沼田 恵美の受難(2)
移動空間は極端に狭かったり、比較的広かったり、天井が突き抜けていたりとバラバラ、チグハグだった。腰の袋と背中のリュックに何が入っているのか、けっこう重い。
太い水道管や電力や通信ケーブルなどが走る狭い通路で、唯野さんは立ち止まった。見ると鉄製の扉がある。唯野さんは、袋から潤滑油缶を取り出し扉の枠に沿って吹き付けた。
ギチギチと音を立てて扉が開くと、下水が流れている空間に出た。両側に狭い通路が何処までも伸びている。
唯野さんは、通路の窪みに進んだ。その先はかなり狭い。その先から「メエ~、メエ~」と鳴き声が聞こえる。ガヤガヤと人の声もしていた。
唯野さんは、そろりそろりと暗がりを進む。狭い空間から、広い空間に出た。
剥き出しの配管の前に、大きなロッカーがあった。唯野さんはロッカーの上から内視鏡みたいな物を出して、覗き偵察を始めた。
モニターには、薄暗い空間に黒い影がうごめいているのが映し出されていた。
繋がれたヤギが居た。その周りに、頭に目と口だけをくりぬいた黒い三角頭巾を被り、黒いローブを纏った怪しい人間が沢山うごめいて居た。何かの儀式が進行中らしかった。
「カルト教団の巣窟みたいだな」
「不気味ね、怖いわ」
ギラリと牛刀みたいな刃物が光り、「メエ~」と鳴くヤギの喉が切られた。吹き出る血がバケツに受け止められた。
『アッ!』と息を呑む唯野さんと私に向かい、怪人の一人がくるりと向きを変え向かって来た。怪人は私たちの前を通り過ぎ、やがて出口付近の灯りを付けた。気付かれなかったのは幸いだが、出口が塞がれたかっこうだ。見咎められずにここを出るのは、そうとう難しいだろう。
「どうするの」
「う~ん」
唯野さんは、私の背中のリュックから棒状の物を取り出し、カシャンカシャンと組み立てた。そして、小さな弁当箱みたいな物を腰の袋から出し、線を繋いだ。
「いいか。これで奴を倒す。そして素早く、ここから逃げるんだ。いいか」
「うん」
唯野さんは、怪人の背後にまわりスイッチを入れた。二又の先端からババババッ!と放電が飛び、怪人の後頭部を突き刺さした。バリッ!と音がして、煙が上がり「ギャー!」悲鳴を上げて怪人は昏倒した。
「それっ、行くぞ!」
私たちは、怪人の横をすり抜け走った。
「今のは、何?」
「害獣撃退器。スタンガンて有るだろ、それの獣用のスタンガン」
4、秘密結社 サバト同盟
木曜礼拝の最中に悲鳴が上がった。生贄のヤギの血を抜いている儀式の時、k師が悲鳴を上げたらしい。『何事?』と皆が駆けつけると、タタタタッと走り去る人影が見えた。
「追え!」
咄嗟に2号と3号が応じ、駆け出した。
「N師さま、指示を」
「うん、儀式は中止。生贄と血は冷蔵庫に保管。k師さまの回復を待って事情を聴く。これからの行動を協議する事とする。用意を急げ」
幹事のN師は不安気に佇む会員たちに指示すると、盟主のk師を抱き上げた。
「k師さま、大丈夫ですか」
k師は、気を失っているらしい。
「ダメです。逃げられました」
2号と3号が帰って来た。
「ローブと三角頭巾では、思うように走れません」
「うん、仕方ないな」
「逃げて行ったのは、黒っぽい服装の二人組です」
「必死に追ったのですが、何せこのローブと頭巾では思うように走れません」
「うん、ところで1号はどうしたのかな」
「1号は、糖尿が悪化して安静、加療中です」
「うむ、修行が足りないな。もっと、研鑽をしないと」
N師と会員がやり取りしてると、突然盟主k師が「う~む」と言葉を発した。
気が付いたようだ。と、突然ガタッと立ち上がった。
「我、神の啓示を受けり」
一同、呆然と見上げると
「今こそサバトの決行の時、同志よ心してかかれ」
「何言ってんだ」
「どうしたんだ~」
「頭の打ちどころが悪かったんかな?」
私語が囁かれる中、ガタッと今度は幹事のN師が立ち上がった。
「素晴らしい!。覚醒されましたなk師さま」
「うむ」
「一同、心して刮目して見よ。k師さまが覚醒された」
「おおー!」
幹事N師に乗せられたかっこうで、一同は立ち上がり、拳を突き上げ鬨の声を上げた。
取り敢えず、不審者二人組の捜索を二人一組となって行う事となった。
各人がトランシーバーを携帯し、アジト周辺を徹底して捜索せよとの事だった。
「トロいのはさ~、このローブと三角頭巾のせいだよなぁ。こんな格好で素早く動けるはずないよ~。相手がよっぽどトロい奴じゃないとな~」
「うん、そうだよな」
2号と3号が、ボヤキながらも捜索に当たっていた。
「ん、あれは・・・・・」
「俺たちよりもトロい怪しい奴」
2号と3号は、倒れている不審者を発見した。2号が難なく確保した。
「こちら3号、怪しい不審者を発見。どうぞ」
『おー、でかした。確保したのか』
「はい、確保―」
『良くやった。直ちに引っ立てて来い』
「了解しました~」




