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03 オオカミ君の本性

いったいどうしてこうなったんだろう。

今私は大垣君の家で料理を作っている。




2時間ほど前、大垣君が隣に住んでいることに衝撃を受けた。

彼は大したリアクションもなく普通に部屋に入ろうとした。

しかし、彼が扉を開けると何かが外にでてきた。

ペットボトルとチラシだ。


「やっべ」


彼はそれを拾って雑に自分の部屋に戻した。

そして何事もなかったように部屋に入っていこうとした。


「ちょっと待って!」

「えっ?」


少し大きな声を出して彼を制止した。

彼は一瞬驚いたように足を止めてこちらを見る。


「ちょっと部屋見せて」

「え、ああ、いや・・・」


大雑把な大垣君でもさすがに自分の部屋に女の子を入れるのは躊躇するのか。

単に部屋が汚いから人を入れたくないだけか。

いずれにしても私は止まらない。

大垣君の了解も得ずに彼の部屋に入っていった。


大垣君は多少抵抗を見せたが軽く制止しようとしただけで力は弱かった。


「うおっ・・・」


彼の部屋に入ると案の定足の踏み場はなかった。

特に決まったものはないが、物やごみや服などが散乱していた。


「これはひどい」

「確かにそうだね」


彼は自嘲気味にそういった。


そこからは大掃除だ。

私は何これかまわずあるべき場所に片づけていった。

彼にもてきぱきと指示を出し、ものすごい速度で片づけを進めていった。


「こんなものかな」

「すごいね、理沙ちゃん」

「まあね」


自分でもよくここまでやったと思う。

まだまだ片付いていないところもあるが、ようやく人の住めるところになった。


「本当にありがとう。お礼に…何か食べていく?」

「作れるの?」

「うーん、やったことはないけど今なら何でもできそう。

 そういえば冷蔵庫にママが送ってきた野菜があったはず」

「私が作るわよ。野菜は使っていいの?」

「うん」

「ちょっと待ってて、家から適当なものとってくるから」

「わかった」


彼はリビングに向かっていった。




そんなこんなで今私は大垣君の部屋で料理をしている。

いつもはもう少し手の込んだものだが、今日は疲れたのでなるべく簡単なものだ。

ご飯とみそ汁と肉野菜炒め。

男くさい料理かもしれないが忙しい時の私の定番だ。


「できたよ」

「ありがとう。旨そうだな」


大垣君はテレビを見ていたが、声をかけると一目散に料理をとりに来た。

彼はてきぱきと料理や食器をすぐに食べ始めた。


「うまうま。こんなうまいものひさしぶりに食べた」

「そうなの・・・大垣君でも作れると思うから自分で作りなよ」

「ええええ、無理無理。死んじゃう」

「なんでよ」


彼は勢いよく料理をかきこみ、食器を片付けてソファーにひっくり返っていた。

ほぼ初対面の私が来ているというのになんてリラックスしているんだろう。

私も早めにご飯を済ませて食器を片付ける。


「じゃあ、私帰るね」

「・・・うん」

「どうしたのよ?」

「お風呂貸してくれない?」

「はっ?」

「壊れてて水しか出ない」

「なんで直してもらわないのよ」

「頼んだんだけど、週末になるって・・・」

「だからって・・・まあ、いいわよ」

「ありがとー」


大垣君は着替えを持って私の部屋に一緒に来た。


私はきれい好きだ。

部屋をきれいにしておくのが好きだ。

だからいつだれが来ても問題はない。


「お湯溜めるから、先に入っていいわよ」

「ありがと」


お湯をためている間、大垣君はテレビを見ていた。

勝手に。

私もとりあえず一緒に見る。

大きめのソファーが一つあるのでなんとなくそこに二人で座る。

別にくっつきも離れもしない。

普通の距離だ。


「もう溜まったと思うからはいってきて」

「はーい」


彼は風呂に直行した。

わざわざ入りに来た割には15分暮らしたら上がってきた。


「もう少しここでテレビ見ててもいい?」

「別にいいけど。私が風呂に入ってるからって覗かないでね」

「はーい、わかりました」


ちょっと不安だ。

私だって女の子なんだし、男に覗かれるなんて御免だ。

もし覗いていたらちゃんと通報しよう。


「じゃあ、お風呂入ってくる。帰りたくなったら帰ってね」

「はーい」


ため息をつきながら風呂場に向かう。

よく考えてみると今日の私はどうかしている。

初対面の男を自分の部屋に連れ込むなんて

いや、連れ込んだつもりもないし、いやらしい目的もない。

ただ風呂を貸しただけだ。


一時間ほど入って風呂を上がる。

リビングの方へ行くと彼はまだテレビを見ていた。

部屋の明かりは抑えられていて、少し暗い。


「なんで暗くしてるのよ。目が悪くなるわよ」

「えっ?明るい方がいいの?」

「どういう意味?」


私は何となしにさっきのように彼と同じソファーに座る。


「えっ!」


大垣君が距離を詰めてきた。

なんとなく私は離れる。

気が付くとソファーの淵まで追いやられていた。


「ちょっと・・・」


大垣君は肩に手をまわしてきた。


・・・・・・怖い・・・・・・

動けもしない。

声も出せない。


彼は私の様子などお構いなしに頭をこすりつけてきた。

そんな無邪気な仕草に少し安堵したのもつかの間、彼は強く私を引き寄せた。


「///////////////」


声にならない声を少しだけ上げる。


彼の顔が迫ってきた。

私は目をギュッとつむり、身体を硬直させる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


それなりの時間がたったが次のアクションが起こらなかった。

気が付くと目から涙が出ていた。


「あれ・・・なんか間違えたかな」


私の動揺とはかけ離れたのんびりした大垣君の声が聞こえた。


「や、やめて・・・」


やっと言葉が出た。


「あ、ああ。ごめんなさい。

 ご飯とお風呂本当にありがとね」


大垣君はそれだけ言うと自分の部屋に戻っていった。

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