表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3るの怪  作者: 森三治郎
4/21

江戸川暁総合病院の怪(4)

  浅間 亨


 悲惨な状況は相変わらずだ。しかし、始まりがあれば終わりがある。この混乱も、いずれは収束するだろう。だけど・・・・俺たちは、どうなるのだ。そもそも、ここで生活できるのか。親の扶養で高校生やってるが、それが無くなれば働くのか。だけど、どうなのだ。住所不定、身寄りなし、自称高校生・・・・ダメだ。自分でも分からないのに、他人に俺たちの状況を説明出来ない。う~む。そんなことを考えながら、二人がかりで負傷者の手当をしていた。

そんな時、少し離れた院長の所へ警官とボロボロになったおじさんが訪ねて来た。何やら、板塀がどうのこうのと言っている。

「コワい顔の男が何度も家に来て、わしとこの板塀をメリメリ引っ剥がして持ってっちゃった。わしは家の下敷きになって身動き出来んかったんじゃが、それより、なにより怖くて怖くて声を出せんかったんじゃ」

「ああ、コワい顔の学生さんですね。それは、申し訳ないことをしました。なにしろ、こんな状況でして、骨折者も多くて私が板を探してきてくれと頼んだのです。本当に申し訳ない。謝ります」

「いや、そんな・・・・」

「ところで、その学生に話を聞きたいんだが」

「はい。ああ、君。コワい顔の学生さんを見なかったかね」

「それでしたら、さっき向こうで患者さんに包帯を巻いていましたよ」

・・・・ったく。コワい顔で通用するのかよ。俺は、目の前の男をねめあげた。黙っていろと、人差し指を唇にあてると、男は呆れる程に怯えている。手振りで向こうに運ぶぞと指示したら、コクンコクンと頷いた。

「そ~と、ゆっくりとだ」


 待合室を出ようとしたら、薫がいた。

「おい、薫。まずい事になった。逃げるぞ」

「どうした」

「官憲に目を付けられた。見つかれば『(かに)工船(こうせん)』の小林 多喜二(たきじ)になっちゃうぞ」

「亨、文学部に入らないか」

「何を言い出すのか、バカが」

「いまどき『蟹工船』の小林 多喜二を知ってるなんて、そうそう居ない。文学部に入れ」

「断る」

「何で~」

「文学部に清美(きよみ)とか恵美(めぐみ)とか居るけど、清らかでもないし、美に恵まれてもいない。文学部が何といわれているか、分かっているのか、ブスの巣窟と言われているんだぞ。そんな所へ俺が入ったらどうなる、化け物クラブになっちゃうぞ」

「うん、そうだな~」

「そうだな~じゃねえだろ~。否定しろよ!」

・・・・ったく、デリカシーの無い奴だ。部長のくせに。俺はふやけた薫の面の皮を、「この~」と両手で引っ張った。

「はひゆう~はひひゅ~、ええい、面倒くさい奴だ」

そこに「ヘンタイー」と叫ぶ声が聞こえた。見ると、白衣をひらひらなびかせ、怪鳥(けちょう)のようにピョンピョンと飛び跳ねながら来る奴がいる。守だった。

「どうした、、守」

「逃げよう」



「待てー!ヘンタイー、ニセ医者―!」の叫びに追い立てられるように、三人は待合室を出て暗い廊下を走った。

「何だ、どうしたんだ」

「ヘンタイ、ニセ医者の疑いをかけられているんだ」

「正体がバレたのか」

後ろからは、警官やら凶暴な女やら遠山さんやらが、集団で「待てー」と追いかけて来た。

「正体がバレたわけじゃない。・・・・ったく、そもそもあいつらに、俺たちの正体が分かるわけがない」

三人は、ぺたぺた、ぺったんぺったん、しゃかしゃかと必死に廊下を走った。暗い廊下を、右に左に右にやみくもに走っていたら、非常口の表示があった。

「あった、非常口だ」

非常口の扉を開けると、『カッ!』とまばゆいばかりの昼光があった。



 「こちら、病院前交番の佐藤。江戸川暁病院、西棟裏の非常口で異様な風体の挙動不審者三名を確保、応援願います。どうぞ。あ~、こらー、待てー」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ