表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3るの怪  作者: 森三治郎
9/21

特異の日(2)

 「清美さん、大丈夫かい」

うなされていた清美さんが、薄っすらと目を開けた。

「うっ・・・・あっ、王子」

「王子?」

「あぁー、悪霊退散!」

清美さんは浅間(あさま) (とおる)を指差して、なにやら怒っている。

「何だよ、悪霊って、退散だって、酷い言い草だな。頭の打ち所が、悪かったんじゃねえか」

「まあ、まあ」

僕は、亨を後ろに押しやった。

「気付いた。どれ、傷を見せてごらん」

白石先生が、清美さんの後頭部を診た。

「コブが出来てる。痛む?」

「ズキズキするけど、痛みは引いた。もう大丈夫だわ」

「錯乱してるようだから、医者に診てもらった方がいい」

「しっ、シッシッ、静かに」

「ったく、俺はニワトリじゃねえぞ」

何でだろう。似た者同士なのに、亨と清美さんはいつもいがみ合う。

「冗談でなく、病院で精密に診てもらいましょう。事故当初は大丈夫と言ってた人が、夜中に急変して亡くなった例もあるわ。脳のことは、用心しないと」

「でも・・・・」

「用心に越したことはないわ。私の車で送るわね。水橋くん、担任に知らせといてね」

白石先生は、僕らを保健室から追い出し、ケイタイを取り出した。


 「あ~、ラーメンがふやけてしまった~」

部室に戻ると、清美さん騒ぎで作りかけのラーメンが伸びて、ふやけて(つゆ)も見えない状態になっていた。

「俺のパンと交換しないか」

『う~ん、どうしよう』捨てちまおうかと思っていたら、亨が交換を申し出た。

「俺は、ふやけたラーメンが好きなんだ」

不得要領の僕を見て、言い訳がましい言い方だった。

「そうか、悪霊は悪食なんだ」

「バカ野郎、そんなんじゃねえよ。話せば長い。子供の頃、安達(あだ)太良(たら)山で遭難しかかった事があったんだ。一日中歩き詰めでクタクタで腹ペコで。そんな時、遭難者救助騒ぎで作りかけのラーメンを放ったらかしにしてふやかした人がいた。それを貰って食ったんだよ。旨かったんだな。まさに、『空腹は最高の料理人』だなあ」


 亨は、ふやけたラーメンを旨そうに食っていた。僕は『空腹は悪食を作る』という言葉が浮かんだ。

と、ガラリと引き戸を開け、山本が入って来た。

「すごい。お祭り騒ぎだ」と、手にしたスマホを開いた。

ツイッター、スバル新聞に『昴神社、参拝途中の清美嬢転倒、保健室に運ばれる。即、病院へ直行』とあった。そして、リツイートがたくさんあった。

『清美さん、大丈夫か』

『心配ない、彼女は見るからに不死身だ』

『めでたい、学校あげて祝福しよう』

『清美さん、付いているのか付いて居ないのか』

『参拝したい気持ち分かるわ』

『不思議だ。なぜ彼女がモテるのか。謎だ』

『先越された、悔しい』

『なぜって、それは多分、幼いころから彼女を見慣れているから、免疫が出来ているのだろうよ』

『早く結論を出して、気になって、気が散ってしょうがない。勉強に身が入らないわ』

『久野くんを応援するぞ、頑張れ』などなど。


 「大丈夫かい。こんな大騒ぎして、知らないぞ」

「ん~、一度火が付くと止まんない」

と、突然引き戸が開き見知らぬ生徒が入って来た。

「これ、頼まれた」

届けられた紙片を開けると、『放課後、昴神社で待つ。久野 竜一』とあった。

「おお、これ果たし状じゃねえか」

「そんな、時代劇の見過ぎだ。ただのメモだろ」

「どっちにしても、嫌だな~、僕は暴力ざたは嫌いだ」

「俺が助太刀する。心配するな」

「益々、時代劇みたいだ」

「説得、いや、まず話し合いだ。時代錯誤はよしてくれ」


 鳥居をくぐると、両脇に杉木立がそびえ否が応にも結界に入ったのを感じさせる。そのまま進むと、本殿前の広場に出た。本殿前には、後ろに手を組む久野がこちらを見ていた。

用心深く、ゆっくりと進む。間合いは徐々につまり、2メートルの距離で対峙した。

突然、『バッ!』と久野が動いた。僕はとっさに防御の体勢をとった。恐る恐る目を開けると、目の前にプルプルと揺れる赤い花があった。久野は片膝を付いて、花束を捧げている。

その時、ワラワラと人がわき出し、パッパッとフラッシュがたかれた。

『あ~、また、ややこしい事になりそうだ』と思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ