06 オオカミ君とクレーンゲーム
大垣君と知り合ってから3週間ほどしたある日。
「ねえ、明日一緒に出掛けない?」
大垣君がそんなことを言ってきた。
明日は休日だ。
私は特に予定もないし構わないが、彼は先輩の女の子と最近よく遊んでたはずだ。
明日もてっきりそのこと遊ぶのかと思っていた。
「あのかわいい先輩とは遊ばなくていいの?」
「いやー、なんか、お互いにすぐ冷めちゃって。
俺はともかく、あの子はあっちから誘ってきたのにひどいよね。
なんかヤリ捨てられた気分」
「あっそ・・・」
あのおとなしそうな子がヤリ目的ではないと思うのだが。
仮にこいつに純情と純潔を奪われてならかわいそうに思うが、現実を見るいい機会になっただろう。
そんなにひどい目には合っていないはずだ。
「出かけるのはいいけどどこ行くの?」
「うーん。ゲーセンとかかな」
「わかった。任せるね」
「はーい」
初めてのデートだな。
***
翌日。
朝早くから彼は私の部屋に来ていた。
今は一緒に朝ご飯を食べている。
「うまいね。俺なんか味噌汁でもくそ不味く作っちゃうのに」
「料理したことない癖に適当に作るからよ。最初はレシピに忠実に作らないと」
「えええ、めんどいわー」
こいつに言って聞かせても無駄だろう。
料理とか以前の問題だろうしな。
「さて、皿洗いぐらいしてよね。私支度してくるから」
「・・・はーい・・」
「これぐらいのことでめんどくさそうにしないの」
「はい」
私は寝室で着替えを始める。
どの服にしようかな。
気合い入れる必要もないかな。
選んだのは少しダボ着いた淡い白の上下の服。
何となくかわいいと思って買っておいたやつだが、実際にあまり使ったことのない服だ。
バッグくらいは黒いものにしておくか。
ファッションを気にしたことないからこれでいいのかよくわからないな。
普段は着れればいいくらいにしか思ってなかったし。
リビングで私を見た大垣君は少し驚いた顔をしていた。
「なによ」
「いや、上下で白の服って・・・モデルかよ」
「そうかな・・・似合ってない?」
「いや、理沙はかわいいから全然似合ってるよ。普段と雰囲気違うから驚いただけ」
「あっそ・・・」
こいつの言ってることが本心かわからないが、かわいいなら良しとするか。
とにかく着替えろと言われない程度には変ではないらしい。
ちなみに大垣君の服は灰色っぽい黒の服。
対照的過ぎるな。
もうすこし考えればよかった。
バスを使って最寄りのショッピングモールまで行く。
「そういえばゲームセンターでは何するの?」
「俺はひたすらぬいぐるみをとるかな」
「あー、あったねいっぱい」
彼の家を掃除したときにぬいぐるみは大量にあった。
すでに多頭飼いで飼育崩壊状態といえるのでやめてほしいとも思うが本人の趣味だし仕方がない。
「りさっちはなにするの?」
「そうね。あんまり行ったことないんだよね。いろいろちょっとずつやってみようかな」
「なるほど。じゃあ、俺も一緒にやるわ」
「うん」
遊びに行く事態久しぶりだし、結構ウキウキする。
せっかくだし恋人っぽいこともしようかな。
恋人じゃないけど。
バス停で降りた私は大垣君の手を掴む。
「ん?」
大垣君はいきなりのことに少し反応をしたが、その後は特に気にする様子もなく軽く握り返してきた。
そのまま連れ立ってゲームセンターまで一直線。
私は少しずつ身を寄せてみた。
「意外と胸大きいね」
「なんで意外なのよ」
「いえ、意味はないです」
ゲームセンターはそこまで混んではなく、遊ぶのに支障はない。
「よし、いくぜ!」
大垣君は私の腕をあっさりと振りほどいてクレーンゲームに向かった。
ちょっと悔しい。
「見てろよ俺のテク」
「はいはい」
彼のこんなに生き生きとした姿は初めて見た。
彼は狙った獲物を一回で取った。
連続で何度も一発で取っていく。
確かこういうゲームは何回か動かしてぬいぐるみを落とすはずだ。
しかし、彼はどれも一発で取る。
超が付くほどの繊細なテクニックだ。
「す、すごすぎない・・・」
「当たり前だ。俺がこれにいくら費やしてると思ってるんだ」
「そんな、えばられても・・・」
クレーンゲームにお金を浪費するのは凄いとは思わない。
だが彼のテクニックはどう見ても凄い。
彼の無双劇は持ってきた袋がパンパンになるまで続いた。