一般大学生、力を振るう
今日は14号館で講義だった。もちろん原田も隣に座っている。
「どうしたんだよ、世界に絶望したみたいな顔して、SchoolDaysでも一気見したのか?世界だけに!?」
つまらん、ただ、世界に絶望しているのは確かかもしれない。
朝から講義を受けて、学食でカレーを食べて、15号館に移動して午後の授業が始まるのを教室で待っていた。
『今日は18時に三田駅で大丈夫だよね?ちょっとはお洒落してくること!!笑』
彼女からのLINEだった。絶望していた俺の世界はバラ色に染まっていった。
『もちろんだよ!!楽しみすぎて昨晩眠れなかったよ!!!笑』
俺の茶目っ気をアピールしておく、可愛いな、俺。
(キモっ、ダダって彼女と連絡するときニヤついてるからキモいんだよなぁ)
12時56分に俺のGiftが戻ってきた。
突然だった、LINEを送ってニヤニヤしていた俺に原田の心の声が聴こえてきた。
ダダってのは俺のことで、中学の頃から高田大智の苗字の最後と名前の最初を取ってダダってあだ名になっているんだが原田、そんなこと思ってたんだな、ちょっと悲しいぜ。
今日もチャンネルを開いたり、範囲を調節したりとGiftのトレーニングに集中して授業は全く聞いていなかったが、まぁ原田が助けてくれるでしょう。
15号館は大型の教室しかないので300人くらいの生徒1人1人で練習していたが、やはりどうも聴き取れない生徒もちらほらいるし、これだけ人が居ると特定の1人の心だけを聴き取ることは難しかった。
次の授業も終わり、俺は早稲田駅から大手町駅に向かっていた。
三田駅に行くための乗り換えが必要だからだ。
もちろん車内でもチャンネルを開いて閉じて、Giftのキャパを広げられるように訓練していた。FF2みたいに使えば使うほど強くなっていく成長システムであることを願っている。
(もう死にたい、いつまでこんなことさせられているんだ、俺はもうこんな生活したくない)
三田線のホームでこんな心の声が聴こえた。直接死を求めるような声を聴いたのは初めてで怖い。
(いっそ線路に飛び降りたら死ねるかな、痛いかな、苦しいかな)
これはまずい、誰がこの声を発しているのか特定して止めなくては、
彼女とのデートに遅れてしまう。
いた、あいつだ、40代くらいの小太りのおじさんだった。
まぁでもホームドアがあるから飛び降りはしないだろうと安心していたのだが、おじさんはひょいと飛び越えてしまった。いつでも飛び降りることができる所に立っているが、駅員さんも近くにおらず、他の乗客は皆スマホを見ていて気づいていない。
「おじさん、ダメだよ、戻ってきなよ」
おじさんの近くに歩み寄り、声をかけた。
「ははは...疲れちゃったんだ、ごめんね...」
おじさんは飛び降りた。
俺は手を伸ばしておじさんの袖を掴んで引き止めたが、運動不足の俺が引き上げられるような感覚はなかった。アナウンスが入り、電車の近づいてくる音が聞こえる、まずい。
「離してくれよぉ」
俺は離さなかった、どうにもならないかもしれないが、力任せにおじさんの腕を掴み直し、両手で引き上げてみたら
おじさんは飛んだ
比喩ではなく、本当に飛んだんだ。そして弧を描いてホームに着地した。
おじさんも、周りの人も、俺もびっくりした。
俺とおじさんは駅員室に案内されて、一部始終を駅員に報告した。
「き、君はなんで僕なんかを助けたんだい?」
報告が終わり、駅員室の前でおじさんに声を掛けられた。
「おじさんの心の声が聞こえたような気がして、死にたいなんて思っちゃダメですよ」
あ、まずいかな、こういう能力って隠しておかないと研究機関で検査されたり、闇の組織に追いかけられたりしそうだよね、隠しておこう。
おじさんは目を丸くして質問を続けた。
「心が読めるのかい?いつから?このことを他に誰か知っているかい?」
おじさんは慌てていた。俺の才能が羨ましいのだろう、気持ちは分かるが興奮したおじさんは同性でもキツイものがあった。ただ、もうボロは出さない、俺はごく普通の大学生を演じなければね。
「心が読めるというか、仕事終わりっぽい人がホームドア飛び越えたら、なんとなく、自殺しようとしているんじゃないかなって、そう思っただけです。違っていたらごめんなさい。」
「そうか、そうだね。こちらこそ違っていたら申し訳ないが、もし、君が心が読めるのであれば、それは誰にも言ってはならない。そして、ミドリムシに近づいてはならない。今日はありがとう、君はすごく力持ちなんだね、僕100キロ超えてるのに持ち上げられるなんて思わなかったよ。」
そう言っておじさんは消えていった。確かにすごいパワーだった。自分の力とは思えない、これが火事場の馬鹿力ってやつか、いかん、三田駅に向かわなければ!!!!!
時刻はすでに17時50分でギリギリ遅刻しそうだ。三田駅を走って待ち合わせ場所に向かった。
「待ち合わせ忘れちゃったかと思って心配したよ~」
「ごめん、怒ってる?」
「全然だよ~私もギリギリに着きそうだったから、ちょうど良かったよ~」
(遅刻するとかまじでありえないんだけど、高校生の時から遅刻グセ治ってないし、奢ってくれなかったらまじでキレそう)
ああ、聴かなきゃ良かった。でも、心が読めれば対策が講じられるのでは?ポジティブに考えよう。なにより、彼女を楽しませよう。
今日あったことなど、たくさん会話した、心が読めるのって恋愛において最強なのでは!?彼女の機嫌はすっかり良くなっていた。