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3るの怪  作者: 森三治郎
11/21

ペンギンが(2)

 再度、パーティション内での話し合いが始まった。

あんなに被害を受けたのに、ペンギンと水橋への視線は温かかった。まるでアイドルみたいに、入れ替わり立ち代わり写真を撮りに来る。そのくせ、俺たちへの非難の視線が厳しく険しいものがあった。

「分かった。説明出来る範囲で話そう」

こいつは確信犯か、と思った。ボンボンみたいな顔して、一筋縄ではいかぬ奴だ。俺は説明をした。もっとも、捜査は初動段階で、秘密らしい秘密も無い。そのまま、今ある総てを話した。

「で、最重要容疑者は離婚も考えていた夫婦仲が最悪の容疑者の妻、安西 ゆかり。それと、店主と不倫が取り沙汰されているアルバイト店員の坂口 明奈。そして、金銭トラブルがあった出入りの業者牛島 義雄の3人だ」

「そうすると争った形跡があり、現場にこのペンちゃんの足跡があったんですよね」

「そうだ」

何だろう。生々しい現場を説明したのに、それ程動揺してるふうには見えない。刑事ドラマの見過ぎか。ペンギンを膝に乗せ、缶コーヒーを飲んでいやがる。

「だったら、このペンちゃんは案外凶暴だから、飼い主が攻撃されていれば、自分も攻撃したかも知れない。関係者の足を調べ、噛みつかれた傷があれば、そしてペンちゃんの足にルミノール反応があれば、現場にいたとの証明になるのでは・・・・」

「ん・・・・そうか!、そうだな!」

重要な手掛かりだ。俺はすぐさま散らばっている捜査員たちに電話をかけ、重要容疑者ならび関係者の足に傷の有無を確認させた。そして、傷のある人物を見つけた。

「すぐ、任意で引っ張れ」

傷のあった人物は重要容疑者の3人でなく、店主の妻の父、瀬川 康夫だった。

「傷のある人物が見つかったよ。水橋くん、引き続き協力してくれないか。まず、鑑識でペンギンの(くちばし)の型を取る。そして、足のルミノール反応だ」

「いいですよ」

「阿部さん、あとを頼む」

「はい」

もう、昼食の時間だったが飯を食っている場合じゃなかった。瀬川の到着を待ち、ただちに取り調べに掛かった。大至急と言っておいた鑑識からの報告も上がっていた。

「争った最中、ペンギンに足を噛まれたろう。その傷と、ペンギンの(くちばし)とを照合してみるかい。ペンギンの足からルミノール反応も出ている。現場にいたペンギンだということだ。そのペンギンに噛まれた傷だな」

瀬川は、項垂(うなだ)れたままだった。

「お前が殺ったんだな」

「はい」

あっけなく落ちた。後はスラスラと自供した。凶器も自宅に隠したと吐いた。この種の事件としては、異例の早期解決だ。それも、自白、動機、証拠、きれいに3点セットが揃った会心の出来だ。



 パトカーで送ってもらったら、家に母さんがいた。パトカーから出て来た僕を見て、とっさに息子が何か悪い事を仕出かしたらしいと思ったようだ。気が動転して、青い顔をしていた。

続いて出て来た阿部さんが説明をしようとしたが、どう説明していいか分からなかったようだ。口をパクパクしていた母さんは、僕が抱いていたペンギンが動き出したのを見て「きゃー」と可愛らしい悲鳴を上げ倒れかけた。阿部さんが、それを支えた。

「取り敢えず、家に入って良く説明してあげないと・・・・」

母さんを家に運び込み、ソファーに落ち着かせると阿部さんがお茶を淹れてくれた。お茶淹れは慣れているらしい。朝からの出来事を丁寧に話すと、顔を上気させ「あら、まあ~」と母さんはようやく納得してくれたようだ。問題はペンギンだ。

案の定、大学生の姉の朋実が帰って来て、居間のテーブルにペンギンが乗っているのを見て「何のぬいぐるみなの」と触ろうとした。と、「ガルルル~」と威嚇され「きゃー」と悲鳴をあげると、またペンギンがバタバタと騒ぎ出し、湯呑を蹴飛ばし、急須を落とし割り、調味料を散乱させ悲鳴が飛び交った。

「ペンちゃん、おいで」

僕が呼ぶと、ペンちゃんは僕の足にすり寄って来た。

「何なの、それ~」

当然、避難は僕に集中する。姉にも最初から説明するはめになった。

「ところで、悪いんだけどスーパーで生魚を買って来てくんない」

「何で私が行くのよ。自分で行けばいいじゃない」

「僕が行ってもいいけど。それじゃ、ペンギンをここに置いとくことになるよ。ペンギン抱えて買い物に行ったら、変人に思われるかも知れない。アブナイ人と警察に通報されるかも知れないよ。いいのかい」

「朋実、買って来なさい」

「分かったわよ。お金」

「領収書を貰ってきて、警察に請求してみる」

まったく、と姉はプリプリしていた。

「薫は、ブスに好かれ、オカマに好かれ、今度はペンギンか。人の道から外れてるんじゃないのか」

どこかで聞いたようなセリフだ。



 署長から褒められた。管理官からも褒められた。盆と正月が、一緒に来たような気分だ。

これも、ペンギン使い水橋くんのお蔭かなと思う。ペンギンの預かり先は、阿部さんが遅くまで残業して見つけたようだ。今から、水橋くんとペンギンを拾って神奈川の水族館へ行くのだ。

「ありがとう、君のお蔭だ。事件が早期解決して、署長から褒められたよ」

「いや、僕じゃないですよ。ペンちゃんが(かたき)を取ったんですよ」

車は湾岸道路357号線から1号線へ、ちょっとしたドライブ気分だ。

これが、ペンギンの噛み痕を知らなかったら、どうなのだろうと考えたらゾッとする。


 水族館には、同じ種類ペンギンが大勢いた。アデリーペンギンというのだそうだ。混ざるとたちまち分からなくなった。それでも、水橋少年がガラス塀に手を付けるとペタペタと寄ってきた。ガラス塀越しに手を重ねると「ウルルルル~」と悲痛な叫びを上げたのだ。


 帰り道、学校はどうすると聞こうと後ろを見たら、水橋少年は静かに涙を流していた。


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