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1-03.ひたすら眠る竜

「え、そんなに大きいの?」

 数字だけで大きいとわかるものの、現実の大きさは想像しにくい。それが生物となれば、なおさら。

「翼を広げたロック鳥と、ほとんど変わらないだろうな。そのままの姿では当然目立つから、サイズは変えるらしいが……ここまで小さくなるかは疑問だ。少なくとも、俺はそういう話を聞いたことはない」

 身体が大きいままだと、周囲に色々影響を及ぼす。だから、その時々や場に合わせて身体を縮小させる、という話は聞いたことがある。

 この周辺は木が多いから、折らないようにするためにこうなった……としても、このサイズは小さすぎだ。

「それより、ずっと眠ってることが気になるな」

 ルナーティアがこの小さな竜を見付けてから、すでに五分近くは経っているだろうか。

 その間に二人が竜の頭上で話をする形になり、さらに手のひらから手のひらへ移動させているのに、ぴくりともしない。

 レシュウェルが、突き出た口の先を軽くつついてみる。覚醒を促すように、他の部分もつついてみるが、やはり反応はなかった。

「これは竜にとっての異常事態、と考えてよさそうだな」

 おもちゃなら相当すごいクオリティだが、よく見ると前脚の付け根付近がかすかに上下している。呼吸をしているのだろう、と思われた。

 だとすれば、やはりおもちゃなどではない。

 これが竜であれ、竜に酷似した生き物であれ、落ち葉の中で熟睡するとは思えなかった。竜が冬眠するとは聞いたことがないが、それにしても時期がまだ早い。

「最初の時が、ロック鳥のひなだった。あれから色々見付けたが、竜は完全に想定外だ」

 二人が初めて会った時は、ルナーティアがロック鳥のひなを見付けて困っていた。

 恋人として付き合うようになってからも、ルナーティアは犬やねこを見付けては保護している。たまに、その中には魔獣も含まれていた。

 こうして色々と見付けてしまうタイプの人間がいるんだな、とレシュウェルは思っていたが、ついには竜まで拾ってしまう。

 さすがにレシュウェルも、一人の人間がこんな生物まで見付けてしまうとは予想していない。ルナーティアがハンターか研究者にでもなれば、かなりレアなものをいつか発見しそうだ。

「ご、ごめんね……」

 また拾っちゃった、と言ってルナーティアが泣き付く相手は、いつもレシュウェルだ。

 今では、レシュウェルが紹介してくれた保護団体の人達ともしっかり顔がつながっているのだし、何かを拾えばルナーティアが自分でそこへ行けばいい。

 でも、ルナーティアがまず最初に連絡を入れるのが、レシュウェルだ。こうして一緒にいる時は、言わずもがな、である。

 ただ、それが一回や二回ではないので、ルナーティアも「頼りすぎてるなあ」と一応反省はしているのだ。

「ルナーティアが優しいから、こういう奴らが集まって来るんだろ」

 片手は小さな竜でふさがっているので、レシュウェルは空いたもう片方の手でルナーティアを抱き寄せた。

 レシュウェルの静かな口調に、ルナーティアの頬が朱に染まる。

「こいつはさすがに、保護団体の所へは連れて行けないな。あそこは、普通の動物が専門だし」

「うん……。でも、誰に言えばいいのかな」

 これまで見付けた魔獣は迷子ばかりだったので、うろうろしているうちに親の方から迎えに来た。

 しかし、この竜は迷子と言っていいのだろうか。単なる「かなりねぼすけ」ならいいのだが。

 事情があって眠っているなら、竜自身以外にも問題が生じかねない。

「学校へ行ってみるか」

「でも、今日はお休みでしょ」

 クラブ活動をしている生徒がいるだろうから全くの無人ではないにしろ、それ以外で頼りになる先生、つまり魔法使いがいるのだろうか。

「恐らく来てるだろうって人がいる。行ってみよう」

 紅葉狩りデートはここで切り上げ、二人は自分達が通うキョウートへ向かうことにした。

☆☆☆

 ケフトの国の中心は、ゴショーという街だ。その街の北に、魔法学校キョウートはある。

 昔からケフトの国は魔が集いやすい地であるらしく、その中でも一番魔の力が強いゴショーの中のカラスーマ地区に学校が建てられた。

 昔はゴショーのあちこちで魔物が現れ、人間に害をもたらしていた、という文献もたくさん残っている。真実かどうか怪しい記述もあるが、魔物が現れていたことは事実だ。

 今はちゃんと整備されているので、いきなり魔物が現れるということはない。魔法使いを目指す人間にとって馴染みやすい空気がある、という程度になっている。

 ルナーティアとレシュウェルは、バスに乗ってキョウートへ向かった。見習い魔法使いでも、通常の移動は公共交通機関を使うのだ。

 ゴショーの街を中心にして南北に長い地形のケフトの国は、東西南北を四つの区域に分けられている。二人は自宅が南地区にあって、通学は地下鉄だ。

 今は出先で、近くに地下鉄の駅がないのでバスを使った。

 バスは基本的に、動物は持ち込み禁止だ。なので、ルナーティアは自分のベレーに紅竜を入れ、それを胸元で抱くようにして隠した。今だけは、紅竜が目覚めないことを願う。

 幸い、紅竜が目覚めてしゃべり出したり暴れることもなく、二人は学校最寄りのバス停で降りた。

 やはり運動系の部活があるようで、学校へ近付くにつれてグラウンドから賑やかな声が聞こえてくる。

「あたし、大学の棟には入ったことない。ちょっとどきどきするなぁ」

 高等部と同じく、薄いクリーム色の建物が並ぶ大学部。行く用事がないので、高等部のルナーティアは大学部へ立ち入ったことはない。

 魔法使いを目指してキョウートの高等部に入った生徒は、だいたい大学部に進学する。ルナーティアもそのつもりでいるので、順調に進級すれば再来年にはここが自分の学舎になるはずだ。

「教室の数が多いくらいで、高等部とそう変わらないぞ」

「そうなの? で、レシュウェルが言う休みに来てる人って、どこにいるの?」

「こっちの研究室。ゼミの教授だ」

 大学部の棟の横に並んでいる建物。離れて見ていると、横長なドミノみたいだ。

 主に大学部の教授達の研究室がある建物、ということだが、教室もいくつかあるので、大きさや見た目は大学部の棟とほとんど変わらない。

 レシュウェルはそちらへ向かい、ルナーティアは彼の後をついて行った。

 あたし、大学部に入って、学校の中で迷子になったりしないかな……。

 外観は大して変わらないのに、中は部屋の並びなどが高等部とずいぶん違う。

 玄関や階段付近に見取り図があるので現在地などはわかるはずだが「覚えるのが大変そう」とルナーティアは今から心配になった。

 今はとにかく、レシュウェルの後を歩く。階段を上がり、二階の廊下を少し歩いた所にある扉の前まで来ると、そこでレシュウェルは止まった。

 軽くノックをすると、中から返事が聞こえる。

「お休みなのに……」

「家にいるより、ここにいる方が落ち着くそうだ」

 言いながら、レシュウェルは扉を開けた。

「失礼します、マロージャ先生」

 来るまでにレシュウェルが「教授」と説明してくれたのだから、ここは教授の研究室、なのだろう。

 ルナーティアはもちろん、教授の研究室なんて場所へ入ったことはないが、理科準備室かと思った。

 一方の壁に本がぎっしり並ぶのはいいとして、もう一方の壁には何かよくわからない標本みたいなものが所狭しと置かれている。奥には机があるが、そこにもやはり標本らしきものと本が山積みで雑然としていた。

「おや、レシュウェル。……今日は休み、でいいんだよね?」

 妙な質問に、ルナーティアは首をかしげる。

 こういう場合「今日は休みなのに、どうしたの?」といった質問が出そうなものなのに。

「そうですよ」

「ああ、よかった。また曜日を間違えたのかと」

 そう言って笑うのは、この部屋の主のリクリス・マロージャ。魔法生物研究科の教授だ。

 ややくせのある濃い茶色の髪を軽く束ね、細い黒ブチ眼鏡をかけている。たれ気味の目は、優しそうだ。

 身長はレシュウェルの方が少し高いが、ひょろっしたその長身に白衣を引っ掛け、五十歳という年齢の割には若く見える。

 レシュウェルは魔法医学部薬学科だが、リクリスの魔法植物講義を受講しているので知っているのだ。わかりやすい説明と、彼のきさくな人柄で人気のあるゼミである。

「先生は前科持ちですからね」

「はは、そうなんだよねぇ。いつも研究室にいてよかったよ。何度休講させることになっているやら」

 いつも研究室にいるので、曜日感覚が麻痺するらしい。

 休みと勘違いして教室へ行かず、生徒や事務室の職員が呼びに来る、といったことが数回ある、とルナーティアは後で聞いた。

「あれ? それじゃあ、休みなのにぼくの所へ来たのかい? それと、その子は?」

 今日は休日で、ルナーティアは私服。なので、キョウートの生徒だとはわからないのだ。

「ルナーティア・ヤーブリッジ。高等部の二年生です」

 レシュウェルが紹介し、ルナーティアは軽く会釈した。

「高等部か。レシュウェルの彼女かい?」

「そうです」

 事実だが、人前でこうもはっきり言われると、嬉しいやら恥ずかしいやら。

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