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手のひらサイズの紅竜は魔法使いに保護される  作者: 碧衣 奈美
第一話 魔力を失った竜

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1-11.素材集め

「こんなことを見越してログバーンと契約した訳じゃないが、今回のことについては都合がよかったな。エイクレッドは火属性だし、ログバーンなら安心できるだろう」

 今の状態で水属性の魔獣と一緒にいたら、エイクレッドも落ち着かないだろう。そういう部分でも、ログバーンとの契約は縁があったと言える。

 レシュウェルはログバーンの背に乗り、そこからルナーティアに手を伸ばした。

「あたし、馬に乗ったことないけど」

 しかも、裸馬である。言えば、魔獣も鞍を付けさせてくれるのだろうか。

「普通の馬とは違うんだ。ほら」

 促され、ルナーティアはレシュウェルの手を握ると軽く跳んだ。ふわりと身体が浮かんだかと思うと、レシュウェルの後ろに乗っている。

 普通の馬にすら乗ったことのないルナーティアだが、鞍がなくてもしっくりしているように思えた。

 いきなり視界が高くなってしまったが、そばにレシュウェルがいるので恐怖はない。

「ルナーティア、しっかり掴まってろよ。ログバーン、北へ向かってくれ。ニシジーンだ」

「わかった」

 返事と同時に、燃えるたてがみを持つ馬は宙を走り出す。エイクレッドが落ちないよう、ルナーティアは小さな竜をブルゾンのポケットに入れた。

 やがて着いた所は、木がまばらに立つエリアだ。

 背の高い木には暗い緑の葉が茂っているし、木そのものも実は岩なんじゃないかと思うくらい、見た目がごつごつしている。森林浴、という言葉とは縁遠い雰囲気だ。

「ここが、パラレル魔界のニシジーンなのね。この辺りに、シロパトがいるって書いてあったけど」

 まずは「純白の羽」をゲットするのが目標だ。

 それが、この界隈にいるシロパトのもの。傷付けたり殺したりしなくても、落ちている羽で十分に事足りる。

 ただ、できればきれいな方が望ましい、ということだった。

「シロパトって響きが、どうも警察車輌をイメージさせるな」

 形は白い鳩だが、そこはパラレル魔界にいる生物。名前や性格が、人間界のものとは少しずつ変わったりする。

 人間界の鳩なら平和の象徴だが、ここの鳩は「真っ赤な目をして、かなり凶暴」と本には説明されていた。

 目の色はともかく、それでは猛禽類ではないか……とも思ったが、パラレル魔界であればそれもありなんだろう。

 目的の生物がいるはずのエリアなので、地面を見れば所々に白い羽が落ちている。羽ペンにできそうなサイズだ。

 ログバーンから降りて数本拾ってみたが、残念ながら土などで汚れているものばかりだ。

 エイクレッドもポケットから這い出して、ルナーティアの肩から見回すが、よさそうなものはない。

「レシュウェル、来たぞ」

 ログバーンの声と同時に、羽ばたく音が聞こえた。シロパトがテリトリーを侵害されたと思い、侵入者の排除に現れたのだ。

「えー、普通の鳩より大きいよぉ」

 その姿を見て、ルナーティアが泣きそうな声を出す。

「パラレル魔界にいる奴だからな」

 名前が似ているだけで、中身は別なのだ。つまり、相手は魔物である。

「ルナーティア、ログバーンのそばにいろ。それと、自分に結界を張っておけ」

「わ、わかった」

 レシュウェルに言われる通りにし、ルナーティアは結界を張った。

 現れたシロパトは、五羽。名前の通りに、羽が白い。でも、人間界の鳩より二回りは大きく見えた。

 本に書かれていた通り、目が赤い。白い身体に赤い目だとうさぎみたいだが、鳩にしては妙に鋭いくちばしを見て、ぞっとする。あれだと、ほとんどナイフの切っ先だ。

 襲い掛かってくるシロパトに向かって、レシュウェルが呪文を唱える。衝撃波が襲い掛かり、滑降しようとしていた魔物達の身体に当たった。

 シロパト達にすれば、見えない力に攻撃されたような感じだろう。一度上昇して再び滑降するが、結果は同じ。

 相手が悪いと思ったのか、粘ることなく逃げて行った。

「あいつらには悪いが、羽は手に入ったな」

 火や土の弾ではなく、衝撃波にしたのはシロパトに血を流させないようにするためだ。せっかく向こうから来てくれたのだ、羽を入手しない手はない。

 だったら、切り傷を負わすより打撃で攻撃すれば、羽が血で汚れることはないし、土で汚すこともなくなる。

 ばたばたとシロパトが逃げた後には、白く長い羽が何本も落ちていた。

 その中から、レシュウェルはきれいなもの数本を拾う。それを、近くで見ていたルナーティアが、背負っていた小さなリュックの中へ入れた。

「レシュウェル、ケガしてない?」

「見てただろ。かすりもしてない」

 思っていた以上に、あっさりだった。場所はパラレル魔界だ。正直なところ、もっと手こずるかと思ったのだが……スムーズにいくなら、その方がいい。

 あんなのに襲われても、基本魔法がどうにかできるようになってきた程度のルナーティアには、きっとまともに対処できないから。

「よし、次へ向かうぞ」

☆☆☆

 ルナーティア達は地図で確認した後、ニシジーンから東へ向かった所にあるヒーエイへ向かった。

 もし人間界で移動していたら、交通費がかかる。直線距離では行けない、という点でも、時間のロスだ。

 人間界では、人命救助や事故防止のため以外では、見習いが学外で魔法を使うのは原則禁止。

 正規の魔法使いでも仕事以外では同様で、仕事中であっても移動のために魔獣を呼び出す時は、できるだけ一般人の目に入らないように、という条件がつくのだ。

 緊急時は例外としても、この世界の魔法使いというものは結構面倒くさいルールに縛られている。

 パラレル魔界では、そういう縛りがない。こうして移動する時に、誰の目を気にすることなく魔獣に乗れるのは、とても楽だ。

 ヒーエイは、ニシジーンよりも木が多い。この周辺は上から見れば、森があり山があり、結構まともな緑が多い場所だった。

 次に入手するべきは「蜜の塊」だが、蜜と言えば蜂。それは、パラレル魔界でも同じである。

 ただし、蜂一匹の大きさが人間の大人の拳サイズ。それが団体行動するのだから、相手にするのは相当危険だ。針なんて、ほとんど五寸釘レベル。

 なので、レシュウェルもさっきのシロパトのように、相手にするつもりはなかった。こちらの攻撃をかわされ、襲われたらとんでもないダメージだ。

 ヒーエイの森にある木は、一本一本がとても太い。その太い木にうろがあるものを探す。

 この辺りの蜂は巣を作らず、そのうろの中に蜜をためこむ習性がある。今回必要なのは、そのうろの周辺に垂れて固まっている「蜜の塊」だ。

「レシュウェル、この辺りをうろつくつもりなら、そろそろ姿を隠した方がいいぞ」

 ログバーンがアドバイスする。

「わかった。やっぱり蜂が相手だと、面倒だな」

「ログバーンも、やっぱり蜂は嫌い?」

 ルナーティアが、好奇心で聞いてみる。

 強い魔力を持つ魔獣でも、苦手な魔物やものがあるのだろうか。

「近付かれたら、燃やせば済む。だが、数が多いので、面倒だ。用がなければ絡みたくないな」

 問題はないようだが、どこの世界でも蜂はいやがられるようだ。

 ログバーンの助言もあったので、レシュウェルは自分達の周囲に蜃気楼を出した。

 周囲の景色になじませて、自分達の姿を隠す。声は聞こえるが、これはしゃべらなければ済む話。

 身を守るなら結界でもいいのだが、魔法の気配に気付かれかねない。同じ魔法を使うにしても、こちらの方が自然の中になじむのだ。

「レシュウェル……何か怖い音がする」

 ルナーティアがレシュウェルにしがみつく。蜂の羽音だ。蚊もそうだが、この独特の羽音はあまり聞いていたくない。

 どうやら、目的地の近くへ来たようだ。つまり、蜂が群れているエリア。どれだけの数がいるのか、音がどんどん大きくなる。

「あそこにうろがあるな」

 とある一本の大木の幹に、大きなうろが見えた。人間の頭より大きな穴だ。

 そのふちに、朱色の何かがべったりとついている。あれが蜜だろう。

「蜜の色が赤っぽいし、濃いから、木が動物を喰べた後みたいに見えちゃう」

「ああ、確かにな。探せば、そういう木が本当にあると思うぞ」

「そんな木、絶対に探したくないよぉ」

 妙に怖い話はともかく。木の周辺を、本当に拳大の蜂が飛び回っていた。

 人間界と同じで、黄色と黒のツートンカラー。本能的に恐怖が生まれる。相手の魔力がどうであれ、極力近付きたくないエリアだ。

 二人はログバーンに乗ったままだが、頼んで今すぐここから離れてもらいたい気になる。距離としては目的の木まで数メートル程度だが、もっと離れたい。

「レシュウェル、どうやって取るつもりだ?」

 うろはかなり高い所にある。長身のレシュウェルが馬上で背伸びしても、指先さえ届かない位置だ。

「疑似の仲間を紛れ込ませる」

 レシュウェルはポケットから、木片を取り出した。タバコの箱サイズの、普通の木片だ。

 これに擬態の魔法をかけて蜂の姿に変え、うろの周辺に固まっている蜜を取って来させる。

 これなら、わざわざ蜂の巣の近くへ行かなくてもいいし、高さも関係ない。

「ラカマイ ハエマオ デヤチハ」

 レシュウェルの魔法で木片は蜂の姿になり、蜂特有の音をさせて飛び始めた。そして、巣の方へと向かう。

「ねぇ、何か来るよ」

「え?」

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