表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/124

霜履みて堅冰至る。しょうもないことでも間違いなくおおごとになるものよ。③

 (ゆう)を出るとやはり荒野が広がる。枯れた草、朽ちた木、乾いた大地を寒風が駆け抜けていく。うっすらと、道がわかるのが奇跡というものであった。

 西へ、と向かっていると二股の道に出た。士匄(しかい)はどちらに行くべきか考え足を止めた。趙武(ちょうぶ)が寒そうな顔で見上げてくる。

 ホウホウ

 一瞬、聞こえてきた鳴き声に士匄は眉をしかめた。

「ミミズク?」

 思わず言うと、趙武が首をかしげた。

「どうかしたのですか?」

「……ミミズクの鳴き声がしなかったか」

「今は昼です。ミミズクは夜の鳥でしょう。本当に、どうなさったのですか」

 趙武の困惑した声に、士匄は道を見た。ミミズクは廟の上にいる。(ひん)をする時にも屋根の上で鳴いている。死を見守る鳥である。人々の哭礼(こくれい)を見ている。道の向こうには誰の殯――通夜をしているのであろうか。

范叔(はんしゅく)! いかがなされたのですか!」

 趙武が体を掴み強くゆさぶってきた。我に返り、士匄はめまいを散らすように首を振った。空を見上げれば、重そうな雲の合間に冬の陽光が眩しい。荒野には強い風が吹き荒れ、ミミズクどころかどんな鳥の声も聞こえない。そうだ、ミミズクの鳴き声など聞こえなかった。

「なんでもない、趙孟。行くぞ」

 不安そうな趙武を尻目に、士匄はどこまでも続く一本道を歩きだした。

 痛いほどの寒風の中、二人は歩き続ける。まるで空気が薄いように苦しく、手足が痺れるように痛かった。

「申し訳ございません。あなたを巻き込んだ」

 趙武が枯れた声で謝りながら倒れた。まるで風にへし折られたようでもあった。

「これは私の責です、あなたは一人で行ってください。私は邪魔です」

 そう言い残して失神した趙武を担ぎ上げ、士匄は怒りの形相で歩き続けた。士匄は趙武を連れ戻すと決めているのだ。邪魔であるが、放り出せるわけがない。

「こ、の程度。わたしができぬと思うなよ」

 周囲が夕闇に溶けかけるころ、士匄は小さな小屋にたどりついた。あばら屋かと思ったその小屋は、人の住んでいた形跡があり、火も起こすことができた。ただ、扉が無かったため、適当な板でふさいだ。

 翌朝、朝日に照らされた小屋の周辺は、バッタの死骸だらけであった。

「蝗害か。気持ちの良い眺めではないな。捨てられた邑ということか」

 士匄は吐き捨てると、嫌々井戸の水をくみ上げた。蝗害のおそろしさは、草木のたぐいは全て食われることである。穀物はもちろん、それが家屋であろうとも。井戸の傍には木があり、それを支柱としててこの原理でくみ上げる。全てが食われた中、()()()()()()()()()()()()()()()()

 起き上がってきた趙武も、蝗害の惨状に眉をひそめた。

「最近、周で蝗害が起きたのでしょうか」

 干害、水害と並ぶ凶悪な災害である。本来なら、各国に知らせている。

「私も周都の近くで蝗害が起きたとは聞いていない。我が晋と周は接している、他の東国もだ、起きていれば影響がある。つまり小規模に終わり、冬になって収まった」

 士匄の言葉に趙武が、ほ、と安堵の息をつく。

「被害が少ないまま終わったなら、安心ですね」

「――アホか。夏に大きい蝗害がくるということだ」

 士匄は苦い顔をして吐き捨てた。趙武が蒼白な顔をして、俯く。――その直後、

 ――キョウキョウ

 甲高い声が聞こえ、士匄と趙武は同時に振り向いた。捨てた犰狳(きよ)が、一途に追いかけてきたらしい。趙武がかけより、その珍獣を抱え上げた。

「范叔。食糧が来てくれましたね!」

 士匄は、趙武の発想に少々ドン引きしたが、屠るのも調理も全て任せ、肉にありついた。珍獣の肉はそれなりに食える味であった。

 水を確保し、餓えをしのいだ二人は、邑をあとにした。

 冬の陽光は鉛のような雲の合間で漏れ、時折眩しい。枯れた草や朽ちた木々の間、冷たく硬い土の上を寒風が駆け抜けていった。

次話明日。みんな大好きループ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ