沼田 恵美の受難(1)
地下は不思議がいっぱい、秘密がいっぱい、危険がいっぱい。
1、転落 沼田 恵美
私は沼田恵美、江戸川昴高校二年生。同じクラス2年2組に浅間 亨、水橋 薫、山中 守、通称『3(さん)る』が居た。その中の一人、水橋 薫が部長を務める文学部があり、恵美はその部に所属していた。その部には、同じ2年2組の岩淵 清美も所属していた。
清美は女子高生離れをしたイカツイ顔をしていて、東大寺南大門にある金剛力士像に似ているといわれている。ちなみに私はウマズラハギと呼ばれているらしい。そのせいか文学部はブスの巣窟と陰で言われている。非常に心外なのだが、私も同類と見なされているのだ。
水橋 薫は長いまつ毛、パッチリしたお目々、長く優美な眉、スーッと伸びた鼻りょう、ややなよっとした感じの優男、イケメン。その親衛隊が清美と私とになっているらしい。
他の入部希望者を阻止しているのは清美なのだが、私も同類と見なされている。心外だ。
五月の晴れた日の帰り道、昴高校内にある大きな池、その先に広がるこんもりとした森。
その池の周りの遊歩道に、丸い毛球のようなものが動いていた。犬かな?と、思ったが違うようだ。私は誘われるように、後を追った。
謎の獣は、森の中にある昴神社の階段を駆け上がって行った。
うっそうとした木立に覆われた社殿の陰に、謎の獣は走り込んだ。
昴神社はひっそりと静まり返り、厳かな雰囲気の内に不気味な様相を帯びている。
昴神社には良くない言い伝えがある。昴神社にお参りを含めて迷い込んだ者は、大学受験を失敗するとか、成績が下がるとか、失恋、不祥事、突発事故など禍々しい事態が降りかかってくるとのことなのだ。
祟り神の神社と言われて、誰も訪れる者はいない。何度も『引き返そう』と頭をよぎったが、何故かふらふらと迷い込んでしまった。獣は禍々しい様相を見せる社殿の奥へと、走り込んだ。
奥へ廻ると木型を組んだ枠があった。井戸らしい。木のフタが有り、腐って一部破けていた。
恐る恐る覗いて見る。暗くてよく分からない。フタをずらして良く見ようとした時、フト気配を感じ後ろを振り返った。獣が背後に迫っていた。
「きゃー!」と悲鳴を上げた私は、バランスを崩しフタを破って奈落の底へと転がり落ちた。
『あれっ、何処だろ?』私はベットに寝ていた。何か夢の続きのような、確か丸っこい獣を追って昴神社の裏まで行ったような。『そうだ、井戸に落ちたんだ』それが、なぜベットに?。
「気がついたかね」
「・・・・?」
私は下着姿・・・・・すると、このオジさんが・・・・良からぬ想像が目に浮かんだ。
「イヤ~!」
「待って、俺は何もしてない」
「だって、女子高生を下着姿に」
「それは・・・・・だったら、ほっといた方が良かったのかな。一応、俺、君の命の恩人なんだけど」
「・・・・・」
愕然とした。私は命の恩人を、ただのスケベ親父と思ったのだ。私はベットの上に正座し、オジさんに向かって「大変、失礼をしました」と深々と頭を下げた。
「君、姿勢がいいね。いや~、元気そうで良かった」
対面には、灰色の上下のジャージを着たオジさんがいた。その足元に丸くうずくまって居るのは、カピバラだった。ここは昴神社の地下、オジさんは神主?。昴神社に神主が居た何て聞いた事が無い。
疑問符が、頭の中を駆け巡っている。
無精ヒゲを生やしたウサン臭いロン毛のオジさん、カピバラ、昴神社下に在った異様な空間。
「ここはね、戦時中作られた地下要塞の一部なんだよ」
私の疑問に答えるように、オジさんが説明を始めた。
「言わば、絶対の秘密事項なんだよなあ」
「・・・・・えっ、すると私は口封じで殺されるの」
「そんな~、テレビの観過ぎ。そんなヒドイことしないさ。でも、秘密は守って欲しいなぁ」
「・・・・・どうかな~、もし守れなかったら?」
「う~ん、君の秘密をバラす」
「え~、私にそんな秘密なんて無いよ」
「だったら、作ればいい。例えば、俺が君を犯すとか」
「え~!」
「あははは、冗談だよ。冗談」
「・・・・・」
笑っているが、丸っきり冗談とも思えない。
2、地下の住人 唯野 由人
井戸に転がり込んだのは、昴高校の女生徒らしかった。気を失っている内に、学校外に捨てれば良かったかもしれない。学校内でも良かったかも・・・・。思わず介抱してしまったが、今からでも遅くない、眠り薬を飲ませて眠らせて移動させようかと思っていたが遅かった。躊躇してた分遅くなってしまった。
目覚めてしまった。今後はどうなることやら。
女高生は周りを物珍しく見渡していた。
「そんなかっこうでは何だから、制服が乾くまでこれを着てるかい」
俺は灰色の上下のジャージを渡した。下着姿で居られては、目のやり場に困る。
「これを・・・・・ジミね」
「それしか無いのでね。ところで、俺は唯野 由人、君は?」
「はい、私は沼田 恵美といいます。昴高校2年2組の生徒です。この度は、助けていただいてありがとうごさいました」
彼女は、再び正座で礼をした。
「ところで唯野さん、ここで暮らしているんですか。何してらっしゃるのですか。いつから?。仕事は何をしてるのですか。それから」
「そう、いっぺんに聞かれててもなぁ。少しずつ説明するよ。それから、沼田さんではよそよそしいから恵美さんでいいかな」
「構わないけど」
「恵美さん、コーヒー飲むかね」
「ええ、ありがとうございます」
少し、興奮してたかもしれない。何十年か振りの面と向かっての対話だ。しかも、相手はうら若き女子高生だ。その女子高生、恵美さんはここの地下の世界にいたく興味津々らしく、つい案内すると言ってしまった。
ますます、事態は良くない方向へと向かっている気がする。
3、地下迷宮案内 沼田 恵美
地下空間は、想像以上の広がりがあった。
「地下は主に表層部分と中層部分と深層部分に分けられる。表層部とは、家庭の地下室からデパートの地下食品売り場、それから地下鉄の駅など多くの人が目にする地下だ。中層部は、公的、私的の研究機関や政府の安全保障施設かな。それと地下鉄、電力、水道、ガス、通信などの公共インフラなど。それから、大深度地下は聞いたことがあると思うが大規模地下貯水槽など、それとここにも地下鉄や自動車専用道路の計画もある。それらは、繋がっている場合が多い。通信や電力線、上下水道などを介してだがね」
「ふ~ん、地下の世界があるんだ。アリの巣みたいだね。それにしても、何か臭いね」
「地下だからね。カビの匂いや、下水の匂いさ」
唯野さんは、鼻をクンクンさせた。
「地下は広いよ~、何処までも広がっている。地下には世間に知られていない秘密も、いっぱい埋もれているんだよ」
「わあ~すっごい~、ねえ、見学出来るの?」
「う~ん、出来るけど。大変だよ」
「大丈夫よ。体力はある方だし」
「それじゃ、ジャージを用意しよう」
唯野さんは、黒っぽい灰色の上下ジャージとその色に近いキャップ、それにリュックを用意して着替えるよう促した。着替えて居間空間に戻ると、唯野さんはなにやら鏡に向かって化粧をしていた。パッと振り向いた。
「ワッ⁉」
「どうだい。似合うだろ」
真っ黒い顔をした唯野さんが笑っていた。黒い顔面に目だけが目立って、実に不気味だ。そして、怪しい。
「私も塗るの」
「当然。それから、髪もまとめた方がいい。輪ゴムならあるよ」
私はさして長くもない髪を後ろで束ね、顔グロの化粧をした。
「どうかな」
「うん、良く似合う」
褒められたのかな、嬉しくもあり悲しいようでも。それから、腰には工事現場で使うような幅広いベルト、ぶら下がる袋の中には何やら色んな物が詰まっている。それを付けて、完全武装だ。
「カピは留守番な」
カピバラは柵内に押し込められた。
「さあ行こう。冒険の始まりだ」




