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Ⅴ話 転移者

 囲っている男たちのうち、一人が俺が刀を渡した人に襲い掛かった。男は、縦に一気に剣を振り下ろしたがその人は左斜めに受け流すように構え、スッと受け流した。剣は、地面に刺さりその瞬間にその人は左脚で蹴りを入れ、男を吹っ飛ばした。隙を与えまい言わんばかりに背後から襲い掛かった男の剣を、蹴った勢いで半回転し刀の柄頭で刃を受け止め、押し返した。隙が出来た瞬間、壁へとまた蹴り飛ばした。


「す、すげぇ……対処能力が高すぎる……」

『物凄く洗練された動き、さっきまで寝込んでいた人とは思えない……』


「な、なんなんだこいつ!! 女のくせして!!」


 そして、その人は遠距離攻撃にも難なく対処し、ほとんど倒しきった。さすがに懲りたのか、男たちは倒れた仲間を連れて全員逃げていった。最後の一人が見えなくなると、その人は刀を鞘にしまい一息ついた。しかし、すぐに膝から崩れ落ち刀を杖替わりにして踏ん張っていた。すぐに俺は駆け付けベンチまで肩を貸した。


「悪い……二度も運ばせることになるとは……」

「気にしないでください。それにしても、さっきの戦い方凄かったですよ‼ どうやったんですか‼」

「その場の人数の把握、襲い掛かってくるときの殺気、冷静な状況判断……それらを行えばあらかた、対処はできる。」

「そ、そうなんですか……」

「慣れればすぐにわかるようになるよ。」


 そんなのできるわけないだろうと思いながら看病していると、その人は、ベンチから立とうとしたが上手く立てずに崩れ落ちてしまった。流石にこんなところに長居するわけもいかないので、肩を貸し喫茶まで戻ることにした。

 数十分後、なんとか着いた時には俺も俺でフラフラだった。


「いらっしゃ……リョウガくん⁈ その人どうしたの⁈」

「とりあえず、座らせたいんですけど……」

「わ……分かった! テーブル席のとこまで行けるか?」


 そう言い、シューメルさんはテーブル席のテーブルをどかし、俺はその人を座らせた。すぐにセレナさんが水を持ってきた。そして、その人は一気に飲み干した。


「大丈夫……ではなさそうだね。一体全体どうしたんだ? こんな状態になるまで。」

「四日ぐらい前に気づいたらこの街いた。今はそうとしか言えない……」


 誰も無理に聞こうとはせず、そっとしていた。

 数時間後、その人はある程度は動けるようになっていた。そして、シューメルさんが出した料理も少しずつ食べていた。


「そういえば名前を聞いていなかったな。」

「俺は、名城弥ツカサ……ここだとツカサナギヤの方がいいのか?」

「ツカサさんか~ なんか声可愛い――女性の人なのかな?」

『噓でしょ……今、名城弥ツカサって言った?』


 大和さんは、なにか驚いたような口調で俺に話しかけてきた。俺に関しては、女性なのかな、というぐらいでしか気づいていない。


「言いましたけど、それが?」

『名城弥ツカサっていえば、平行世界で地球の危機を救ったっていう、まさに本当の英雄的存在なのよ……なんでこの人がここに……』

「マジで⁈ この人が⁈」

『ええ、間違いない……』

「でも、どうしてここに?」

『詳しいことはわからないけどさっき私、転移者って言ったわよね。』

「うん」

『恐らく、何らかによってこっちに来たんだと思う。』

「どうして、そう思うの?」

『転生者は一旦、神のところに魂だけ行くの だから、持ち物とかは完全にリセットされるの でも、転移者は持ち物を丸ごと転移させることになるからキープされるの』

「だから、あんなメカメカしい刀使ってたんだ。どうりで。」

『ちょっとこんなこと聞いてもらってもいい?』

「なんですか?」


 大和さんは、俺がツカサさんに質問する内容を伝え俺はその質問をツカサさんに言った。


「来る前は何をしていたか?」

「はい! 直前までなら覚えていたら、どうしてここに来たのかわかるかなって。」

「来る前は確か、任務終わりの帰りで、急に地面が光り出して気づいたら街に居たんだ。」


 その話を聞いたシューメルさんは大和さんと同じ回答にたどり着いた。


「ってことは、君は転移者かもしれない。どうして転移されたのかはわからないが。」

「なるほど。帰る方法とかは?」

「無い。転移魔法は一方通行だからな。」

「そうか……」


 落ち込んでるところにシューメルさんは俺が来た時のような提案をツカサさんにもした。


「もし、君がいいという、ならここに住むといい。その代わりに店の手伝いはしてもらうが。」

「いいのか? こんな見ず知らずのやつを。」

「いいんだ。困ったときはお互い様だ。それに同じ境遇の人を少し前に拾ったかね。」

「そうか……感謝する。」

「話は変わるけど、君って獣人族なんだね」

「え? あ……」


 頭をよく見ると、白髪で狼のような獣耳がピコピコ動いていた。それに、あの時は顔が見えなかったがよく見ると女性だった。――えぇぇえーーー‼


 翌日、ツカサさんは店の接客をしていた。しかも、結構照れながら……。本人自身、あの獣耳はかくしておきたのかっただろう。でも、ものすごく客からは好評であった。ロングコートを着ていた時と比べてエプソン姿がこれまた可愛さを増している。好評なわけだ……。しかも、一定数の変なファンらしきものが居るらしい。


「ちゅ、注文が……決まりましたら……お呼びください……///」


 これが本当に世界を救った、英雄なのか……? 未だに信じられない……

 そして、店終わりに膝をつき涙目でこう言ってきた。


「もう……許して……ください……」


 しかしながら、翌日から客が5倍になったことは言うまでもない……。

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