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3るの怪  作者: 森三治郎
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廃校愛宕山中学校の怪(2)

 陽が落ちれば夜だ。ここはテレビも明るい照明も無い。夜らしい夜だ。何もやることが無いので、寝ようということになった。が、三人とも眠れない。

「枕が変わったせいか、眠れない」

「っていうか、こんな時間に寝てないぞ」

「ヒツジでも数えろ」

「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹、ヒツジが三匹、ヒツジが四匹、ヒツジが五匹・・バカか、ええい、よけい眠れん」

「学校へ行ってみないか」

「でも、姫川さんが・・」

「そ~と、見学するだけだ」


 三人は、夜の細道を歩いた。ガコガコ、ゲロゲロとカエルともカジカとも分からぬ、鳴き声がする。山からはホ~ホ~とフクロウらしい、不気味な鳴き声も聞こえて来た。

田舎(いなか)の夜は、意外とにぎやかなのだな」

学校の方からは、キ~キ~と戸のきしむような音が微かに聞こえている。

「なあ、止めようよ。姫川さんも行くなと言ってたじゃないか」

「何だあ、亨は顔に似合わずコワいのかよ」

「そんなことはないが・・・・」

そうこうするうち、学校に着いてしまった。校舎の巨大な影が睥睨(へいげい)するかのように不気味だ。

突然、『ギャーギャー』と音がして、何かが『バサバサッ』と飛び立った。

「ひええぇ~」

「しっ、何てえ声を出すんだ。バカが、鳥だ、鳥」

「薫は怖くないのかよ」

「あのな~、いつもコワい顔が近くにあるんだ。コワい何て感覚が、マヒしてるさ。そう、亨、お前のことだよ」

「うう、ウソだあ。俺のせいじゃない」

「だったら、誰のせいだというんだ」

「それは~、岩淵(いわぶち) 清美(きよみ)とか沼田 恵美(めぐみ)あたりのせいだよ。清美なんか、東大寺南大門の(こん)(ごう)力士像(りきしぞう)みたいな顔してんだぞ。夜道でバッタリ出会ったら怖いぞ」

「うむ・・・・」

「否定しないのか、ひどいじゃないか。かりにも、あれでもオンナだぞ」

「何言ってんだ。お前が言ったことだぞ。僕は、東大寺の金剛力士像なんて言ってない」

「同意したじゃないか。ん・・・・守はどうしたんだろう」

「ほっとけ、奴は、女の匂いでも嗅ぎつけたんだろう。まったく、女とみれば見境がないんだから。そのうち、()ギツネにでもたぶらかされる」

二人は木製の土留めの、小さな階段を上がった。

「ふふふふ・・・・」

「何だ、その不気味な笑いは」

「いや、亨と清美が結婚したら、どんな子が生まれるだろうと思ってね」

「バ、バカ野郎―!、そんな恐ろしいことを言うんじゃない」

「しっ、大声出すんじゃない」

「薫、言霊(ことだま)を知らんのか。言霊とはな、発した言葉が霊力を持つようになり、言葉通りに具現化するというものなのだ。例えば、明日の遠足行きたくないなと思い『雨よ降れ』と言ったとする。当日、雨降りなら『雨よ降れ』と言ったせいだとなる。これが、言霊だ」

「そんなの迷信だろ」

「そう、迷信だ。しかし、縁起が悪いという言い方をするだろ。例えば『ジジイ、死ね』と言ったら、本当に死んでしまった。言った本人は、寝覚めが悪いだろ。そして、周りからは猛烈に非難される。仮に人質事件があり、テレビのコメンテーターが『死んでもしょうがないじゃないか。それより、突入して事件の早期解決をはかるべきだ』と言ったとして、本当に死者がでてしまったとしたら、そのコメンテーターは猛烈な批判を浴びる。なぜか、それは、悪い言葉を使うと、悪い事を呼び寄せてしまうからだ。日本人は意識していないが、そういう思い込みをもっている。それが、言霊といわれるものだ。日本人は言霊の信者なのだ。

だから、縁起が悪い程度のレベルの言葉でも言ってはならない。それが、『死ね』などとだったら、なおさらだ。絶対言ってはならないのだ。だから、俺と清美が結婚して子供が生まれるなどとは、冗談でも言ってはいけないのだ」

「ふむ・・・・」


  


 目の前に、大きな木製の引き戸があった。校舎はⅬ字型をしており、南向きの長い方の平屋の中程に引き戸はあり、そこが出入り口らしい。

「む、むむ、シブい」

亨が『ガラガラピッシャーン』と引き戸を開けた。

「バカ、何て音立てるんだ」

「悪い。戸がシブかったんだ」

中は暗く、ペンライトとスマホの光に土間と下駄箱が左右にあり、その先に廊下があった。暗い廊下は長く続いている。左側は教室らしく、2年1組との表札がぶら下がっていた。

「クツ、脱がなくていいのか」

「脱ぎたきゃ脱げ、行くぞ」

薫は右側を行く。と、1年1組との表札がある。教室を覗いた。次に家庭科室の表札がある引き戸を、少し開け中を覗く。

「まるで、空き巣だな」

「探検家と言え、バカめ」

薫は次の教室を開けると、スルリと入って行った。見ると、資料室とある。亨も続く。

「うわー!」

「しっ、ウマだ。落ち着け、はく製のウマだ」

入り口近くに、ウマがいた。不審者を咎めるように、ギロリと目玉が光っていた。心臓がバクバクいっている。『落ち着け、たかがウマだ』と、亨は胸に手をあて深呼吸した。隣にスマホの弱い光の中に、タカだかワシのはく製があった。その脇に、とぐろを巻いたヘビがいた。

「ひええぇ~」

亨は飛び退き、ドタン、バタン、ガシャンと何かを倒し、後ろに倒れた。

「あ~バカが~、たかがヘビとかカエルとかのホルマリン漬けだろ」

大小さまざまなビンの中には、とぐろを巻いたヘビとかガマガエルやトカゲがいたのだ。

「何て気味が悪いんだ。心臓に悪い」

「しっ、静かに。今、何か動いたような気がする」

「今度は何だよう。怖いから、もう帰ろうよ~」

「ええい、落ち着け。怖いことなんかない。あそこのスミの方だ」

確かに、何か黒っぽいものがうごめいている。

「いいか、落ち着け、伏せろ、しゃがめ。慎重にな。なに、ネコかタヌキかアライグマかもしれん。刺激しないように、慎重にな」

薫は、ペンライトをゆっくりと右に振った。薬品などの入ったガラス戸棚が見え、ホルマリン漬けのヘビやカエルが乏しい光に不気味に浮かび上がった。ペンライトの光は残像を残し、トリ、ウマ、出入り口を照らした。

「いいか、逃げ口はあっちだ」

光は左側に移り、大きめの机が並んだスペースへと移動した。机の上には、鍋、釜、ざる、包丁などが雑然と乗っていた。亨がぶつかり、散乱したお膳やおたまもある。光がゆっくりと移動すると、衝立(ついたて)があった。衝立の向こうに、何かが(うごめ)いている。

薫がゆっくりと立ち上がり、衝立をどけた。

「わっ!」

「うわー!」

声に驚き、逃げようとしたが動かない。

「何かに掴まれた。動かない」

「落ち着け、掴んでいるのは僕だ。それより、これを見ろ」

薫が、むりやり亨を前に出した。

「うわー」

恐ろしい顔が、正面から睨んでいる。

「うわー」

「落ち着け、正面のコワい顔は、お前の顔だ」

良く見ると、見慣れた顔だ。我ながらこんな状況下では、凄い不気味な顔だ。

「鏡だよ。カ、ガ、ミ。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』だ。大丈夫、お前なら幽霊の方が怖がってくれるよ」

その時、廊下を駆ける音が、遠く聞こえてきた。だんだんと近づいてくる。



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