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3るの怪  作者: 森三治郎
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沼田 恵美の受難(6)

9、革命の戦士


 私たちは、アジトを出て保線路を歩いた。地下鉄の駅へ出たら、切符を買い電車で移動しようとの計画だ。

しばらく歩くと、保線路の窪みの所から怒鳴り声が微かに聞こえてきた。

鉄扉に耳を寄せて聞いていると、数人の足音がして、それがだんだんと近づいてくる。

私たちは窪みの奥へと移動した。

唯野さんの背中が密着している。緊迫した状況なのに、なんかヘンな気分だ。

人数は5人ぐらい、「ったく」「頑固者めっ」「あいつは、もうダメだ」とか、誰かに対して怒っているようだった。

皆が黒っぽい感じの、普通っぽい服装の人たちだ。だが、地下で活動している時点で普通の人たちではないはずだ。怪しい人たちだ。

怪しい人たちは、ガヤガヤと仄暗い闇に消えた。

しばらくジッとしていたら、タタタタと足音が近づいて来る。懐中電灯らしい明かりが揺れながらカーブの向こうから来るみたいだ。『マズイ』電灯で照らされたら、一発でバレる。

私たちは扉の向こうへ逃げ込んだ。

入ると奥の方の電灯が付けっぱなしで、中は多少カビ臭いものの意外と整然としていた。

ロッカーの陰に隠れていると、足音が近づいて来てガチャガチャ音がして、やがて足音は去って行った。

足音が消えたので、そろ~と出てみると、奥の方で床をこするような衣擦れのような気配がする。慎重に進むと、老人がさるぐつわをかまされてイスに縛り付けられた人がいた。

少し躊躇したものの唯野さんは、さるぐつわを解いた。

「あなた何者?」

「あんたらこそ何者じゃ?」

「通りがかりの者です」

「ええっ!、こんな所を?」

「ええ、いろいろ訳がありまして。あなたは?」

「う~ん、説明すると長くなる。学生運動を知っているかな、1970年代の革マルとか中核派とか。その生き残りだよ」

「ええっ!」

唯野さんは絶句した。私は何のことか解らない。

「ほほう~、地下に潜って生息してたわけですか。ふ~む」

「生息って、人を天然記念物みたいに言わないでほしいな~」

「ああ、失礼」

「取り敢えず、この縄を解いてくれ。後はおいおい説明する」

私たちは取り敢えず、この老人の縛めを解きここを脱出することにした。


 私たちは保線区から地下鉄の駅へ出て、駅で切符を買い地下鉄に乗った。

私は眼鏡にマスク、帽子で唯野さんの後ろに隠れるように、目立たぬようにしていた。

多少駅員に不審がられたが、「切符を無くしたので、買いたいのだ」と言うと素直に券売機まで案内してくれた。損失が出るなら問題だが、正規の料金を払いたいというなら多少疑いがあっても、お客様だという意識があるのだろう。

地下の活動家は下重 昭一と名乗った。歳は62だそうだ。

本当は、親父の活動だったのだ。俺はその親父に洗脳され、気付いたら革命員のメンバーになっていたんだ。2代目だね。今のメンバーは殆ど代替わりしている。これは一種の宗教組織のようなものだね。との、説明だった。

「これ、反対方向なのでは」

「うん、下重さん。俺たちの行く方向とは違うんだけど」

「うん、だが今あっちに行くと危ない。奴らに見つかる。見つかったら大変だぞ~。秘密を守るためなら、平気で人を殺す連中だからな。取り敢えず溜池山王駅の2号倉庫に行こう。あんたらは、そこから地下鉄なり地上にでるなり好きにすればいい」

「地下には危険がいっぱいなのね~」

「不思議もいっぱいだ」


 溜池山王駅から保線区に降りしばらく歩くと、くすんだ鉄扉があった。

「ここからは、重要な秘密事項となる。命に係わる機密事項だ。あんたたちは知らなかった事にして、引き返した方がいい」

「え~、ここまで来てぇ~」

「秘密の革命組織だ。いわば軍隊だ。人間の殺し方の訓練をしている連中だよ。一般常識は通用しないよ。好奇心は人を殺す」

下重さんが脅してきた。

私たちは顔を見合わせた。危険な組織らしい。恐ろしくもある。現に怪しげなカルト教団につかまり、私は切り刻まれそうになった。恐ろしい。だけど、見てみたい。危なくなったら、素早く逃げればいい。

「もう関わりあいを持ってしまった。下重さん、見せてください」

「そうか・・・・・」

下重さんはギチギチと鉄扉を開け、照明をつけた。通路の奥に広い空間があった。空間の中には仕切りがあり、仕切りの中に頑丈そうな棚があり、大小の箱があり、中央にはこれ又頑丈そうなテーブルがあった。

下重さんは大きめの箱を開けた。中には、重そうな機関銃がぎっしり詰まっていた。

「おう!」

「あ~!」

下重さんは機関銃を取り出すと、ゴトリと机に置いた。隣に

弾倉も置く。

「戦争でも始めるつもりですか」

「我々は革命戦士だよ」

「でも、今の日本で革命なんていっても・・・・・」

「そうなんだ。今の日本は堕落している。これだけ不正、腐敗、堕落が横行してるのに、誰も立ち上がろうとしない。デモさえも起こさない。選挙にも行かない人が多い。

多分、食うや食わずのホームレスに銃を持たせても、立ち上がらないだろう。堕落して安逸(あんいつ)(むさぼ)っている平和ボケさ。

三島由紀夫が事件を起こした頃は、気概のある者もおったんだが・・・・・」

「う~ん、今の日本じゃムリでしょうね」

「うん」

「ところで、これだけの設備、装備、軍資金は何処から出てるのですか」

「うん、そこなのだが」

「ああ、秘密なんですね」

「うん」

下重さんは首肯したが、なぜかもじもじした感じで話ししたがっている様子だ。


 「お茶でも淹れようか」

「それなら、私が淹れます」

「ああ、ありがとう。気が利くねえ。あそこに厨房室があるから」

私は下重さんの指すパーティションで仕切られた所に入り、お茶を用意した。

組み立てイスに座り、淹れたてのお茶タイム。長閑な感じだが、目の前にあるのは、黒光りする重そうな機関銃と弾倉、拳銃、手りゅう弾、違和感大ありだ。

「君は神主かなんかかい」

「どうして、そう思うのですか」

「なんとなく、そして君は巫女」

(あた)らずと(いえ)も遠からず、かな~。下重さん、鋭い。

「それより秘密にしますから、話してください。もう、ここまで来たら全てを知っておきたい」

唯野さんが水を向けると、下重さんは何かが決壊したように話し始めた。

「我々のリーダーは、元々大金持ちの息子だった。そいつは金儲けの才覚があったのだ。

あんたたちも知っていると思うが、某大ゲームメーカーのソフトを製作してた。

何のことはない、我々が目指していた革命のシュミレーションをそのままゲームにしたら、大当たりしてしまったのだよ。奴は利殖にも長けていた。株、金、土地に投資して元々の大金持ちが又一回り大きい大金持ちになった。我々の活動資金も奴から出ている。もちろん、奴、津山 真治がリーダーだ。奴がいなかったら、我々のグループはとっくにバラバラになっていたと思う」

「そんな~、それは革命家の同志グループじゃない。資産家とその取り巻きだ」

「ただの同好会グループじゃないの。ただのお遊びだわ」

「その通りだ。途中から気付いたんだが、始めからそうだったのかも知れん」

「何で~、気付くの遅すぎ。何でそんなものが続いていたのかな~」

「活動資金として、かなりの額を貰っていた」

私たちは顔を見合わせた。何の事はない。ただのお遊びのグループだったのだ。革命が聞いて呆れる。もう想像はつく、津山氏がどうかなったのだ。仲間割れが起こったのだ。資金源をめぐっての醜い争いだ。

「津山さんがどうかなったのですか」

「死んだ」

「それで~」

「醜い争いの勃発さ。金の延べ棒をめぐっての争いだ。『革命は』と言ったら、寄ってたかって縛りあげられたってえ訳だ」

「革命の看板を変えた。投げ捨てたわけだ」

私たちは又顔を見合わせた。このはみ出し者、厄介者ドン・キホーテとどう向き合うべきか。『放っておけ』と私は首を小さく振った。唯野さんが頷く。

「俺たちは関わり合いたくない。革命でも、宝探しでも好きにしたらいい」

「申し訳ない」

下重さんは、机に頭を付けるようにして謝った。

「我々の事は、忘れてくれ」

「これから、どうするんですか」

「地上へ出て、何処か旅にでも出るかな。温泉巡りもいいな~」

「呑気な事を、警察は知っているのですか。公安は」

「ほとんど、活動らしい活動はしなかったから、知らないんじゃないかな。恐いのは元の仲間さ」

「ふ~ん」




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