであったりする。できる限り、ストレスがかからないように飼育されてるとは思うぞ」

 動物園の存在意義だの是非だのを竜と話し出したら、それだけで時間が過ぎてしまいそうだ。

 早々に食べ終えると、園内を回ることにする。

 ライオン、象、キリン、ゴリラなど、色々な動物の檻の前に止まっては、これはこういう動物で、とルナーティアが説明する。時々、レシュウェルが補足して。

 周囲に人がいる時は、おかしく思われないように看板の説明文を音読した。

「色々回ってるけど……気のせいかしら。動物達がみんな、あたし達の方を見ているような。ライオンやトラなんて、いつも寝そべってるイメージがあるのに、顔を上げてこっちを見るし」

 檻やガラスなど、動物達の力ではこちらへ来られないようにしてある、とわかっていても、じっと見詰められると怖い。これで牙をむかれたりしたら、後ずさってしまいそうだ。

「今更人間に見られて、気にする奴もいないだろう。みんな、エイクレッドの気配に気付いているからじゃないか?」

「ぼく? 何もしてないけど」

 レシュウェルの肩にいて、ただ眺めているだけだ。

「魔獣程でなくても、動物は人間より圧倒的に気配に敏感だからな。滅多に感じることのない気配に、誰もが気になっているんだ」

 今は魔力が減っていても、竜には違いない。人間にはわからなくても、動物ならその存在がはっきりわかるのだろう。

 小動物エリアのうさぎやヤギなど、少し数が多めの動物が全部こちらを向くと、攻撃するつもりがなくても、肉食獣とは違った怖さがある。

 特に、サル山のサルが一斉にこちらを向いた時は、どきりとした。

 それまで仲間同士で遊んでいたのに、ルナーティア達が近付くとこちらを凝視し、離れるまでずっと視線を向けられるのだ。

 そんな動物達の怖い部分も感じつつ、園内を巡る。

「エイクレッド、どう? この世界の、まだほんの一部でしかないけど」

「んー、ぼく達の世界にいる動物や魔界の生き物より、気配は薄いみたい。でも、命を感じることはできるよ。みんな、かわいいね」

 動物達にじっと見詰められたことについては、エイクレッドは気にしていないようだ。

 それに、竜本来の大きさからすれば「どの動物も小さくてかわいい」となるのだろう。

「俺達にすれば、今のエイクレッドもかわいいけどな」

「え? そう?」

 自分のサイズに、時々自覚がなくなるエイクレッドだった。

☆☆☆

 連日でデート……のような感じだが、日曜の逢瀬はかなり緊張が強いられるものとなる。

 イナリーの駅で待ち合わせ、ルナーティアはレシュウェルと合流した。

 行き先が、もう少し穏やかな場所ならなぁ。

 魔珠鏡の術が完成するまではそうもいかない、とわかっているが、昨日の動物園デート(メインはデートではないものの)が楽しかった分、ルナーティアはついそう思ってしまった。

 イナリーの駅で顔を合わせると、レシュウェルは人目につかない陰の方へとルナーティアを連れて行く。そこで、薄気(はっき)の魔法を自分達にかけた。

「ガイハケ ニウヨンラカワ ウスッウ レナ」

 魔法をかけるのはパラレル魔界の入口付近でもいいのだろうが、人の目というのはどこにあるかわからない。

 あの二人、前にも見たけど……? と思う人が絶対にいないとは言い切れないから、早めにかけておくのだ。

 この付近に住んでる子かしら、くらいに思ってくれればいいが、この前石碑の近くでうろうろしてたわね、などと覚えられていたら面倒である。

「これで、周りの人はあたし達のことを気にしなくなったの?」

 呪文を聞いているから、かけられたはず。でも、あまりなじみのない魔法だし、かけられた感覚がない。

「魔法が失敗してなければな。あと、いつまで効果が持続するかもわからないから、さっさと行くぞ」

 自分、または相手から触れられたりして認識されれば解けるようだが「何もなければどれくらいの時間まで魔法が続くのか」という点は、魔法書にも触れられていなかった。その辺りは術者の技量次第、という部分もあるのだろう。

「結界じゃないけど、もやみたいな感じだね」

「そうか。竜にはそう見えるんだな」

 竜には効かないのかと思ったが、今はエイクレッド込みで魔法をかけているから、魔法効果がそういう形で認識できるのだろう。

 パラレル魔界への入口となる、石碑の前まで来た。

 ここへ来るまでにすれ違う人が数人いたが、まるで誰もいないかのように歩き去る。普通でもこんな状態だったかも知れないが、その様子からするとこちらには意識が向いてないようだ。

 魔法の効果有り、と思ってもいいだろう。

 すれ違う人は、こちらの存在を意識していない。今は大丈夫だったが、次以降はぶつかられることがないように、歩くときは気を付けた方がいいだろう。

「ケラヒ チミ」

 レシュウェルが素早く呪文を唱え、ルナーティアの手を取って石の中へと入る。

 いつものように、石碑の中へ入ると途端に人工物が消え、山や草原などの自然が目に入った。

「よし、これなら次からも十分に使える」

 パラレル魔界へ入るところを、一般の人に見られたら。

 そのことを心配していたが、今後はこの魔法で気持ちをわずらわされることがなくなる。問題が一つ、解決した。

 それだけでも、思った通り、気が楽になる。

「ねぇ、ログバーンを呼んで、あたし達のことがわかるのかしら」

「呼ぶ声は聞こえるんだから、来てくれる。わからなければ、こちらから触れればいいんだ。ここにいるってことがわかれば、ログバーンなら触らなくても見破れるかもな」

 レシュウェルが、ログバーンを呼び出す呪文を唱える。そう時間をおくことなく、炎馬(えんば)は現れた。

「ログバーン、俺達がわかるか?」

「……姿がぼやけているな。言われなければ見過ごしそうだが。レシュウェル、本当にそこにいるのか」

 見えているのに、見えていないような、不思議な感覚らしい。

 完全に見破るとまではいかなくても、やはり魔獣は気配に敏感だ。人間なら気付かずに通り過ぎても、魔獣だとそうはいかない。

 お互いを見知っているから、なおさらわかりやすいのだろう。

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