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3るの怪  作者: 森三治郎
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山本和也は(2)

 いつの間にか、僕らは一緒に暮らすようになった。「結婚しよう」「実家の両親に会ってくれ」と言ったが、麗さんはいまいち乗り気でない。女の方が、こういう事には積極的だと思うのだが。麗さんは「そのうちね」とお茶を濁している。

何か、麗さんの感情の起伏が激しいような気がする。躁鬱病(そううつびょう)の気があるのかも知れない。

突然、麗さんが犬の耳のような飾りをするようになった。そのまま、平気で外へ出る。もともと、人の事など斟酌しない人だったがかなり目立つ。変人っぽい。理由を聞くと「ここに磁石が入っていて、頭が冴えるのよ」と言っていた。

突然、今度はバッハみたいな髪型になった。音楽室にあった、あの大バッハ、ヨハン・セバスティアン・バッハだ。違和感がある。麗さんは何処へ行こうとしているのか。夢の中で、ドスンドスンという音がする。昼、何気に見たら、居間の壁が2ヶ所少し凹んでいた。間隔は15センチか20センチくらい。原因は何なのだろう。借家なのにマズイな。夢で聞く、ドスンドスンという音と関係あるのかな。


 晩飯の時、異様に喉が渇き大量にビールを飲んだ。何か頭が朦朧(もうろう)としている。それでも、尿意を催し、寝床を出た。朦朧とする意識の中で、例のドスンドスンという音が聞こえる。見ると、麗さんがバッハ髪を振り乱して壁に頭を打ち付けている。微かに髪の隙間から突起物らしいのが見えた。余りの異様さに僕は、失禁、そして意識を失った。

朝、起きて見ると何事もなかったようにいつもの通りだった。失禁の跡も無い。あれは、夢だったのか。



 「何してるの」

「背中にコンニャク」



 会社でぼや~としていたら、課長に厳しい叱責をくらった。疑惑が黒雲のように次々とわき上がり、仕事に身が入らない。僕は体調不良を理由に早退した。

麗さんの勤めているという赤羽の『地域動物防疫センター』に行ってみようと思った。

スマホの住所ナビで行くと、『地域動物防疫センター』などは無かった。そこには、どんよりとした水を湛えた池があった。電話してみたら『現在その番号は、使われておりません』との音声案内が流れてきた。いったい麗さんは毎日、何処へ勤めていたのだろうか。


 背筋にぬるっと冷たい感覚がはしった。

麗さんの生活にも、謎が多い。色んな種類の草をベランダで陰干ししていたり、大型冷蔵庫に訳の分からない食材をぎゅうぎゅう詰め込んだり。大きな肉のブロックもあった。タッパー類にも、何かドロドロしたものが入っている。

脇の普通の冷蔵庫には、飲み物類や普通の食材が入れてあって普通に使っていた。。

麗さんは、あまり凝った料理など作らない。大型冷蔵庫の食材は何処へ行ってしまうのか。


 麗さんが席をたった隙に、晩飯をコッソリと捨てた。余りにも、僕は不自然なほど寝つきが良すぎるのだ。麗さんを疑いたくはないが、確かめてみない訳には行かない。

麗さんと僕は始めから寝室は別々だった。もんもんと寝返りを打ちながら、あれこれ考えていたら、いつしか眠りについたらしい。

ふと、ガタンという音で目が覚めた。台所の方で、何やらクチャクチャと音がする。抜き足差し足で、そろ~と台所に近づくとスモール電球の下で麗さんが肉を食っていた。良く見ると、何か変だ。手がシンクの方に向いている。テーブルには大量の肉が皿に盛ってある。

変わった食べ方をしてるな、と思った。いや変だ。麗さんは後ろ手で掴み、肉を後頭部へもっていく。肉は後頭部へ消える。ふと、頭が揺れ後頭部が見えた。後頭部にはギザギザな歯がはえた真っ黒な口があった。肉はその口に消えていた。

余りの禍々しさに、ガタンと尻餅を付いた。まずい、気付かれた。

麗さんの動きが止まり、ゆっくりと僕の方に振り返った。



 「何で文学部に・・・・」

「そのまま、神社前のベンチに寝かせて置いたらまずいでしょ。凍死はないと思うけど、風邪をひくかもしれないし。それに、土曜の午後は文学部ぐらいしかあいてないし・・・・」

「まあ、構わないけど」



 「うわぁぁ~」

美しい麗さんの顔が、鬼の形相に変貌していた。僕は後ろ様に倒れていた。


 「何よ、私の顔がそんなに恐ろしい。失礼しちゃうわ」

良く見ると、岩淵 清美さんだ。怒っている。やはり、恐い。

ああ、トラウマになりそう。


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